表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/522

第1話 僕、地球に帰ってきたみたい

この話は当初予定していた最終話と同じ内容です。

ただし、途中で話が切られていて、そこからが変わっているところとなります。

最終話の方は9000文字後半でしたが、これは6600文字程度となっています。

次話から、通常の1500~4000文字にしますのでご了承ください。

 ぷかぷかと浮かんでいる感覚がする。

 ここはどこだろう。

 ちゃんと転移出来たのだろうか。

 口を動かせない。

 声を出せない。

 息ができない。

 けれど、溺れることもなければ呼吸困難に陥ることもない。

 ここはどこか。

 全くわからない。

 それでも、無意識に安全だという認識がある。

 まるで、ここは神の世界のようだ。

 この浮遊感と言い、呼吸をしなくていいところといい、体がないところといい、視界に何も映らないところといい、それら全てが僕に神の世界であると告げている。

 だけど、本当に目が開いているのかはわからない。


「ようやく気が付いたか」


「神……様………?」


 目の前には老齢のお爺さん。

 そのお爺さんが僕の呟きを聞いた途端目を瞬いた。


「儂は神様じゃないよ。おもしろいことを言う子だね」


 頭をよしよしと撫でられ、その骨ばった手が何処となく暖かく感じる。

 その肌の温もりが、僕に生きていると伝えてくれる。

 ふと視線を外すと、真っ白な天井が目に入った。

 ここはどこ?

 続いて横を見る。

 どうやら僕はベッドに眠っていたらしい。

 体を起こして辺りを見ると、白衣を着たお爺さんがいて、そこは個室の真っ白な部屋。

 真っ白な、というのは間違っているかもしれない。

 白を基調として、木造のタンスなどがあり、車椅子も装備されている。

 布団を握りしめていた手に力が入らず、思わずその手を凝視した。

 水気たっぷりだった僕の手は、今では痩せこけていて見る影もない。

 頬を撫でると、頬骨が手に取るようにわかる。もう一度手を見てみると、視界の端に黒髪が映り込んだ。

 その黒髪は僕のお尻の下にも届いているようで、腰まであった髪が相当伸びている。

 髪はボサボサになっているし、来ている服も入院してるような人が来ている服だ。それに加えて僕はさっきまで寝ていたみたいだし、つまり、入院していたのだろう。

 僕がいろいろと確認している間にお爺さんはナースさんを呼んでくれていたらしく、ナース服を着た女性が個室の自動扉が開いて入ってきた。

 ナースさん、龍族のナースさんではない。日本人の病院で働いている、あのナースさんだ。

 周りにいる人は皆黒髪を持って、黒の瞳を持っている。中には茶色が混ざっている人もいるけれど、それは日本人として普通のことだ。

 帰ってきたのだ。

 僕は。

 地球に。

 日本に。


 それからは検査が続けられた。

 様々な検査を受け続け、ようやく終わったかと思うと次は問診。簡単な受け答えをして、おそらく精神の異常が見られないかを確認するのだと思う。

 至って常識的な回答をしたので、問題ないはずだ。

 でも、わからないことが一つだけある。

 それは、何故僕が病院にいるかだ。

 来希たちは居ないし、ここが何病院なのかもわからない。

 一緒に転移したのだから、近くにいると思うのだけど、僕の状態を鑑かんがみるに長い間入院していた可能性が高い。

 それに、気になることがたくさんある。

 病院の扉が全て自動ドアだったり、僕が眠っていたベッドはスライムのようにぷにぷにしたゼリー状のカプセルのようなものだったり、僕の知識にある日本とは全くと言っていいほど違いが生まれている。

 けれど、話している言葉は間違いなく日本語だし、見た目も東洋人……つまり日本人に酷似している。

 言語理解があっても、これは何語!ってキチンとわかるのだ。

 僕はよくわからないままもう一度スライムベッドに入れられ、このベッドの標準装備である麻酔が打たれて強制的に眠らされた。

 ちなみに全裸だった。



 深く沈んでいく意識の中、僕に語りかける声が聞こえる。

 それは遠くで、深海にいる僕に手を差しのばしてくれているようで、それにとても暖かい声だ。体が温かみを帯びて徐々に意識が覚醒していくことがわかった。


「……テリア、リステリア。起きろー、起きろー、なんで昼に起きたのに夕方は寝てるんだよー」


 うぅん……うるさいなぁ。

 もう少し眠らせてくれたっていいじゃない。

 そう思いながらも、瞼を少し開けると光が差し込む。あまりの光量に目が眩むけれど、少しずつ慣らしていくことで乗り越えた。

 目が完全に開いて意識もハッキリとしてくると、声をかけてくれていた人物が誰なのかもわかった。


「来希……?」


 でも、背が縮んでいるような気がする。どうしてだろう?来希の、弟?


