表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/522

第3話 僕、やっぱり迷子みたい

 後日、合格通知が届き無事に転入することが決まった。ここで躓くなんて、元偏差値65の高校でトップ3を取っていた実力が泣いてしまう。

 とは言っても、歴史なんてのは新しい分野も入っていたのでそれなりに苦戦はした。

 それにゆとり教育が影響して、知らないところも出てきたけれど、僕自慢の応力を駆使してなんとか問題を解いたり、と中々楽しかった。


「テストを受けて楽しかったなんて言えるのはリステリアだけだと思うけどな」


「そ、そうかな」


「うん、絶対そう」


 来希に言われ、はは……と乾いた笑みを浮かべる。

 あれから20日くらい経って、明日は4月1日の入寮の日だ。

 今日で、GWまではこの家に帰ってくることはないだろう。

 キャリーケースにも荷物は全て入れてあるし、VRゲーム機も梱包して運べるようにしてある。


 なんと、この時代にはVRゲームがあったのだ!

 ゲームの中に入りたいと常々思っていた僕にとっては朗報だったけれど、そのほとんどがファンタジーもののゲームでショックを受けた。

 いや、ほとんどというよりも最近発売されたSFゲームを除けば恋愛シミュレーションとファンタジーしかない。

 僕は、僕自身がファンタジーのようなものなので一切興味を示さなかった。恋愛シミュレーションも然りだ。

 そうなってくると、新タイトルであるSFゲームに当然行くわけである。先日……今月の26日に発売されたので、まだプレイはしていないから楽しみだ。


 夕飯が終わると、お風呂だ。

 この時代でもお風呂の文化は残っていたし、この家には自前の温泉がある。羨ましい。

 しかも男湯と女湯で分かれているから順番待ちなんてものも必要ない。いつでも入ることが出来る。

 温泉に浸かると1日の疲れが抜けていく感じがする。でも、この時代においてお湯に浸かっていると疲れが溜まると科学的に完全証明されてしまっているらしく、何故か法律で一人10分までしか入浴してはいけない。

 前世では30分ほど浸かっていたので、そんなもの無視だ。

 法律(ルール)なんか守っていて社会で通用すると思うなよ、とは僕の大好きな作品のフレーズである。



 今日は遂に入寮の日だ。

 そして来希も寮に戻るため多少の荷物を持っている。

 僕は、流石にタンスなどは持ち運べない……持ち運ぼうと思えば空間に収納することができるけれど、それは目立つと却下された。

 誰に?来希のお父さんだ。あの人は常識人の鑑だね。

 けれど、「待てよ……それを使えば引越しで大儲けが……転移もあるし、息子も飛行魔法が使えるとか言ってたよな……」なんてことをぼやいていたから少し危ない。引越し屋なんてしたくない。

 ちなみに、地球にいる時は原則転移は禁止だと言われている。


「それじゃ、行ってきます」


「気をつけるんだよ」


「はい」


 来希のお父さんは仕事で既にいないため、お母さんが見送りに来てくれている。

 今は昼過ぎだ。電車もそれなりに空いているだろう。


 来希と一緒に舗装されている山道を下っていき、最寄駅に着いた。地名はあまり変わっていないのでとてもわかりやすい。

 ただ、大阪府から大阪都に変わっていたことには驚いた。そして現在は京都府から京都に変わろうとしている。

 流石にそれはいいんじゃないの、と思ったのは秘密だ。

 電車と徒歩で2時間。ようやく学校前に到着した。来希に案内してもらい受付に行く。


「鈴木奈緒さんですね。ではこちらが学生証と寮の鍵です。寮は梅になります」


「わかりました。ありがとうございます」


 受付のお姉さんの丁寧な物腰に感動を覚えながら、学生証を見る。そこには顔写真と名前と誕生日、学年とクラスが記入されていた。

 それを思わず空間に収納しそうになり、慌てて魔法を打ち消す。

 危なかった……いつもの癖で……。

 こう、カードのようなものを見るとつあつい放り込んでしまいそうになるのだ。あちらの世界での身分証や冒険者の証と同様で。

 ICカードも間違えてしまいそうになる。


「そう言えば、なんで同い年にしなかったんだ?どうせなら……」


「それは、その〜、……僕が来希だったら、年下のままでいて欲しかったから、かな」


そう言うと、来希に抱き寄せられ耳元で「そうか」と言われた。無駄にドキドキする演出しなくていいのに!

ドンっと突き放すと来希は軽快に笑う。


「じゃあ、俺は行くけど困ったことがあったら呼び出してくれて構わないからな」


「わかった。たぶん大丈夫!」


 グッと握りこぶしを作ると頭にチョックが落ちた。


「試験の時に迷子になったって聞いたぞ?」


「〜っ!あれは結局教室の前に着いてたからノーカンだよ」


「そうかそうか、まぁ、遠慮せずに呼んでくれていいからな」


「は〜い」


 来希と分かれて僕は校内地図があるところに移動する。そこには広大な敷地内を大雑把に書かれていた。


「んー……梅は、っと、これか」


 現在地から梅までは徒歩15分らしい。いや、広すぎだよ。

 案内地図もホログラムで、行きたいところをタップすればそこまでのおおよその時間が表示される。

 梅というのは女子寮の一つで、梅松桜の3つがあり、学年ごとに分かれている。

 男子寮は猪鹿蝶らしい。

 そしてプールは雨、体育館はユリと呼ばれている。

 これはもう聞いた瞬間ピンと来た。

 明らかに花札である。

 それはさておき、歩いて数分でわけがわからないところにやってきた。

 ここはどこだろう?

 校内に建物は10棟あり、女子寮男子寮で6棟、校舎が3つ、1階に体育館と2階にプールがある建物が一つで10棟だ。

 けれど、それ以外にも小さな森がある。

 なんでだよ。

 その森の横にはグラウンドがある。

 もちろん、野球場とサッカー場とテニス場はまた別の場所だ。

 なにこの学校。

 因みに、僕が今いるところは森だ。

 ちょっと、本当によくわからない。もしかしてルートを外れて最短距離を行こうとしたからダメだったのだろうか?

 あの地図に出てきたルートは森を迂回する道だった。森を突っ切れば10分かからないと判断したので、キャリーケースを引きながら、ゲームを持ちながらの移動だ。

 リハビリをしたからと言ってもその筋力は普通の年相応の女の子のもの。つまり、森の中これを引くのは重労働。


「はぁっはぁっ……魔法禁止って、こんなに辛かっ…たっけ……」


 軽量化の魔法も、身体強化魔法も使えない。禁止されている。

 もちろんバレなければ問題ないだろうけれど、一度使ってしまうとタガが外れていつでも使うようになってしまいそうなので、自分でもそれには賛成している。

 だから、魔法は使わずに自分の力だけで乗り越えなければならない。

 しかも、元々キャリーケースを引きながらゲームを持つだけでもキツイのだ。僕はバカだ。

 なぜこの道を選んだのだろう。

 僕は制服姿のまま近くにあった木陰に入り、腕時計型の携帯電話を使って来希に連絡をしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想、評価、レビュー等!いつでもお待ちしてますので気軽にお願いします!また、閑話リクエストを随時受け付けてますので、何度でもご自由にどうぞ! 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