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第8話 バトルロワイヤル1回戦-ベルディvsフリース-

 2人の目は驚愕に見開かれた。

 一つは、リステリアが躱したことによって。

 もう一つは、自分が発見していない敵が同じ敵を狙っていたことである。

 同時に、その場から移動する。

 リステリアが彼らのいる方向を見たのだ。

 それだけで、弾道が視認されており、位置がバレていることがわかる。


「どっちから行こうかな……」


 呟き、頭を抱える。

 どちらも視認できていない。つまるところ、リステリアにとっては攻撃圏外なのだ。

 どうすればいいのか。

 ここは一目散に逃げるべきだ。

 先の戦いによってHPも減っているし、補助パックもそれなりに消費してしまった。

 一度退いて、態勢を整えるべきだ。

 そう、これは戦略的撤退である。

 よって、リステリアは逃げを選択した。

 小惑星に一度移動し、そして、正真正銘の最高速度でその場から離れていく。

 その場に残されたの2人。

 ベルディとフリースだ。しかし、その場と言っても2人の距離は小惑星群を挟んで向かい合っている。

 スコープを覗いても、点と言えるかわからないほど小さな影。

 ベルディは、相手が攻撃型のフリースであるため、黒の武器であるスナイパーライフルを用いなければ見えないが、彼こそが所持者であり、だからこそ見えている。

 フリースは、相手が防御型であり、その機体の大きさが随一であるため、辛うじて動く点として認識していた。実際に動く点は無数にあるが、その不規則な動きはプレイヤーでなければ不可能である。

 ベルディが姿を隠すのであれば、他の小惑星や彗星のように愚直に移動するべきだった。

 そうは言っても、後の祭りである。

 ベルディはこれだけ離れた位置から狙撃できるであろう防御型のプレイヤーを思い浮かべる。


(相手は……オカリナは既に倒しているから、ニケリアしかいないな)


 対して、フリースもまた、敵はニケリアだと判断していた。

 彼はベルディを、本名までは知らないが、知っているのだ。

 ドイツ軍とフランス軍の合同訓練で、そのプレイヤー名を耳にした。

 また、軍に所属しているものの殆どが、このゲームに手を出している。

 そのプレイヤー名を言った男は、白兵戦を主体とした部隊に所属しているからだ。

 事実、ベルディはその時、スナイパーでも緊急時は白兵戦を出来るようになっておかなければならない。というドイツ軍のモットーを参考にし、自主的に参加していた。

 つまり彼は、ベルディがスナイパーライフルを扱わず、その防御力を活かした接近戦をすると勘違いをしている。


(サウジアラビアがどこまでやるのか、お手並み拝見と行こうか)


 お互いにそう思い、移動しながらも敵を見る。

 この大会に出場し、本戦まで残った選手であればまず間違いなく軍に所属している。

 そこから仮想敵国の実力を測れるのだから、これ以上意義のあるゲームはない。

 スコープで覗かなければ見えないので、周りのことはよく見えていない。

 周りを見ようとすれば敵を見失い、致命的な1発を食らうことになるだろう。

 それを防ぐためには、こうするしかないのだ。

 お互いにぐるぐると小惑星群を回る。

 2人の頭から、リステリアのことなどとうの昔に忘れ去られていた。


 ベルディが移動したまま、構える。

 そして1発、音は聞こえないが、点としか言い表せないが、それでもフリースはその場に一瞬停止する。

 スナイパーは基本、先読みして敵を撃つ。

 これだけ離れていれば、敵の動きの延長戦に弾を撃たなければ当たらない。ならば、停止すれば自然と弾が通り過ぎるということだ。

 しかし、フリースは失念していた。

 相手もまた、スナイパーライフルの使い手であることを。

 しかし、ベルディもまた、深読みし過ぎていた。

 相手がスナイパーであれば、停止するという愚かな行動はしない。スナイパー同士の戦いは先読みして撃ち合うというのが常識であり、それを躱そうと停止するのは素人か、はたまた別武器を扱う者か。

 故に、彼は少し戻ったところの位置を撃ち抜く。

 敵がスナイパーであれば、先読みして当てられることを予測し、停止するのも当てられる可能性が高いと考え、後方へ移動する。もしくは、このゲーム内であれば上下の合計3方向。


(バカな……敵は素人なのか……?)


