第24話 僕、ダンバリンを見失ったみたい
龍族が街を片付けているところを見つつ、兵士たちを見る。その中には魔法を使える者もいて魔法を使って脱出を図ろうとする者が続出している。
それらの魔法は土で作り上げた檻を破壊することを出来ずに弾かれるようにして防がれた。
これなら大丈夫だと思い、龍族の被害の報告を聞いていく。
抵抗していたのは全員が戦闘部隊に所属している人たちで、抵抗が激しい人たちは殺されていたので死者は数百にも上った。
「以上が、今回の死者となります」
「そう……ありがとう。それじゃ、仕事に戻っていいよ」
「はい」
戦闘部隊所属の人から報告を受け、街の復旧に当たらせる。
そんな時、上空から降りてくる影が見えた。
「ケフリネータさん……ヴィヴィット……」
2人とも、僕とは違い怒りを押さえつけて何とか上空に留まっていたみたいで、上空から軽快に当たらせていた。
その2人が戻ってきたということは、周囲の視界にある部分に不審な人はいないということだ。
「リステリア姫、申し訳ありません」
ケフリネータさんが泣きそうな顔で謝ってくる。けれどあれは仕方のないことだ。
僕が自分のことを制御していればむざむざ捕まったりしなかったはずだし、こうして助かったのだからもういいじゃないか。
「それより、ダンバリンって人は見つかった?」
「いえ、見当たりません。あの者が言っていた人相が本当かどうかも怪しいです」
確かにそれは一理ある。
どこの世界に顎髭を仙人のように生やした30代男性がいるというのか。
それだけが目印で、逆に顔の特徴はそれしかない平凡な顔。だけど貴族なので銀髪なのだ。
そんなあからさまに変な人であれば、見ればすぐにわかる。
「でも、それしか情報がないからそれを頼りにするしかないね」
「……そうですね」
嘆息し、復旧作業に入った街の様子を見る。
ケフリネータさんも一緒に見ていたけれど、気持ちを切り替えたのかして上空へ飛び立っていった。
ヴィヴィットは人化して街の復旧に手を貸しながら、街の中にダンバリンが潜んでいないかを確認するようだ。
それも見つからないだろうな、と思うと自然とため息が出てしまう。
ダメだな、弱気になっちゃってる。
「とりあえず来希の様子でも見に行こう」
意を決して顔を上げると、目の前に来希がいた。
「あ、あれ?来希?もう大丈夫なの?」
「治癒してもらったからもう大丈夫だ。リステリアが来てくれていたらもっと良かったんだけどなぁ……」
「うぅ……ごめん」
「嘘嘘!冗談!リステリアが龍王の役目をしなくちゃいけないことくらいわかってるって」
茶化すように言ってきた来希に謝ると、そんなこと言われた。
理解のある旦那様はいいね。……旦那にはなってないけれど。
気がはやいよ!
と自分に突っ込みつつ、女としての心を押さえつけられなくなってきていることに気づく。
思えば自分からキスをするなど前世でも考えたことすらなかった。
途端に顔が熱くなっていき、来希に勘付かれて更に恥ずかしい思いになる。
「じゃ、俺はあいつらと合流してくるからな」
「うん。気を付けてね」
「リステリアもな」
「わかってる」
最後に頬に軽くキスをお見舞いしてやると来希の顔が真っ赤になった。悪戯に成功したような気分になりスッキリ爽快だ。
来希と別れると、僕は周囲の視線に気付いて、気付いていないふりをしながら転移魔法で逃げた。
逃げた先は龍王城の執務室。ここで2人と待ち合わせをしている。
その窓から見据える街は普段の活気のいい街ではなく、いや、活気はあるけれど、それはまた別物。
ヴィヴィットとケフリネータさんが執務室に転移してきたことを確認すると、僕は2人に問いかける。
「見つかった?」
その主語は言わなくともわかるだろう。
「いや、見つからない」
ケフリネータさんは首を振る。次いでヴィヴィットを見た。でもケフリネータさん同様に首を横に振る。
「こっちもだ。国王に所在を聞きに行ったりもしたんだが、あっちもダンバリンが行方不明で捜索中らしい」
人族側でも行方不明?
それってもしかして、戦いに巻き込まれて死んだ……なんてことになっちゃってる?
「もしかしたら、さっきの戦いで巻き込まれてるかもしれないから死体も確認してきてもらえる?僕は国王のところに行ってくるよ」
「わかった。ではケフリネータ殿、宜しくお願いします」
「リステリア姫のことは任せてくれ」
僕はケフリネータさんから差し出された手を取って、執務室からその姿を消した。
次に転移したところは国王の滞在場所である空挺壱番艦。
それは人族ように作り出した例の空挺だ。
中は宿泊できるようにもなっているため、魔法防御など様々な魔法が仕込まれているので龍王城の次くらいに頑丈だろう。
つまり、僕の魔法の前ではひとたまりも無いということの裏返しでもある。
「国王、いる?」
中に入り、国王がいるであろう最奥の部屋に行くと、憔悴しきった表情の国王と、体を強張らせて国王の左側にいるセレスと、セレスに似ていて国王の右側にいるもう1人の子ども。
おそらくこの子どもがセレスの弟で第二王子のケインだろう。
そのケインと国王の間に見たことのない一人の女性がいた。たぶん、王妃だと思う。とても綺麗な服を着ているし、無駄にゴツゴツした装飾を施さずに魅力を引き立てている。
「……リステリアか」
心底ホッとしたような安堵の息を吐く国王に、やっぱり国王はこの戦いに反対だったのだな、と得心を得る。
「全員捕らえたから、王国に戻ってから引き渡しとかするね。それで、この騒ぎの元凶はダンバリンって一人なのだけど、知り合い?」
「……ああ。知り合いだ。ここにいるケインに付けていた貴族!まさかあいつがこんなことをするなんて……。残っていた少数の兵を持ち出して捜索させているのだが……」
「見つかっていない、と」
「そうだ。本当にどこへ行ったんだ?あいつは」
ヴィヴィットから聞いていたことだけど、国王からもハッキリと居場所がわからないと言われてどうしようもなくなってしまう。
もし、ダンバリンが見つからなければ処刑されるのはその上司である国王に違いない。
けれど、国王は戦いを忌避していた。それを無理やり戦いに繋げたのはダンバリンに他ならないわけで、きっと兵士も、魔法師も、あの護衛の4人も騙されていたのだ。そうとしか考えられない。
「じゃあ、今日はここでじっとしてて。護衛をつけるから、安全だよ。明日には帰ってもらうけどね」
今、イルミナスさんは転移魔法を使って瓦礫の撤去作業や死体の回収などしていて、集中力が切れて龍脈の力を扱えなくなっている。
まだまだ復旧作業が残っているし、大人数の転移魔法はそれなりに疲れるとのことなのであまり無茶させたくはない。
明日、空挺の最速を出して王国まで届ければそれらの問題は解決できるはずだ。
そう判断して、僕はケフリネータさんの手を掴んで龍王城に転移した。