「お、起きたか!」


「お待ちください、来希様、まだ起きたばかりなのでお静かに」


「あぁ、うん、そうだな」


 体に力が入らず、先ほどのように起こすことができない。それに気付いた来希が手伝ってくれながら体を起こすと、来希以外にも4人いることがわかった。見知っている人は全員で5人、知らない人が2人。


「起きたのね、リステリアちゃん」


「よかった〜!転移してこっちに来た時はどうなったかと思ったよ」


 他の人も口々にそんなことを言い始めた。

 やっぱり、転移はうまく行ったらしい。よかった。


「……、ぅ……」


 うまく言葉を話せない。

 どうなっているのか、さっぱりわからない。

 僕は一体どうなってしまったのだろう?

 そう言えば、龍脈の力を殆ど感じることができない。魔力は感じることができるけれど、この違いも後で調べておかないとダメそうだ。

 身を捩り、体を来希たちの方へ向けると楽に皆の顔を見ることができるようになった。

 首を捻るだけでも、少しだけ辛かったのだ。


「リステリア……あの後のことを話すぞ?」


 僕が体制を整えることを待っていたのか、体を楽にすると来希が話を切り出した。

 僕はそれに逆らわず、声を出すことができないので頷くだけで返事する。


「よし、まずはだな、俺たちは無事に元世界に、地球の日本に帰ってくることができた」


 やっぱり!よかった〜、合ってたよ。

 まぁ、僕の知らないところが多数あるのだけど。


「その時だ。転移した直後、こっちで出てきたのは学校の屋上だった。リステリアがやせ細って倒れてたんだ」


 むむ?

 どうして突然そんな話になるのか……。

 来希たちは異常がなかったのだろうか?

 コテリと首を転がすと意図を読み取ってくれたようだ。


「俺たちは何ともなかった。倒れてたのはリステリアだけ。だから、俺たちなりに考えてみたんだ。俺たちはこの世界で生まれて、戻ってきた。でもリステリアは転生してあっちで生まれて、こっちに渡ってきた。それのせいだと思う」


 なるほど、それなら確かに辻褄が合う。納得のいく説明だ。


「そのあとは、夜だったから魔法をバンバン使って一度俺の家で集まり、両親に説明をしてリステリアのことも話すとすぐに救急車を呼ばれたんだ」


 それだけ当時は危ない状態だった、ということなのかな。


「それで、両親に説明する時に気付いたんだけど、俺たちが転移してからまだ数日しか経ってないみたいなんだ。体も元に戻っちゃってるし、数日間行方不明扱いになっててさ」


 自嘲気味に笑みを浮かべた彼らはどこか寂しそうにしている。


「でもさ、リステリアがいたから、あれは夢じゃなかったんだって、あの世界のことは本当にあったことなんだってことがわかってさ、ホッとしたよ。俺たちのあの数年のことが全部夢のことだったらどうしよう、ってずっと思ってたから」


 確かに、僕でも疑心暗鬼になってしまいそうだ。それでも魔法が使えるのだから夢ではなかったということがわかりそうなものだけど。


「それから、リステリアはもう半年も眠ってたんだ。今日学校にいる時に連絡があってさ、すぐに駆けつけたかったんだけど、親父に止められてね」


 はは、と笑う来希の笑みは晴れ晴れとしていて、僕も清々しい気分になる。

 ふと、僕の視線が2人の方に向かった。僕の知らない2人。この2人にこんな話を聞かせても大丈夫なのかな?