 ベルディはフリースの、彼の中ではニケリアの思考を汲み取ろうと深く考える。

 結果、ニケリアは更に深読みし、立ち止まったのだと判断した。


(なるほど……俺よりも強いかもしれない、か)


 そう考えただけで胸が踊る。

 一方、フリースは己を叱咤していた。


(あぁ!やっちまった!俺のバカ野郎!敵が深読みしてくれなきゃ死んでたぞ!)


 フリースは移動を再開しつつ、どうするか悩み始める。

 このまま遠距離では埒があかない。

 であれば、自分の得意な近距離スナイパー戦へ持ち込むか。

 いや、近付く前に撃たれて終わりだ。

 だが近付かなければ、こちらからは確実に当てられない。

 もう少し高性能なスコープであれば、違っただろうが。


「うし、やっぱ、近距離だな」


 相手は近距離に対応出来る武器を持っているはずだが、そうなればその武器を破壊してやればいい。

 フリースは決断し、ベルディの元へ飛翔していった。


(何故、あいつは近寄ってくる?)


 ベルディはフリースの行動に理解出来ないと頭を抱える。

 こいつ、スナイパーライフルの扱いを知っているのだろうか、と。

 先ほどの読みは全て自分の勘違いでは、と思い始める。

 ベルディは少しずつ近づいて来る敵に向けて2発目を撃った。

 しかし、クネクネと飛び回る様はまるで予測できない。銃弾はかすることもなく何処か遠くへ飛んで行った。

 2人の距離が近付き、やがてスコープなしでも見える距離になった。

 それでもまだ近付くフリースに、これはまずい、とベルディは離れていく。

 だが、フリースが追いかけながらベルディを何度も撃っている。オートスナイパーライフルであるため連射が可能で、まるで弾幕のように先読みをして撃ち放ってくる。

 それらを更に読み込み、反撃を加えつつも、1発たりとも当たることなく距離は平行線を辿った。

 その反撃はと言えば、フリースの不規則な動きによって難なく回避されている。

 そこで、フリースの速度が格段に上がった。

 やばい!

 そう思いはしたが、


(いや、こちらから出向いてやれば確実に殺れるのでは……?)


 そうだ、そうしよう。

 ベルディは反転し、その1発に賭ける。

 スコープを調節し、倍率を下げた。

 敵をスコープに収めつつ、敵が近づいて来るのを確認しながらも、自らの動きは止めない。

 止めればそこで終わってしまう。

 揺れる自分に、揺れる敵。

 気が狂いそうになる。

 まだだ。

 まだいける。

 ベルディは自分に言い聞かせ、絶対に当てられる自信のある、500m以内に入ってくるまでフリースの到着を待った。


 フリースはベルディが反転し、不規則な上下縦横の動きをし始めたことに、警戒を強める。


(このまま一気に……!)


 近距離まで持ち込んでしまえば、あとはこちらのものだ。いつも通り翻弄し、勝てばいい。


 そして、2人の距離500m。

 ベルディが何発目かわからない銃弾を撃ちだした。

 引き金を引く瞬間を見ていたフリースはその場に停止し、弾を回避したことに安堵しながら突撃を再開した。

 フリースは、先ほど停止によって躱したことで、今回はしないと思い込んでいるに違いないと判断していたからだ。

 それを見たベルディは慌てて次弾を装填する。

 何故止まったのだ!

