第14話 僕、文化祭が始まるみたい
朝、目がさめるとカーテンの隙間から太陽の光が漏れていた。その光がちょうど、僕の顔辺りに注がれている。
手で光を遮断しつつ起き上がり、うつらうつらしながらもベッドから降りて伸びをした。
「ん〜〜〜っ!」
ふぅ、と息を吐いて、リビングの方に行く。
すると、そこには朝食が置いてあった。
真央はベッドにいなかったので、もう行ったのだろう。委員長をし始めてからずっと忙しく動き回っている。
時間はまだ7時半。だけど、今日と明日は8時登校となっている。
『それでは、今より神校祭を始めます!皆さん存分に楽しんじゃってください!』
女の人の声が放送から流れる。これは生徒会長らしく、僕とは無縁な人だ。
生徒会なんて面倒臭いものに入る人の気がしれない。
だけど、実際に保護者たちが入場できるのは昼からとなっているため、午前は生徒だけの文化祭だ。
そして、ほとんどの生徒が準備や最終確認に駆られる。
「なーおっ」
「ぅわっ……なんだ真央か」
「その反応はひどいんじゃない?委員長として頑張ってるのにさ」
真央が不貞腐れたように顔をそらす。チラチラとこちらの様子を見ているところがまた可愛らしいのだ。
「ごめんってば、怒らないで」
「怒ってないよ」
つーん、と真央が冷たい。
これが俗に言うツンデレか……いや、ツンツンか。
「奈緒、今日と明日は私たちはメイド服を着て過ごさなきゃいけない。女子全員、そう決まってるの」
「え?そうなの?」
「そう。だから着替えてきてね」
衣装をポンと渡され、綺麗に飾り付けされた教室内を見てみると、女子はメイド服、男子は執事服を着ているようだった。
執事服……来希にも来て欲しいな、と思いながら更衣スペースに行く。
教室内でも着替えられるように、と作ったらしい。
中にはメイド服で登下校をする人もいるとのことで、明日はそうしようと思う。
こうやって着替えるのが面倒臭いからだ。
文化祭の衣装は、届け出を出さなければいけない。そして当日はそれ以外のものを、たとえ制服であっても文化祭中は着てはいけないらしい。
手早く服を脱いで、メイド服を着ていく。そこで、背中のチャックを閉めることが思いの外難しく、苦戦を強いられる。
「ん……くぅっ……」
いや、キツイよ!これ本当にサイズ合ってる!?
1人で着ることは諦め、カーテンの隙間から更衣スペースと隣接している調理スペースに顔だけ出す。
「ん?どうしたんだ、奈緒」
そこには翔がいて、執事服で料理の最終チェックをしているようだった。調理器具の確認や食材の確認だ。
そして、真央たちの姿はない。
「あの、そのぉ……」
頼んでいいものかと、頭を悩ませる。
既に裸を見られているのだから今更だと思う気持ちと、それでも恥ずかしいという気持ちがこみ上げてきた。
「ハッキリ言えよなー、俺もチェック終わらせて……っと、他にもすることがあるんだから」
テキパキと済ませていく翔に申し訳ない気持ちが出てくる。邪魔をしているって言われたのだ。
「じゃあ、その、背中のチャック閉めてもらえない、かな……」
後半は声が小さすぎて聞こえたかどうか怪しい。
「背中のチャック?」
首を傾げて一体どういうことかと疑問を浮かべた翔は、結論に至ったのか顔を真っ赤にさせた。
「お、俺はちょっとそれはさすがに……」
「あの、お願い」
僕が頼み込むと、翔が遂に折れたようにため息を吐く。
-翔視点-
奈緒が突然背中のチャックを閉めて欲しいと言ってきた。
異性に頼むか、そんなこと。
そう思ったけど、ここには俺しかいないから仕方ないか、と嘆息する。
正直、嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが半々くらいなのだが。
「わかったよ……」
軽く頷いてみせると、奈緒は恥ずかしそうに顔を伏せて反対側を向く。
男勝りなところが今となってはあまり見られず、完璧な女の子、俺からしても高嶺の花だ。
反対側を向くと、手でカーテンを押しのけてその背中を露わにする。
白い肌で、日差しには耐えられそうもない。
それを見ると、修学旅行でのことが脳裏に蘇った。
途端、俺の下半身が元気になってしまった。幸い、反対を見ているから問題ない……問題ないよな?
「閉めるぞ」
「……うん」
腰辺りにあるチャックを掴んでゆっくりと上げていく。
白い肌を噛まないように、と細心の注意を心掛けながら。
髪の毛が邪魔だったため、一度チャックから手を離し、髪の毛をどかしていく。
左右に分けて、奈緒の肌に時折手が触れる。
その度に甘い吐息を漏らされて、更に元気になっていくのだ。
髪の毛を噛まないように再びチャックを一番上まで上げると、背中をパンと叩いて出来たことを伝える。
恥ずかしすぎて、声を出せない。
-奈緒視点-
翔が背中を叩いてくれた。一番上まで行った感じもしたので、たぶんできたという合図だと思われる。
そう信じて振り向き、
「ありがとう」
と伝えると、翔の顔が異常に真っ赤に染まっていることに気付く。
「あ、ああ。きにするな。俺は仕事に戻るからな」
そそくさとチェックに戻って行ったのをみながら、僕はメイド服を着終わった。
教室の方に戻ると、真央たちに抱きつかれたり可愛いだとか言われながら、皆も可愛いよ、とか定型文を言いつつ、僕は待ち合わせ場所に向かう。
昼までは5人と一緒に回ることになっているのだ。
来希たちと合流し、僕は文化祭1日目を楽しみ、メイド喫茶もこなして、17時までとなっている文化祭の終わりが近いのを感じながらも、メイド喫茶の仕事が終わって30分の休憩後、校内を見て回った。
明日はオフ会で、案内役を任される可能性を考量してのことだ。
文化祭1日目が終了すると、来希からメールが届いた。
「明日は俺も一緒にオフ会に参加する……」
メールを読み上げ、その内容に驚く。
そして、別に来なくていいのに、とも思う。
むしろ恥ずかしい。
ベッドに潜り込み、今日のことを思い出す。
「……翔には真央を呼んで貰えば良かったんだ」
遅まきながら気づいた事実に、僕は再度身を悶えさせた。




