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第2話 僕、女の子に転生したみたい

 目を開くことが出来ず、耳にも何も音が届くことが無い空間にぽんと放り出されたような気分を唐突に味わうこととなった。

 けれどそれは一瞬のことで、懐かしいようで初めて味わう感覚に戸惑いを隠せなかった。

 体をふわりと柔らかく包み込み、尚且つ暖かい弾力のある何かに包まれている気がした。

 時々この空間が圧迫されることもあるけれど、それも一時のことで我慢していればどうということはない。


 いつしかそれらの感覚は消え去っていき、気が付いた時にはもやっとした不鮮明な視界の中、非常に聞き取りづらいけれど確かに何かが聞こえる。

 その何かは一生懸命大声で伝えているようで、真剣味を帯びていた。

 そして自然と胸の中が熱くなっていき、両の瞳から涙がぽろぽろと零れていることが分かった。

 どう止めようと努力しても無駄なようで、それは一向に収まらない。

 そんな僕とは正反対に周囲の不鮮明な声は圧迫感のあるものではなく暖かい何かへと変わっていた。


 そんな中、深い深い眠りへとつくこととなった。

 次に目が覚めた時、視界はぼやけながらも近くなら問題なく見えるというところまで来ていた。

 顔にふにふにとした柔らかい何かが当たっていることに気付いて、確認してみようと思っても出来ない。そこへ1人の男性の顔が映し出された。


 僕の目の前で変顔をして笑わせようと努力しているこの男性を見れば、今までのこともすっきりとする一つの結論が現れた。

 ―――転生

 どうやら僕は、転生してしまったらしい。

 そう認識したら後は早かった。

 今僕を抱いてくれている女性が母親で、ずっと顔を覗き込んできている男性が父親なのだろう。父親は金髪に薄い黄色の瞳をしていて超美形だ。

 異世界転生というと黒髪は少ないけれど、僕は黒髪の方が好きで、これは日本人特有なのかもしれない。母親の方は後から気付いたのだけど、アイドルよりもかわいい田舎の女の子⋯⋯というのが第一印象だった。

 それが僕の理想像で、顔立ちは元より髪の長さも適度に似合う長さで、そして胸は大きすぎず小さすぎない――超好みの体型でもあった。


 父親と母親は違う髪の色瞳の色で、父親が金髪に対して母親は銀髪であり、父親が薄い黄色の瞳に対して母親は澄んだ蒼い瞳だった。


 それからは羞恥と辛い思いの連続だった。

 よく転生物で「尊厳がなくなった」というような表記があったけれど、まさにその通りだ。

 僕も例に漏れずその道を通った。何が辛かったかと言えば、迂闊に喋ってはならないことと、立って歩く練習だろう。

 迂闊にしゃべってしまえば悪魔の子、とか言われて捨てられるかもしれない。

 もしすると神童だとか言われるかもしれないけれど、それを望んではいない。

 そして歩く練習が鬼だった。筋肉が十分についていないからか膝が生まれたての小鹿のようにぷるぷると震え、それでも頑張って足を踏み出してみればコケる始末。

 コケた時が一番体にダメージを負っていたと思う。


 それでもなんとか練習を繰り返し、数か月ほどではいはいと呼ばれるよちよち歩き、更に数か月経った頃には立って歩けるようにまでなっていた。

 1歳になった頃、今世のお父さんとお母さんに連れられて村の集会でお披露目をされた。集会場所は村長の家である。

 でも、知ってる人しかいない。どうやらこの村は閉鎖的であまり外からの人を受け付けないという。

 それでもお父さんは外から来たというお母さんと恋愛結婚をしたのだからつい尊敬してしまった。

 知ってる人しかいないのにどうしてお披露目をするのかというと、1歳まで生き残れる可能性は極めて低いらしく特別な年だそうだ。


 因みに、この村に名前はない。

 名前もないほどに辺鄙で辺境の場所に位置している小さな村であり、たまに来るお母さんのお父さん⋯⋯つまり僕から見ればお爺ちゃんに当たる人がここまで行商人の真似事をして物品を届けてくれるらしい。

