第2話 僕、転入試験を受けるみたい
家庭裁判所に赴き、名前を変えてはや一ヶ月。
僕はこの間、来希のお父さんが理事長をしている私立高校の転入試験を受けるべく、試験勉強をしていた。
いくら前世で成績が良かったからと言っても、その知識は5年も前のものなので記憶も曖昧だ。
そこらへんをわからせるように、まぁ、いわば復習のようなものかな。
復習と言っても、高校1年生の範囲だけでいいので随分と楽だ。高校2年生の範囲もするとなると、この倍だったのだから。
3月10日、今日は春休み期間に突入する私立神ノ島学院大学付属高等学校に行く日だ。
今日は土曜日なので、午前中に終業式をするらしく、その時間を使ってテストを受けるのだ。
僕は制服を持っていなかったので、既に神ノ島高校の制服を貰い受け、それを着用している。
紺のセーラー服に、スカートにはチェックが入っている。ネクタイは赤色で、白色のシャツをより際立たせていた。
神ノ島高校は来希の家から徒歩と電車で1時間15分程度離れている。一度だけ連れて行ってもらってあるから、ちゃんと覚えているし、一人で行けるのだ。
高尾山の中腹にある来希の家を出て、そこから転移で最寄駅の近くの裏路地に。転移しなかったら麓の最寄駅まで徒歩1時間追加なのだ。
けれど、この高校、全寮制なので通学することになれば、もうこの家に帰ってくることはあまり無い。
流石にお盆や年末年始など、長期休暇の時は帰ってくると思う。
僕はMRと呼ばれる鉄道会社の駅に入ると、2度目だと言うのに驚いてしまう。まず、電光掲示板がホログラムで、投影機が何処にあるのかわからない。
それに切符売り場はなく、完全にICカードオンリーとなっているので以前来た時に購入したICカードを取り出す。
ICカードには大きくMRと書かれており、会社名をひどく強調している。
僕が取り出したカードは既に登録を済ませているので、改札のタッチしてくださいというところに翳してピロリンと鳴ると、中に入ってもいいのだ。
カード購入機器と呼ばれるものが改札の横に2.3個置かれている。
そこに並んでる人は滅多にいない。もはやほぼ全国民が購入しているからだし、紛失すると大変なことになるためなくす人も少ない。
この一ヶ月の間に開設してもらうことになった銀行口座。
この銀行の口座番号と2重パスワードを入力すると、このICカードの登録が行われる。
簡易クレジットカードのようなものだ。
とは言え、実際なくす人もいるためその対策が既に取られており、なんと降りる時に指紋確認されるのだ!
なんという近未来技術!
僕のテンションはうなぎのぼりだ。
そして駅構内、僕が死んだところだ。
そこは新幹線のところしかなかったはずのバリケードがされていて、安全なところになっている。
登校するにも、出勤するにも遅い時間で、尚且つ主婦が家を出るには早い時間なので構内に人はあまりいない。僕を入れても10人届かないだろう。
電車が音もなく目の前で停止する。
この電車も大きく変わっていて、どうやら全てがリニアモーターカーのようである。
けれど、その動きは遅めに設定してあるので、決して東京大阪間を1時間やそこらで着くような速度で運行などしない。
そこから1時間ほど電車から外の風景を見て楽しみながら過ごした。
高尾山口駅から笹塚駅まで乗り換え二回だ。
笹塚駅で下車して、徒歩に移る。ここから徒歩で15分程度で着くことになっている。
周囲を見渡せば家からも技術の発展が見られる。
その事が、地球には帰ってきたけれど本当に戻ってきたというわけじゃないんだなぁと実感をもたせてくれた。
僕が死んだ年は2014年。
そして今ある世界は2108年だ。
90年もの開きがあるのだから、それだけの時間があればこの技術進歩は目覚ましいものだろう。
だけど、2017年に技術の進歩が止まり後退に向かうと言われたようで、それをせめて停滞に止めようと手立てを考えていた国連が、都合よく現れた東南アジアから南アフリカ大陸にまで伸びる広範囲を支配下に置いたテロリスト集団を殲滅すべく、全力を結集し総攻撃に出た。
これが第3次世界大戦と呼ばれている。
だけど、それはあまりにも長引いてしまったため、国連軍は勢いをなくし技術進歩を強制的に迫られた。
そのおかげで今の日本があるのだから、テロリスト集団も壊滅したらしいし、万々歳ではなかろうか。
確かに戦死者も多数いるけれど、日本は自衛隊を動かし、奪還した地域の再建や死傷者の手当て、それから技術による全面的なバックアップを行っていたため、戦後でもトップクラスの資産を誇った。
その資産を運用しさらなる技術進歩をしていった日本は、発言力を増し、世界一の技術大国へとなったのだ。
歴史を思い出しながら歩いていると校門に辿り着く。
校内は閑散としていて、朝11時からテストがあるのでまだ30分ほど余裕がある。
と、思っていた時期が僕にもありました。
「迷った……」
広すぎる!広すぎるよ!
校門前までしか案内されていないので教室は地図を頼りに来たのに!
「そう言えば、転移魔法ばっかりに頼ってたから忘れてた。僕って方向音痴なんだった……」
「ん?君は……どうしたのかね、終業式なら体育館のはずだが?」
後ろから声がかかり、振り向いてみると30台の男性教師がいた。
運が良い。そう思い道を聞くことにした。
「あの、今日は転入試験を受けに来たんですけど……道に迷ってしまって。34教室ってところなんですが……」
「ああ!君がかい!待っていたよ。というか、君の左手にある教室が34教室だよ」
な、なに!?
来希のお父さんから「34教室には教師がいるはずだからすぐわかる」と言われていたためそれを目印にしていたというのに、この人外にいるじゃないか。そりゃあわからないよ。
「ほら、そこに34教室と書いてるだろう?」
「うっ……」
確かに、教室の外にホログラムで34教室だと映し出されている。
こういうところには使わないでほしい。正直見にくい。
文句を垂れていると、時間がきたらしく、テストが始まった。
復習していたおかげでスラスラと解く事ができ、僕は満足して家に帰った。




