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第7話 僕、スーパーに行くみたい

 真央に白い目で見られて一夜明け、今日は一緒にスーパーに行くのだ。

 この時代のスーパーがどうなっているのかとても気になる。来希のお父さんに渡されたお小遣いは月に4万円。これは来希も同じらしく、この中に食費も含まれているとか。

 僕はこの時代での腕時計型携帯電話(財布)を左手首につけ、お出かけの準備が整った。


「そろそろ行くよー」


「あはは、楽しみにしすぎでしょ」


 僕がだらだらしている真央を揺さぶると、それだけで笑い合うことができる。

 始めは女の子との同居なんて、と思っていたけれど、遠慮も必要ないし真央はずかずか踏み込んでくるタイプじゃないし、いい距離を保っていると言っていい。

 真央が準備をしている間に、戸籍を登録してすぐに買ってもらった腕時計型携帯電話を弄ぶ。

 これには実に様々な機能がついていて、2014年のスマートフォンなんて時代遅れだと言わざるを得ない。

 腕時計の羅針盤を軽くタッチすると、自分にしか見えない画面(ホログラム)が表示された。

 そこにはインターネット環境が常に張り巡らされているので、ネットをするのには事欠かない。

 いつでもどこでもパソコン並みのネット操作が出来るなんて、僕からすれば近未来だ。

 地図のアイコンをタップしてスーパーまでの道順を確認する。ただ、学校内は広いのであまり当てにならない。

 スーパー自体は校門を出てすぐのところにあるのだけど、校内の地図までは表示されていない、よくある話だ。


「どうしたの?」


 準備を終わらせた真央が覗き込むように話しかけてきた。


「これに校内地図があればなーって」


「あるよ?」


 んん?


「どういうこと?」


「えっ……まさか、地図をダウンロードしてないの?ほら、パンフレットに書いてあったじゃん」


 パンフレットに書いてあった?

 そんなのあったかな……と記憶を掘り出していると、真央が諦めのため息を吐く。


「はぁ……。私が送るから、ちゃんとダウンロードしてよね」


「う、うん、ありがと」


 ピロリンと着信音が脳内に直接響く。

 この時代においてメールサービスは全停止され、全てがリアルタイムメッセージでのやり取りとなっているのだ。

 過去に存在したLI○Eはないけれど、携帯会社が共同で開発した繋がるネットと呼ばれるサービスは使い勝手がいい。


「これをダウンロード、っと」


 よし、これで僕も迷子にならない。

 地図のアプリケーションのところに、衛生地図と校内地図の二つが現れた。きっと正しくダウンロードされたのだ。


「じゃ、行こっか」


 真央に促され、地図を見ながら、雑談を交わしながら校内を歩く。そして20分ほどの時間をかけて、校門に辿り着いた。


 凄い。

 迷子にならないなんて、物凄く羨ましい。


「奈緒も慣れたらこのくらい大丈夫だよ、たぶん」


 最後に付け足された言葉にうっ、と言葉が詰まる。


「頑張るよ……」


 としか言えなかった。


 校門を出て、少し歩くと程なくしてスーパーに着いた。

 とても大きい。

 とても、大きい。

 これがスーパー?

 90年前に謝れッ!

 僕の知るスーパーは精々が3.4階建て。それも様々なものを取り扱ってそれだけの階層になる。

 だけど、これはどうだ。


『学生御用達、食品スーパー』


 そう、この6階の建造物は全てが食品だと言うのだ。

 ありえない。

 いや、だけど、この時代ならあり得るのかもしれない。


「あー……そういえば奈緒って田舎から来たんだっけ?見るのは初めてか」


 この道は駅とは反対側の校門。つまり見えなかった。

 ちなみに、僕は田舎から来たことになっている。この時代の田舎は田舎じゃない。何が田舎だ。90年前の人たちに謝れ。

 憤りを感じても仕方がないので、恐る恐る足を踏み出す。

 その様子を隣でクスクスと笑う真央。

 そして、僕の目の前にシェルターが立ち塞がった。これはシェルターとしか言えない。

 どうやって開けるの……。近付いたら開くのかな。


「わっ!」


 近付くと開いた。

 それはもう、○○は突然に、のように突然に。


「ここにタップ出来るところあるでしょ」


 そう言われ、シェルターのような扉の横にあるホログラムを見た。どうやら離れた位置からでも操作できるらしい。真央が開けたのできっとそうだと思う。


 中に入ると、新鮮な食材の香りが鼻腔を擽る。


「凄いね」


「そうだね。私も帰ったらこのスーパーとはおさらばかー」


 真央はあまり裕福な家ではないらしい。

 それでも、この学校において、という意味であり、一般的な人からすれば裕福な家庭だ。


「てきとうに買い込んで料理するときに選べばいいかな」


 ただ、冷蔵庫が小さいのであまり大量には買えない。少しばかり厳選しなければ。


「うーん……、じゃあこのくらいかな」


 たっぷり1時間ほどかけて6階全てを見て回った僕たちはカゴに大量の食材を抱えてレジに並ぶ。

 ちなみに、このレジに店員はいない。

 どうするのか気になっていたのだけど、食材をカゴに入れる前に真央が何かの操作をしていたことを思い出す。


「ねぇ、カゴに入れる前に何してたの?」


「あちゃー、そこからか!失敗したなぁ」


 それから説明を聞いてみると、どうやらこの腕時計型携帯電話のカメラで食材を写すと、シャッターを押さなくても購入リストに入るとのこと。

 そしてレジもたった5個しかないのにスムーズに流れていく意味がわかった。

 これに読み込ませると、購入リストが出現してそこに全て表示され、レジに行ってリストをタップすると、内蔵されている金が自動的に支払われるらしい。


 全く訳がわからない。


 何この技術、凄すぎる。


「帰るよー」


「あ、うん!」


 ビニール袋に詰め替えた真央が呆然と現状を把握しようとしていた僕の手を引き、スーパーを後にした。


 恐るべし、近未来。

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