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第16話 僕、北の館に戻るみたい

「まだべか〜?そろそろ着いてもいい頃合いだべ〜」


「そうだそうだ!もうヘトヘトなんだよぉ!」


 息を切らしながら文句を垂れるデブオタトリオの二人。

 もう北の館が木々の隙間から見えるほど近くにいるというのに、堪え性がなさ過ぎる。

 舞ちゃんとゆかりちゃんが北の館に来るということで、この二人も一緒に来ることになってしまい、こうしてややこしいことになっているのだ。

 本当に勘弁してほしい。


「奈緒ちゃん、私、トイレ行ってくるね」


「大丈夫?ついていこっか?」


「へーきだよ。ありがと」


 先頭を歩く二人とは違い、僕は舞ちゃんとゆかりちゃんに挟まれながら一番後ろを付いて行っている。

 ゆかりちゃんはトイレに行きたいらしく、通路ではあるけれど動物が必ず襲わないという保証はあまり信じられないので心配だ。

 かといって、女の子のトイレを覗いたりするのは気が引ける。

 せいぜい、人が近づかないようにするしかない。

 トイレットペーパーを渡すと、ゆかりちゃんは急いで茂みの方に行った。もう、限界だったのだろうか……。

 北の館ももうじき着くし、限界だったのだろう。

 そうして待つこと5分程度。

 あの二人はうるさかったので、僕と舞ちゃんとゆかりちゃんだけ残して他は先に行ってもらった。


「お待たせ。ごめんね」


「気にしないでいいよ。皆先に行ったから、僕たちも行こう」


 真面目なゆかりちゃんが野外でトイレと言うのも驚きはしたけれど、人間我慢できなくなれば気にしなくなるのかもしれない。

 舞ちゃんも、体を売っていたわけだし。

 思い切り中に出していたのをどうにかできれば良いのだけど、魔法で避妊なんてできないので、こればかりは仕方ない。


「北の館も幽霊屋敷みたいだね……」


 舞ちゃんがつぶやき、それにこくりと頷く。

 他の3つの館も幽霊屋敷のような見た目で、中身は普通のだけど、外もどうにかしてほしいところだ。

 予算がないわけではないだろうから、わざとこうしているに違いない。


「ただいまー」


 玄関扉を開けて入ると、靴がいつもより多く並んでいる。

 連れて帰ってきたのは4人だけなはずなのに、どうしてこれほど増えているのか。

 もしかして別行動組が誰か保護でもしたのかな。

 そう思いリビングに入る。


「あ、おかえり」


 そこには全員集まっていたらしく、僕たちが入ると21人になった。

 リビングが広いとは言え4人も増えると狭くなる。

 あの二人の体型も相まって、さらに狭く感じるのだ。


「で、こいつら連れて帰ってきてどうするんだ?」


 言いながら僕のことを睨み付けてくるのは別のクラス、C組の菊池くんだ。木村くんと同じクラスで、真っ先に逃げた男の子らしい。

 けれど、確かにこの4人を連れて帰ってきてどうする、という話だ。館には4つしか部屋がなく、あとはリビングとその隣に併設されている休憩所のような畳の部屋。他はフローリングなので、ここだけ畳だ。

 畳は現代ではあまり使われておらず、この部屋に入って初めて見た人もいたくらいだった。


「4人にはこの畳の部屋にいて貰えば良いんじゃないかな」


「てか、その格好どうしたんだ……?」


 僕が提案すると、すかさず立川くんが疑問を挟んだ。

 そっか、僕の正体を知っているのは木村くんと班のメンバーだけか。

 4人以外は好奇の視線を向けてくる。

 きっと、デブオタトリオの二人と舞ちゃんとゆかりちゃんの場所をどうするかの方が気になったから先に聞いたのだろう。

 もし立川くんが聞いてこなくても、誰かが聞いてきていた。


「これは、その、お気に入りのコスプレ服かな〜?出先でちょっと汚れたから……」


 少し、言い訳が厳しいだろうか。だけどデブオタトリオの二人はこれを言えばテンション上がって何の奴?とか聞いてきて適当にはぐらかし、舞ちゃんとゆかりちゃんは僕もそっち系だと判断してあまり深くは追求して来なかった。

 4人は信じてくれたのだ。だから、きっと大丈夫。

 自分に言い聞かせながらチラッと真央を見ると「まぁ大丈夫じゃないかな」という顔でこちらを見ている。


「……鈴木も、そういうのに興味あったんだな」


 どうやら深くは追求してこなさそうだ。


「でも、どんだけ好きなんだよそれ。ここにも持ってくるって……」


 それは、確かにそうだよね。普通持ってこないよね?


「しかも似合いすぎてる気がする……」


 誰か、女の子の声がした。

 そりゃあ、僕に合わせて作られたものだから似合ってないと少し困るのだけど、コスプレ服と言えば確かにここまで似合うものではないのかもしれない。


「な、なぁ、くるって回転してみて欲しいんだけど……」


 立川くんがそんなお願いをしてきた。

 まぁ、その程度なら構わない。

 僕は軽く勢いをつけながら一回転する。ミニスカートのふりふり部分が浮き上がり、ふわりと宙に浮く。そして一回転し終わり、ふりふりが元どおりになったのを見てから反応を見た。


「ぅ……あ、その、可愛かったよ」


 立川くんが顔をそらして耳まで真っ赤になりながら言ってきた。

 回転中に気付いたけれど、これ普通にスカートの中が見えちゃうよね。


 物凄く恥ずかしい。


 こんな大勢の前でパンツを晒しものにするなんて、立川くん許すまじ……。


「そろそろ晩飯にするか」


 そう言ったナイトの声は、羞恥に悶える僕の耳を右から左へ通り過ぎて行った。

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