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第3話 僕、勇者と出会うみたい

 さんさんと太陽の光が降り注ぐ午前中、僕たちは再度冒険者ギルドに来ていた。


 事の始まりは、朝早くに宿の扉をノックされたことから始まる。



「リステリア様。お客様が来られてますがどうされますか?」


 宿の店主が控えめなノックをして問いかけてきた。

 僕は隣に寝ているミスティをそっと離し、扉に向かって返事をする。


「今行きます」


「では、食堂でお待ちになっています」


 宿の店主が離れて行くことを探知魔法で確認し、念入りに周囲に何もないかを確認する。結果、何も怪しいところはなかった。


 僕はいそいそと寝間着から普段着に着替えを済ませ、2階にある借りている部屋から出て1階にある食堂へと向かう。

 そこに座っていたのは見たことが無い人物だった。


「おはようございます。あなたがリステリアさんですね?お噂はかねがね」


 僕も朝の挨拶をしてから小首を傾げる。

 噂ってどこまで広まってるんだろう、と。

 それを察知されたのか、食堂で待っていた女性が挨拶をしてくれる。


「私はティルノです。王都から来ました。王都でも、あなたたちのことはとても有名ですよ」


 屈託のない笑みを浮かべ、そういう様は僕に警戒心をなくすほど純粋なものだった。


「王都…?情報の伝達早すぎない?」


 僕たちの秘密を知っている宮廷なんとかの、名前は思い出せないがその人が伝えたのであればまだついていないはずだ。あれが僕たちの秘密を一つ暴かれた時だったからあれ以外にないと思っていた。

 そうだとすればもっと前かな?と思ったけどそれはすぐに振りほどく。

 もしあの人が通常よりもはやい手段で移動できたのであれば是非教えてほしい。


「王族直属の情報屋や魔術師、近衛兵などは通信の魔術具を持っています。まぁ、物体も転送できますが、それは詳しくは言えません」


 つい「おお」と心の中で思ってしまう。通信の魔術具があれば確かに距離はあまり関係ないだろう。そうだとすれば通信圏内まで走っていったのかもしれない。


「それで本題ですが、あるお方たちと共に行動をしてほしいのです。その方たちの実力は宮廷魔法師や宮廷剣術師に匹敵しますが、まだ経験が浅く心許ない。宮廷の付くものたちを王都からあまり遠ざけるのはよくないですし、他にも多くの仕事を抱えています。そこで冒険者ギルドで依頼を出すことにしたのですが、実力がある人はほぼ引退か専属契約をしています。条件にあてはまる人がいないか、ということであなた方が選ばれたということになります」


 言いたいことはわかる。確かに、宮廷なんとかを王都から長期間離すわけにはいかないだろう。それで冒険者ギルドに依頼を出すというのもまだ納得できる。

 でも、どうして僕たちが選ばれたのか甚だ疑問だ。他にもAランクはいるし僕たちよりもベテランの人はいくらでもいる。確かに強さに関してはトップレベルなのかもしれない。けど、僕たちは若すぎるのではないだろうか。


 そんな僕の考えを読み取ったようにティルノが口を開いた。


「若いからこそです。あなた方が若くしてその力を手にしているとなれば、意地でも強くなることに努力を惜しまないでしょう」


 本当に努力するのかどうか気になるところだけど、ティラノさんがそういうなら試してみるのもいいかもしれない。でも、そのお方たちって誰なのだろう?


「ミスティと話してみて、ミスティがよければ行きますね。昼までに来なかった場合は諦めてください」




 その後、僕はミスティと話し合い、ミスティが許可を出したので冒険者ギルドへと来ている。


「よかった。来てくれたんですね」


 奥の部屋に通され、まず最初に目に入ったのはティルノさんだった。ティルノさんは心底ほっとしたようで笑顔に少量の涙が合わさり男であれば一目ぼれするほどの表情をしている。


「はい。それでその人たちが?」


 ちらりと彼らを見ると、全員が黒髪で黒目…まるで見慣れた日本人のような風貌だ。


「そうです。紹介しますね」


 とティルノさんが前置きをした後、一人ずつ自己紹介が始まった。


「俺がこの勇者パーティのリーダーだ。黒崎玲(くろさきれい)だ」


「私は回復担当の常盤真(ときわまこと)。よろしくね」


「私は前衛?かな。木下明菜(きのしたあきな)よ」


 3人の自己紹介が終わり、最後の一人へと目を向けると心底めんどくさそうな顔で自己紹介を始めた。


「…俺は坂上来希(さかがみらいき)だ」


 簡潔に自己紹介を済ませた彼・坂上来希が握手を求めてきたので左手で応じる。

 その瞬間、坂上来希の右手が腰にかかっている剣を取り、僕に切りつけてきた。


 咄嗟に刀を抜いてそれを華麗に受け流し瞬時に間合いを詰めて彼の首筋に刃を当てた。


 彼はそれが信じられないようで驚愕した目でみている。


「これで実力はあなたたちより上だってことがわかった?いきなり切りつけたのは驚いたけど、これなら安心して任せられそう」


 ティルノさんは嬉々とした表情でそう言って、まるでこうなることがわかっていたかのような口ぶりだ。

 僕はひとまず、刀を首筋から離しそっと鞘に戻した。


「それで?勇者って?」


 名前で全てわかったと思うけど、一応聞いておくべきだろう。これからのことに関わるのだ。


「先日、魔領域を探索していた冒険者が「魔王が復活した」という情報を持ち帰ってきたのです。千年に一度、数千年に一度現れるという魔王を倒したのは文献によれば召喚魔法で異世界から勇者を召喚していたということが判明したので、そういうことです」


 最後は適当に締めくくり、ティルノさんは「後は任せます」と言って部屋を出て行ってしまった。

 大体わかっていたことだけど、それにしてもこんな人たちを無責任に押し付けられたのかと思うと頭が痛くなる。


 くらくらする頭のまま、ミスティに「結界を常時展開、それなりの強さで」と囁いておく。

 僕は受け流せたけどミスティはまだ無理かもしれない。特に接近戦などやったことはないはずだ。なので、念のため結界を展開させておく。


「えーっと、それで私たちのことを魔王との闘いまでに鍛えてほしいのよ。十分強いと自分たちでは思っているんだけどね」


 自分で自分のことを強いと言えるのはすごいと思う。謙遜が取り柄の日本人では珍しい人種だ。


「そうですか…じゃあとりあえず、明日の朝西門を出たところに来てください」


 今日はもう解散させることにして、この人たちとはあまり関わりたくないけど、引き受けてしまった以上最後までやり遂げなければならない。


 出来るだけ、勇者一行には魔法を見せないようにしよう。


 一度、宿に戻ったらミリアナとお別れをしないといけないな、と思いミスティを引き連れて宿に戻る。




 ミリアナに事情を説明し終えたミスティは悲しそうな顔をしているけど、仕方のないこと。僕はミスティとミリアナが二人で王都に行ってもいいと言ったのだけど、ミスティは僕の方を優先してくれるみたいなので厚意に甘えさせてもらうことにした。




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