「ん?あぁ、大丈夫だよ。この病院は俺の家がやってるところだからな。もしそうじゃなかったら国籍不明になってたところだ!って親父に怒鳴られたよ」


 来希は怒られた時のことを思い出しているのか、上を向く。僕もつられて上を向くと、いろいろなことが頭の中を過ぎていった。

 転移する前の出来事はついさっきまでのことに思えるけれど、皆からすれば半年も過ぎているんだね。


「それでさ、リステリア、リハビリも合わせて、今から半年くらいかかるんだって」


 何がと言われなくてもわかる。

 完全に復活出来るまで、あと半年かかるのだと。

 これも僕への罰なのか。

 もうほんのちょっと優しい罰がよかったなぁ……。

 でも、半年で治せるのだから割とすぐかな。


「ちなみに、回復魔法は使っても効果なかったからな」


 うん、それはわかるよ。回復魔法が効いていたら今頃入院していなさそうだし。

 ふと窓を見ると、差し込む太陽の光がいつの間にかオレンジ色に染まっていた。

 来希たちは一度帰って、明日も学校の帰りに寄ってくれるようだ。

 これから毎日、リハビリやら何やらをしながら過ごすことになるのか……。

 身体強化……なんて使っても治らないよね。根本的な解決にはならなさそうだし、封印しておこう。何より来希たちにはすぐにバレてしまう。



 それからは地獄の日々の連続だった。

 リハビリを舐めていた。

 病人食も例の如く美味しくない。むしろまずい。

 こんな環境の中、唯一の癒しが来希との触れ合いの時間だ。

 必ず午後18時頃には来てくれて僕とお話をしてくれる。僕が弱音を吐くと、来希が慰めてくれる。時にはキスだって。

 これはまるで、天国と地獄だ。

 いや、飴と鞭、とでもいうのだろうか。

 そんなことはどうでもいいか。

 大切なのは、もうじき退院できると言うことだ。

 あと2週間で退院できる。予定よりも少し早い。

 何と言っても、頑張ったからね。

 早く退院して来希たちと同じ時間を過ごしたい一心でリハビリに取り組んでいたのだから、当然だ。


 その2週間も、あっという間に過ぎた。



「退院おめでとう!地球へようこそ!」


 そんな横断幕が、来希の家の一角にある大きな広間に掲げられている。

 この家に来た時、本当に驚いた。

 まるでお屋敷のような家で、どのくらいの広さがあるのか見当もつかない。魔力を使った探知魔法を使っても、魔力を持つものがないから来希たちの反応しか返ってこない。


「ありがとう、皆。ありがとうございます」


 5人に一礼をした後、保護者席のようなところに向かっても一礼する。

 僕は今壇上に上がらされていて、挨拶をさせられているのだ。


「この度、無事退院することが出来ました。これほど早くできたのは皆様のご支援のおかげです。本当にありがとうございました」


 もう一度礼をすると、大きな拍手がわき起こった。

 この場にいるのは来希たちとその家族全員と、そして来希の家の使用人達や、僕がこれからお世話になるであろう人たち。

 僕は壇上から降りて5人の輪に加わった。


「リステリア、お疲れ様」


「ん、ありがと、来希」


 来希は今17歳になって高校2年生、そして僕は15歳。だけど……。


「リステリアってまだ中3なんだよな……ギリギリ入れないか」


 それが、違うんだよねぇ……。

 来希の二の腕をちょいちょいと突いて気付かせる。


「来希、あのね、実はあっちの世界では0歳がないんだよ」


 そう、1歳から始まるのだ。

 つまり僕はこっちだと14歳。中学2年生となる。ちなみに今は1月で、春から来希たちは高校3年生だ。

 つまり、僕の誕生日はこちらの世界では12月となるので、僕はまだ中学2年生であっているし、来希たちとは3歳も離れてしまっている。


「そうだったのか……!」


「そうだよ、だから、年齢誤魔化すね。一応前世では高校3年までは行けてたからね」


 それに加えて、趣味の時間以外は殆ど勉強に費やしていた。友達とは学校で遊んだり登下校を共にするだけ。

 だから成績もそれなりに良かったりする。


「なるほど……親父!リステリア転入させてもいいよな!?」


「そういうことなら、問題ないだろ」


 あれ、でも学費とかは……。


「リステリアと一緒に学校行けるなんて夢みたいだ!これからよろしくな!」


 来希の満面の笑みに押し切られ、そのことは聞けずにパーティはお開きとなった。

 夜、僕は来希のお父さんに呼び出されたので家政婦さんに書斎へ連れて行かれ、その中へ入る。


「来たか」


「何か、御用ですか?」


 下手に機嫌を損ねたりしたら、来希と一緒に過ごせないかもしれない。

 それだけはなんとしてでも阻止しなくては。


「そうだな、来希からはある程度聞いている。だが信じられないこともある。……髪の色を変えられると聞いたが、それを今見せてくれるのであれば、来希の言葉を信用しようと思うのだが……」