 そう叱責したい気持ちを抑えつつ、敵の方が一枚上手だったのだと納得させる。

 そして、距離200m。

 フリースが片手(・・)で銃を構え、引き金を引く。

 それを見たベルディは笑いそうになった。否、笑っている。

 こいつバカじゃねぇのか!と大笑いだ。

 片手で反動が制御できるわけがない。

 まるで、そう、まるでオカリナではないか、と反動で弾かれた機体を見る。


 それは……防御型にしては小さい。


(まさか攻撃型か!?ニケリアではない!?)


 ベルディは気を引き締め直した。

 相手が防御型ではなく、攻撃型。

 つまり、相手の本領は接近戦である。

 スナイパーを持ち出したのはこちらの油断誘うため。

 ベルディの額に冷や汗が流れた。


 そして、フリースが背に手を回した。


 ベルディはそれを見た瞬間、ゾワリと総毛立つ。

 まずい、これは非常にまずい。

 そして……リロード中の弾を落としてしまった。焦り過ぎた。初歩的なミスだ。

 ベルディは相手が意地の悪い笑みを浮かべたような、そんな気がした。


(これで、終わりなのか?否、断じて否!まだやれる!)


 このまま攻撃を食らって終わるのは目覚めが悪すぎる。

 リロードに失敗するなど、もう十数年もしていない。

 そして、彼は目にする。


 フリースは相手が焦り銃弾を零したことを見て、ニヒルと笑みを浮かべた。

 まるで悪魔のような、狙い通りに行った、と満面の笑みだ。

 背にやった手を流れるようにスナイパーライフルへ添えて、正確に照準を合わせる。次の瞬間、銃口から1弾、放たれた。

 それは真っ直ぐにベルディへ飛んで行ったが、ベルディはなんとフリースの視線で狙いを見極め体勢を反らすと共に、それでも無理だと判断した後、スナイパーライフルを銃弾にぶつけた。

 当然のように破壊されたが、一命は取り留めた。

 そして彼はもう一つのスナイパーライフルを取り出す。そちらはオートスナイパーライフルの黒の武器(・・・・)

 フリースは愕然とした。

 弾を弾かれたこともそうだが、黒の武器を盾にすること。更に、新たな黒の武器を取り出したことだ。

 武器1種類につき一つしかない黒の武器。

 まさかオートとマニュアルで一つずつあるとは……そう思わずにはいられない。

 嫉妬を抱きながらも、フリースは更に距離を詰めながらもう2発撃った。

 しかし、それらがベルディに当たることはなかった。

 甲高い音が鳴り、あらぬ方向へ4つの弾がはじかれたのだ。

 ベルディがフリースの弾丸に、視線を追うことで予測して撃ちだした弾丸を当てたのだ。

 この近距離で、この短時間に、だ。

 人間業ではなかった。

 フリースは既に相手を翻弄する目的など忘れ、真剣な光を瞳に宿す。

 そして、互いに、同時に1発撃った。

 一つの音が鳴り、それは互いの銃弾が衝突したことを彼らに伝える。

 お互いに狙いは同じ、武器破壊であったため、奇しくも同じ弾道を通った。

 その結果、弾かれたのであるが……刹那、フリースのスナイパーライフルが砕け散った。


「はっ……!?」


 あり得ない。

 フリースは現実逃避しようとするが、その目に映る破壊されたスナイパーライフルが現実を叩きつける。

 ベルディは、その呆然としているフリースに新しく6発放った。

 その連射力は、オートスナイパーライフルの域を超えている。もはやマシンガンと言って差し支えないほどの連射。

 フリースは為すすべなく、6発の弾丸を受けた。

 HPバーが0となり、機体が爆散する。

 死亡エフェクトが出てきて、次に、お互いに同じ場所を見る。

 そこは生存プレイヤーと死亡プレイヤーの書かれている、視界の隅にある一覧。

 生存プレイヤーは光り、死亡プレイヤーは黒塗りされたかのように見えづらい。

 そして、フリースの名前が黒く塗りつぶされた。

 同時に、倒した者であるベルディの名前の横に星マークが一つ追加される。

 それを見て、2人は理解した。

 誰を相手にしていたのかを。

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