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第1話 僕、死ぬみたい

 僕の名前は「初雪奈緒はつゆきなお

 名前はまるっきり女の子だけど、僕は男だ。

 容姿は中性的⋯⋯というより、見た目は完全に女の子のようで身長も低く、150台後半だ。

 そのせいなのか小学校・中学校といじめられた。高校に入ってからはいじめはなくなったけど、女の子からも男の子からも「好きです!付き合ってください」「なおくんかわいい〜!」なんて言われる日々。

 もう高校3年生だから勘弁してほしいと思う。だから、僕はこんな中途半端な容姿になるんだったら女の子になりたいと常に思っている。


 僕は自分に嫌気が刺して女の子になる方法をインターネットで調べまわった。現実的なのは手術。だけど、手術はお金がかかるしとてもじゃないけどできない。


 そんな時、アニメ・漫画・小説と言ったエンターテイメントに出会った。創作物と言われるそれらは僕にとって宝箱だった。

 宝箱は僕にいろんな影響を与えてくれた。特に、哲学分野に関しては随一を誇っていると思いたい。

 それから、転生・転移と言う異世界もの。中でもTSの付く作品は特によかった。


 自然と異世界ものに惹かれ、次々と僕を魅了して行った。

 主人公最強ものや主人公成長もの、クラス丸ごと転移して一人だけ無能だったり。でも、その無能もキチンと主人公補正で強くなっていった。


 僕はそんな世界に、シチュエーションに憧れていくようになった。


 *


「どこかに異世界に行けるところがあればな⋯⋯」


 ぼそっとつぶやいたこれはいつもの癖で、異世界に行きたい思いが強過ぎて、無意識的にこういうことをつぶやいてしまう。

 呟いたことに自覚を持つことも珍しいのだ。でも、そんなつぶやきはこの雑踏の中では誰にも聞こることもなく霧散していく。

 だからこそ口から漏れてしまうというものだ。


 今いる場所は学校の電車の最寄駅だ。

 今日は友達とは一緒に帰っていないけど、普段は一緒に帰ったりする。

 クラブにも所属しているので友達の数も中々多いと自負している。ホームには当然のように同じ学校の生徒がたくさんいて、その中には先生も。


 そんな中、列に並んでいると前にいる女の人が手を繋いでいたはずの幼児と手を離してスマートフォンをしていることに気が付く。

 何をしてるんだ?思いつつもその場からは動かない。それはほかの人も同じで、幼児のことを大丈夫かなぁと見ていると、線路に向かってフラフラと歩いているのが見えた。

 思わず前の女の人に声を掛けようとしたけど、その暇もなかった。


 幼児が線路内に落ち、駅構内に泣き声が響き渡る。どうやら落ちた衝撃で死にはしなかったみたいでよかった。


 そんなことも束の間。


 駅構内にアナウンスが響く。


「2番乗り場を列車が通過します。白線の内側までお下がりください」


 前の女の人は自分の子が落ちたというのに、気づいていないのかずっとスマートフォンを触っている。

 2回目のアナウンスで幼児がいないことに気が付いたけれど、どこにいるかわからないようで周囲を見回していた。

 僕は女の人が幼児の泣き叫ぶ声が聞こえているのに見つけられないと思って思わず線路内に飛び降りてしまった。


 チラリと電車が来る方を見てみると、もう見えるところまで来ていた。

 全身がブルリと震える。そんな自分に「異世界転生好きなんだろ!」と鞭を打ち覚束ない動きで幼児を抱っこし、目の前にいた最前列の男性に渡した。


 僕も上がろうと思いホームに手をかける。

 この時初めて自分の身長が低いことを思い出した。自分の筋力ではどうやっても上がれる見込みがないのだ。懸垂もろくに出来ないのに上がれるわけがない。


 僕を見た最前列の人が手を差し伸べてくれた。その人も必死の形相で引っ張ろうとしてくれている。

 でも、僕の頭は狂っていてそれを掴むどころではなかった。


「(なんで上がれない!?なんで!もう電車がすぐそこまできてるのに!)」


 所詮異世界転移や異世界転生をしたいと言っても口先だけだったのだ。そうでなければこのような状況に陥りはしない。

 僕は迫り来る電車に恐怖し、硬直した。手に力が入らず引っ張ってくれていた人の手から離れていく。

 その隙を逃さないというように視界全体に電車が映り込んだ。


「(お父さん!お母さん!ごめんなさい!)」


 勝手に死んでしまうことに対して。

 彼と彼女のいない場所で死んでしまうことに対して。

 2人のこれからのことを思って最後に全力で謝った。


 そして僕の意識はそこで潰えた。


 暗闇の中に沈んでいた意識が次第に浮上する。徐々に時間をかけてゆっくりと。


「あぁ、死んだのか。僕は」


 あっさりと死んだ事を認める自分がひどく苛立たしい。こんなことになるのであればもっと親孝行していればよかった。


「ここは⋯⋯?」


 呟きに反応して死ぬ前の出来事が走馬灯のように駆けていく。

 こういうものは本来、生きている間に体験するんじゃないだろうか?

 ここはどこなのか、ここは知らない場所という自問自答が数回繰り返された後、どこからともなく声が聞こえた。


「汝は人を救おうと命を落とした。我は汝にもう一度生を与えようと思い、この場に来た。生を与えられるにあたり、望みはあるか?」


 僕はすぐに察することができた。これまで何度も夢見てきた奴だ。何故このタイミングなのかと呪いたくなる。

 確かに異世界転生をしたいと思っていた。でもそれは寿命を終えてから⋯⋯という思いが心のどこかにたくさんあった。


「(あぁ、異世界転生か。この人絶対神様だ)」


 後から「何でもいいぞ」と付け加えられ、本当に異世界転生ものでよくあるチート付与だと思い、異世界に必要そうなものを挙げていく。


「まず、言語理解。それから膨大な魔力。あと、異世界転生なら冒険者とかよくある転生ものな感じの世界がいいなぁ。もちろん、魔法を使うのはイメージで。あぁ、あと、性別を女の子にして超美少女がいい。それから村人から始めたいな。5歳くらいで盗賊に村を襲わせて僕だけ助かるようにしてほしい。最後に、死んでからの記憶を消してほしいかな、神様にチートもらった記憶があったらなんだか気がひけるし。それと、僕にはそれ以降不干渉でお願いします」


 どうせ夢か何かなのかもしれないと思いそう答えた。

 記憶を消してもらう本当の理由は気が引けるというものではない。神様とあったことで何か裏があるんじゃないかと相当考え込んでしまうことが目に見えているからだ。

 でも、どうして対価も求めずに転生させてくれるのかがわからない。この手の物は何かしらの対価が必要だったはずだ。

 それがないというのはどうも怪しすぎる。

 それらを考えないようにするためにも、記憶を消してもらう必要がある。


「汝、遠慮がないな。まあよい。そろそろ転生の時間だ。達者でな」


 投げやり気味の神様の言葉に「きちんとチートくれるのだろうか?」と思って視線を送ると「心配するでない。それらはやろう」と言われた。

 心の中も読めるのかもしれない。

 すると少しの時間を置いて体が暖かい光に包まれると、体から魂が抜け落ちるように意識を手放した。



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