 ふぅむ。

 その気持ちはわからなくもない。

 前世の僕にもし自分の子がいて、その子が行方不明から帰ってきたと思ったら異世界の話をしだす。

 簡単には信じられないだろう。ましてや異世界人など。

 僕は要望通りに髪の色を変えようと龍脈を探り出す。

 病院のところは探りにくかったから、念には念を入れてみたけど、ここらは感じ易い。

 山の中腹に屋敷があるし自然と関係しているのかもしれない。

 龍脈の力を手に入れたので、僕は何の魔法にするか迷う。魔法も同時に見せたほうが信じることが出来ると思うから。


「おぉ!」


 来希のお父さんが声を上げる。

 その声は髪の色が変わったことに対してだろう。

 簡単な魔法で被害が全くないものと言えば、龍装とか飽くらいしか思い浮かばない。ただ水球や火球を出すだけでもいいかな?それなら簡単にできる。

 龍脈の力を練らずにそのまま、最低限の威力で水球を作り出した。火球だと木造のこの家に燃え移った時が大変だ。


「本当に、使えるとは」


 信じられないものを見たかのような目で見ていて、おかしな気分になる。

 魔法とは既に自分の中では常識となっていて、魔道具もたくさん作り出したことだし、あれらを使えないとなると不便にも思う。


「これでどうですか?」


「わかった。信じよう」


 ふぅ、と安堵の息を吐いて来希のお父さんを見た。すると鋭い目つきに変わっていて、ついつい萎縮してしまう。元魔王兼元龍王を萎縮させられるこの人は何者なんだ。


「君は転生したと聞いている。知識も豊富なことだろう。だから、これから先は来希たちも言ってないことを言うが、問題ないな?」


 その言葉に強制力は感じられない。断ってもいい、という雰囲気だ。けれどここで逃げるような真似はしたくない。自分のことは知っておきたい。それがどんな残酷な現実でも、それが僕の罪に対する罰になるのだから。


「はい」


「早速だが、まず改名してもらう。リステリアという名で黒髪黒目は目立ちすぎる。名前は後ほど考えるとして、次に戸籍だ。戸籍がないのは当然わかっているはずだが、これを作る方法がなくはない。しかし、無くてはこの先困ることもあるだろう」


 あぁ、そう言えば僕に戸籍はないのか。

 無戸籍だと困ることもいっぱいあるというのは理解できるけれど、作ることが出来るなんて初めて聞いた。


「私はいろんな伝手がある。そのため知識も豊富だ。戸籍を得るための知識も当然ある。だが、君に両親はいないため、家庭裁判所で就籍する必要がある。その手続き等、面倒臭いことが多々あるが、やるか?」


「もちろんです。この半年に比べれば、その程度問題ありません」


「そうか。よく言った。だがこれを来希に知られると面倒なことになる。来希が学校に行っている間に全て整えておいてくれ。こちらでは転入の手続きを済ませておこう」


「ありがとうございます」


 割とスムーズに話が進み、正直驚いた。もう少し何か厳しいことが言われるものだと思っていたのだ。

 お礼を言うと、もういいぞ、と言われたので書斎を出るべくとびらを開く。


「ああ、それから、来希との付き合いは節度を保つように。特に学生の間は」


「あ、はい……」


 最後に注意されてしまい、しょんぼりとしてしまったけれど、何を落ち込んでいるのか。節度を保つことは良いことだし、まだ学生なのもまた事実だ。

 僕は書斎を出て与えられた部屋に行く。


 その日から、慌ただしい日々が過ぎていった。

 僕の名前はリステリア・ルツェンブルクだけど、初雪奈緒という名前もある。だからと言って初雪という性は使えない。

 慣れているから、名前の方は奈緒で良いと思う。女の子でも十分通用する名前だと思うし。

 問題は性だ。

 時間をかけて考え、ふと頭の中に思い浮かんだその性に決めることにした。

 前世である程度調べたことのある僕のルーツ。

 それによれば確か安倍晴明だったはずなのだ。

 だから、僕の新しい名前は、安倍奈緒、にしようと思ったけれどこれは酷い。

 だめだ。

 もう面倒だし、鈴木奈緒でいいかな。

 これならたくさんの人がいるから問題ないはず。

 あまり珍しい名前にするとふざけてるのか、なんて言われるかもしれないので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想、評価、レビュー等!いつでもお待ちしてますので気軽にお願いします!また、閑話リクエストを随時受け付けてますので、何度でもご自由にどうぞ! 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