第29話 僕、見通しが甘かったみたい
王都の様子を見ていると、次々と報告の人が舞い込んできた。
やはりと言うべきか、王都だけが襲われていたわけではないようだ。
僕は来た順番に並んでもらい、一人ずつ報告を聞いていく。聖徳太子のように何人もの話を同時に聞き取ることなんて出来ないからだ。
「ルツェンブルクは半壊、何とか間に合ったようで現在は我々の力で撃退しているところです」
「ライセンブルクは門が破壊された程度で持ち堪えていました。加勢したので、すぐにでも落ち着くことでしょう」
「クラッセンも、ライセンブルクと同様ですね」
「リウドはルツェンブルク同様、半壊でした」
「リコリスは間に合わず全壊していたので、現在魔物を掃討し生存者を捜しています」
やっぱり、全壊のところもあったのか。
それから報告を聞いていると、冒険者ギルドが置かれている街は半壊や門が破壊される程度であり、冒険者ギルドが置かれていない街は全壊、生存者の数も不明ということだった。
龍王国からの報告は皆無なので、特に大きな問題は起こっていないのだろう。
「そう……それじゃ、皆も持ち場に戻っていいよ」
全員から報告を聞き終わるとそう指示を出し、持ち場に戻らせる。
この事を国王に伝えなければいけないので、王城にある王の私室に転移した。そこにはいなかったので、次は謁見の間。
ここにいなければどうしようかと思っていたのだけど、運良く来希たちもいた。
このことは全員が知っておくべきことだと思っている。
「……と、他の街はこんな感じになっています」
チルノさんが門が破壊されている程度、半壊している程度、全壊し生存者のいる可能性が低い程度の3つの段階で大まかに分けて説明した。
その言葉に、今日何度目かわからない驚愕の表情を作ったかと思うと、国王は虚ろな目になりうわ言のように何か呟く。
「まだ、ダンバリンのような奴がいるというのか……」
その呟きは口の動きしか見えず、聞こえなかったけれどチルノさんによれば、そんな風に言っていたらしい。読唇術を使えるなんて凄いよね。
そんな事はおくびにも出さず、話を続けた。
「とりあえず、龍族の黒幕を調べよう。こっちの事も大切だけど、落ち着いてきたようだし」
チルノさんと一緒に空挺に転移する。
現在の空挺はただ浮いているだけで運転士を必要としていない状態なので、フェールトさんたちは広間にいる。
広間と言うのは一番奥の部屋のことを言って、空挺内で3番目に広い空間だ。
1番広い部屋は兵士たちを捕らえて閉じ込めていた広間で、2番目に広いところは甲板のようなところ。
広間は二つあり、そのうちの一つに集まっている。
「フェールトさんたちは空挺を使って龍王城まで帰還。僕たちは……」
指示を出し、行動に移そうとしたその時。
突然辺りが真っ暗になった。何も周りが見えず、一瞬混乱したけれどすぐに魔法で明かりを作る。
魔法の明かりに照らされた空挺内は特に変わりなく、そして外からの光が入ってきていないことで真っ暗になったのだと理解した。
窓から外を景色を見てみれば、近場はほぼ真っ暗に包まれている。でも一定以上の範囲から先はまるで影響を受けず、陽の光に照らされていた。
上空にある空挺からはその影の全景が見える。
「なっ……」
僕たちは言葉を失った。いや、言葉は失っても理解はできる。
これは間違いなく龍のシルエットであると。
だけどこんなに大きなシルエットは、通常の龍族ではありえない。あり得てはいけない。それほどに大きな影なのだ。
「まさかッ!」
まさか、龍神様ではないか!?
一緒に外を見ていたフェールトさんたちの誰かがそう言った。
これだけの大きさ、間違いなく龍神だ。
僕もそう思った。どうしてここに?
けれど、その大きな影が地上に降り立ち陽の光を浴びた途端、間違いだと気付かされる。
ドンッ!
何かが思い切り殴られたかのような音が聞こえて、そちらを見る。暗闇の中にいたからか一瞬目が眩み、目に光が差し込んだ。
「あれは……」
淡い光を放つその体と、その体から放たれている淡い光の色が緑を帯びており、周囲にある砂が小さな砂塵を巻き起こしている。
この事から、龍神ではないと知ることができた。また別の眷属神であるということも、それが誰なのかも理解する。
「風龍ネイルラッセン」
自然と口が開きその言葉が漏れた。
ネイルラッセンが聞こえているぞ、とでも言うような視線を僕に向けてくる。
まさか、聞こえているわけがない。
この距離、そして密閉された室内。
どう考えても、聞こえない。
けれどここは魔法のある世界。
もしかしたら……いや。
相手は風龍。ならその風を伝って……もし極僅かな隙間からでもその風で音を拾うことが出来るのであれば、聞くことも可能かもしれない。
きっと出来る。
「どうして、ここに?」
僕はネイルラッセンに問う。
周りにいるチルノさんやフェールトさんたちは「聞こえないだろう」と言いたそうな顔をした。
彼らは僕の真剣な眼差しを見ると、ゴクリと唾を飲み込みネイルラッセンの方へ向き直る。
全員が注目することを待っていたのか、ネイルラッセンの打てば響くような声が届いた。
『憎き人族を、そして、最愛の者を奪ったリステリアを滅ぼすためだ』




