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第2話 僕、地図を見るみたい

 超越種がこの都市に最接近したのが、この国の最東端に位置している見張り台。そして、超越種が前触れもなく死んだ。


 そんな単純で詳しいことがわからない報告が齎されたのが、初夜の儀式から2日経った今日だった。


「と、このようになりました」


 どうして超越種が突然死んだのかとか、そこら辺は正直どうでもいい。

 だって……最東端って何よ?

 僕の知らない言葉が多すぎてついて行けないのだ。どうしようもない。


 面倒臭そうに報告しに来た人を見ていると、メリエルさんに小突かれた。


「もう少しマシな態度はできないのか」


「いや……わけわかんない報告は報告って言わないし……この国本当に大丈夫なの?」


 というか、僕以外は理解できているのだろうか。

 そもそも、僕には前提条件の情報すらないからわからないだけで、他は違うのかもしれない。


「……大丈夫だろう、たぶん」


 たぶんって言っちゃったよ、この人。

 詳しいことは後で国王……一応、僕のお父様になるのだけど、聞けばいい。


 それから、報告を終えたのか、近衛兵の中でも連絡兵と呼ばれる人が謁見室から出て行き、部屋の中には王族とその他メイド長たちだけとなった。

 ……わざわざお父様に聞かなくても、メイド長に聞けばいいかな。


「それでは、これで解散とする」


 お父様が言ったことで、僕たちは新しく2人で生活できるように移動した部屋へ戻った。

 付いてくるメイドは、ユンとパトリシアで、執事はライオネルの合計3人となる。メイド長は誰の専属でもなく、フリーのメイドとなっているようだ。


 メイド長にもお父様にも聞くことができず、仕方なく僕の専属となってしまったパトリシア……シアに聞くことにした。


「シア」


「ひゃいっ」


 メイド長以外のあの場にいたメイドたちは僕を忌避し、近寄ろうとすらしないので、僕たちが来る前に終えていたメイド試験で合格した、半年後からの勤務となっていた人を雇うことになったのだ。その中で、シアは1番成績が低かったらしい。

 それでも合格したのだからできるはず。

 そう、思っていた。

 昨日、初めて会うまでは。

 セミロングの白髪にくりっとした翡翠の瞳。前髪は短く、おでこを広く見せている。目尻の下がった目はドジっ子を連想させ、事実、今のところその通りの印象だ。


「少し、この世界のことを、この国のことを教えてくれない?」


「わ、わかりました!」


 シアやメリエルさん付きメイドのユンといった、他数名の新しいメイドたちは僕のしたことを伝えられていない。ただ、この浮遊城で何かがあったことしか知ることができないのだ。

 けれど、執事は別だ。彼らはタフな精神力をしているのか、辞職する人は出ず、僕のことも表向きは普通に接してくれている。内心どう思っているのかは、知るすべがない。


「少々お待ちくしゃい!」


 いくらなんでも酷すぎる……と頭を抱える僕の悩みの種はいつ消えてくれてくれるのだろう?

 そんなことを思っている時、


「きゃっ」


 可愛らしい悲鳴が聞こえたかと思えば、部屋を出て行こうとして扉に激突したらしい。


『ひ、開いてくださいっ』


 おでこを抑えながら言い、閉めることをせずにどこかへ走って行った。城内は徒歩のみしか許されていないのに……。

 そのあと、10分ほど待っていると息を切らしたシアが戻ってきた。その手には小さなチップのようなものが握られている。


「お、お待たせしましたっ」


「城内は走ったらダメだよ。よく誰にも見つからなかったね」


 苦笑して言うと、シアはあっけからんと僕の言葉を否定した。


「い、いえ、その、メイド長に見つかりました、よ?でも、大丈夫です。見つかっても、二度目に見つからなければ問題ありません」


 確かにその通り……なのかな?

 僕の中でいろいろなことが音を立てて崩れそうになったので慌ててシアの言ったことを忘れるようにする。


「それで、何を持ってきたの?」


「あ、はい。こちらはこの国の地図となります!」


 そんなものがあったなんて……。

 シアの持ってきたチップのような地図を見て、ユンが顔を顰めた。


「シア、それ、昔の地図じゃないでしょうね?色が違うと思うのは私の気のせいかしら?」


「えっ?えっ?……あぁっ、ほんとだ!あぁぁ……」


 詳しく聞いてみると、現在の地図は茶色で、昔の、吸血種に追い詰められるようになるまでの地図は焦茶色らしい。

 暗いところとかで見ると違いなんてわからないだろう。

 僕は仕方ないと思い、昔の地図にも興味があったため、それを使っての説明をしてもらうようにお願いした。


「か、かしこまりました。ありがとうございますっ」


 どうやって地図になるのか、と思って見ていると、チップを部屋の広いスペースのところに置いて、シアが少し離れる。


『起動』


 と呟いただけでホログラムが浮き上がった。突然浮き上がったものに驚きを隠せない。


「おおっ」


「では、説明させていただきますね」


 シアが説明し、抜けているところをユンが補足する。

 ライオネル……ネルとメリエルさんは興味を示さず、ただ黙ってその様子を見ていた。

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