 そんなこともあってか、お父さんとお母さんの結婚は例外として認められたとも言っていた。

 この村には約20世帯が住んでおり、自然が豊かで作物の栽培や獣の狩りで生計を立てている。

 ほぼ自給自足が成り立っている中でも、少しは行商人に頼らなければならない必要なものとかもあるのだ。


 この閉鎖的な雰囲気と村の美形揃いを見てもしかして、と思ったけれど耳が尖ったりはしていなかった。

 それにエルフなら緑の髪に緑の瞳が一般的だしね。

 それでも森の中で閉鎖的というところで期待を膨らせてしまい、僕のささやかな希望は見事にへし折られた。


 ある日、お父さんとお母さんに連れられて森の奥地――村は森の中ほどにある――までやってきた。そこで見た物は僕に衝撃を与える結果となったのだ。

 ―――魔法

 この世界には魔法がある。魔力も存在している。

 それをお父さんとお母さんに魅せられた。お母さんは冒険者と呼ばれる人と同じくらいの魔力量があるらしい。

 それは行商人が扱っていれば間違いなく旅程での水などの問題がなくなるので引っ張りだこになっていただろうと話していた。

 冒険者を雇えば水を生み出してくれるそうだけど、余分なお金がかかるし性質たちの悪い冒険者だったら水を生み出すだけでお金を取られると言う。


 そんなお母さんに対して、お父さんの魔力は微弱だった。一日に一度火種を起こせるというようなもので、他の村民でもお父さんの倍ほどはある。それでもお母さんに及ばないけれど。

 でも、僕は魔力を感じることが出来ないでいた。

 もしかして魔力がないのかと疑いお父さんに聞いてみると、魔力は膨大にあるけれどまだ認識出来ていないだけだから安心しろと言われた。

 この世界、魔力を認識できるようになるまで多少時間がかかるらしい。

 多ければ多いほど早く扱えるようになるとは言われたけれど、平均が7歳と聞いて肩を落としたものだ。


 それから2年が過ぎて、3歳になった。

 3歳と言えば転生者たちは一斉に行動を開始する頃合いだ。僕も例外ではない、かどうかはわからない。

 3歳になってからはお母さんとばかりお風呂に入るようになり、お父さんがかわいそうだった。

 でも、お母さんに体の洗い方を教わって自分1人で洗うためだ。洗うと言っても水に浸したタオルのような布で拭くというものだった。

 しばらくそれが続いて、急激に湯船が恋しくなってしまいついついお母さんに聞いてしまった。

 すると、笑って答えてくれた。どうやら五右衛門風呂のようなものはあるらしく、月に一度の頻度で入ると言われた。


 それから、自分で体全体を洗うようになってからふと気づいた。

 ⋯⋯あるはずのものがない。

 これは僕の前世からの夢であり、衝撃的な事実として降ってきた。

 どうやら、女の子に転生したらしく剣と魔法の世界であること以外にもボーナスがあったとは⋯⋯と感涙したものだ。

 僕が女の子だと自覚を持った頃に、月に何度か来てくれている行商人でありお母さんの親であり僕のお爺ちゃんに、お母さんの小さい頃に似ていると言われた。

 お父さんよりも美形で可愛らしい雰囲気を纏うお母さんと似ているとなれば、これは期待できるだろう。将来はモテモテかもしれない!


 ⋯⋯男の子にはモテたくはないけれど。


 でも、理想像に限りなく近くなれるのは重畳だろう。これぞ、最強のチート転生と言っても過言ではない。

 そして、お母さんは僕が2歳の頃に1人の女の子を出産した。

 2歳離れた妹で、とても愛くるしくて肌触りはぷよぷよしていてふにふにしていて、とにかく気持ちよかった。


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