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第15話 僕、接客するみたい

 文化祭2日目が始まった。

 今日は、教室で着替えなくてもいいように寮からメイド服で来ている。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 恭しく腰をまげ、一礼する。

 もちろん店内にいるメイド全員で、だ。

 メイド喫茶となっているので、執事服を着た男子は基本裏方、人数が足りなくなれば出てくるということになっている。

 顔を上げると、そこにはよく見知った人がいた。


「よ、来たぞ」


「私も来ちゃった!」


「奈緒ちゃんのメイド服……激レアっ!」


「お前らなぁ……」


 軽い調子で挨拶をしてくれたのが来希で、実は生徒会副会長だとか言っていたのは気のせいだと思いたい。

 いや、いくらなんでも部活で会えなくなるほど忙しくなるなんておかしいと思ってたんだ。

 その理由を聞いてみたら、僕には秘密にしておきたかったとかで生徒会副会長。

 どうして秘密にしておきたかったのかは……クラスの反応を見れば大体わかった。


「ねぇ、あれって坂上財閥の御曹司で剣道部主将で副会長の……!」


 なんて声が至る所から聞こえる。

 日本有数の財閥の御曹司で、剣道部主将をやっていてしかも生徒会副会長。

 肩書きはバッチリすぎる。

 顔も、うん、僕の贔屓目を抜きにしても上の上くらいかな!

 身長は170台後半で、短髪の好青年なのだ。

 ……まぁ、そんなわけで、とにかくモテるのだ。

 来希の癖に!


 次に真が茶目っ気を出して言った時、男子、特にスポーツ系男子が沸き立った。

 真はバレー部で、エースなのだとか。

 スマッシュを打つたびに肩辺りまで伸ばしてある黒髪が美しく舞うのだそう。身長も高く、170台前半だ。

 明菜が僕のことを褒めると、明菜と僕を交互に見られる。

 明菜もまたテニス部のエースなのだとか……これらはおとといの夜に聞いて初めて知ったことだ。遅すぎる。聞くのが遅すぎる!

 そのせいで、真同様スポーツ系男子と、更にテニス部のユニフォームが可愛いと有名だそうで、女子からも尊敬されているらしい。

 明菜は僕と同じ、腰まで髪を伸ばしている。身長は僕と違って160台半ばで、ちょっと羨ましい。


 最後に、呆れたように言った玲は僕に向き直って、


「奈緒のメイド服も似合ってるよ」


 と微笑んだ。

 一気に波紋は広がり、僕は皆の視線の的となってしまった。

 剣道部の大将が来希で、副主将が玲なのだ。玲はチャラ男みたいな感じだけど、やる時はやるので頼り甲斐のある先輩として、後輩からも好かれているらしい。

 身長は来希よりも高く、180台前半だそうだ。出会った頃よりも随分と高い。

 二人はアンとメアリーのように言われている。背中を預けあい、お互いに信頼しきっていると言われているのだ。

 アンとメアリーは僕が勝手に判断しただけだけど、あながち間違ってはいないと思う。

 そもそも、この時代にアンとメアリーが伝わっているのか……。

 そんなわけで、全校生徒注目の的である4人が声をかける僕へと、自然と視線が集まったのだ。

 ん?あと1人?あぁ、有本なら、既に席を確保してるよ!

 きっちり6人座れるところで、まさか僕も座れというのだろうか。


 この教室にはカウンター席が3席、2人テーブル席が2席、4人テーブル席が3席、5人テーブル席が3席、6人テーブル席が1席となっている。

 5人テーブル席はまだ一つも埋まっていないので、まず間違いなく呼ばれるのだろう。


「いい加減座りなよ」


 有本が目が笑っていない笑顔で言うと、4人は肩を震わせる。

 実力的には有本が一番強く、また常識的判断や突発的に起こったものをおさめるのが早いのも有本だ。

 そんなわけで、有本には頭が上がらない。

 4人に声をかけ、従えて見せた有本には視線が移ると、皆が首を傾げた。

 曰く、この人誰?と。

 有本は帰宅部だけど、これまで僕と会っていなかったのは僕が忙しいことや、有本は成績が良くないので4人に合わせて猛勉強をしていたり、ということがあって、中々会えなかったのだ。

 有本は認知度は低く、同学年でも知らない人はいると聞いた。


「大変だね」


 有本の横に立ち、呟くと有本が小さく頷く。

 召喚される前からも、有本はこんな立場だったらしい。

 何故かは知らないし、興味もそれほど湧かないので聞いていない。

 来希たちが席に着くと、自然と僕が注文を受け取ることになる。


「ご注文はこちらからお選びください」


 メニュー表を出すと、食い入るように見始めた。

 大したことはないのに。


「じゃあ、俺はこのペタペタチャーハンとコーラ」


「私は〜ヌルッとおまじないとオレンジジュース」


「私は不束者ですがとオレンジジュース」


「俺は、そうだな。俺は怖いからペタペタチャーハンとジンジャエールかな」


「俺も、玲と同じで」


 来希、玲、有本がペタペタチャーハンを選び、真がヌルッとおまじないを、明菜が不束者ですがを注文した。

 正直、僕はほとんど準備に参加していないから、どんな料理なのかはわからない。

 僕も選ぶとしたら、唯一想像のできるペタペタチャーハンにしていたと思う。


「かしこまりました」


 恭しく頭を下げて厨房のところへ紙を持っていく。これを見て、調理担当が料理を作っていくのだ。


 その間にも、お客さんはチラホラと増えていく。

 他のお客さんの相手をしながら料理が出来上がるのを待つ。

 待つこと10分少しで、出来上がったらしい。

 開店して間もなく、それほど人もいなかった時の注文だからか比較的早く料理が完成した。


「これがヌルッとおまじないな」


 そう言われ、ラーメンを渡される。

 ラーメンはヌルッとしているのだろうか……。


「これはペタペタチャーハンだ」


 そう言われ、二つの小山になったチャーハンが一つの皿に乗っているものを渡される。

 二つの頂点には日本の国旗が刺さり、さながらお子様ランチのようだ。


「最後にこれが不束者ですがだぞ」


 そう言われ、肉も野菜もご飯もごちゃ混ぜにされた、確かに不束者と言えるかもしれない料理を渡される。

 ……これを出せと?


 全て運び終えると、明菜の料理を見て全員が大笑いした。

 僕は心の中で同情し、無事に食べ終えることを祈っている。



 このメイド喫茶という出し物の名前は「マジカルルンルンラブ注入っ!」となっている。

 うん、もうこれで分かってもらえたかと思う。


「では、これからこの料理が更に美味しくなるおまじないをさせて頂きます。……マジカルルンルンラブ注入っ!」


 当然、振り付けもある。

 マジカルの部分でハート形を作り、胸元まで持ってくる。

 次のルンルンで体の前で2回転させて、左胸に来たところでラブ注入するようになっている。

 正直言って物凄く恥ずかしい。誰?こんな振り付け考えたのはっ!


「ご、ごゆっくりどうじょ!」


 はぁぁ……!

 最後の最後で噛んでしまったぁぁぁ!

 恥ずかしすぎて頭が真っ白になる。周りを見ていないのに、全員の視線が突き刺さっているような気がしてくる。

 何故だかわからないけれど、涙も出てきて、もうこの場から逃げ出したい。

 そう思った時、ポンと頭に手を乗せられた。


「ほら、こんなことで泣くなよ」


 頭をなでなでしてくれたのは来希だった。

 思わず、その体に抱きついてしまう。


「ぐわっ!……ちょっとは手加減してくれよなぁ」


 そんなことを言いながらも、顔はでれでれだ。

 来希の体に顔を埋めていると、そっと耳元で囁かれる。


「今の奈緒、物凄く可愛かったぞ」


 僕はふにゃりと脱力し、来希の体にしがみ付いたままの状態になってしまった。

 なんとかして動かないと……!


「どうしたんだ?……って、大丈夫か?」


「だい、じょうぶ……じゃないかも」


 踏ん張っていた力も、来希にしがみつく力もなくなって、来希の言葉の効果になす術がなかった。

 来希に脱化されたかと思うと、そのまま膝の上にちょこんと乗せられた。

 身長差があるから、それでようやく同じ目線となる。

 かーっと体温が上がっていく。

 僕、もうダメかもしれない。


 そのあと、僕が動けるようになるまで30分の時間を要した。


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