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第19話 僕、宣戦布告されたみたい

 開けた途端に広がる腐敗臭。

 視界に映る本物の、生首。

 これまで体験したことのない異臭と衝撃で思わず吐き気が沸き起こる。

 その顔は悲痛に満ちた表情で固まっていて、なんとも言えない罪悪感に苛まれた。

 けれどこの人が僕のことを殺そうと、あんなふざけた真似をしてきたのだと思うとむくむくと殺意が溢れてくる。

 もう、対象は死んでいるのに。

 じっとその首を見つめていると、もう慣れてしまったのか吐き気もしなくなってしまった。

 これほど簡単に見つめたり出来るようになるものなのか、僕は本当に人間なのか⋯⋯魔王の影響を受けているのかもしれないけれど、そうだとしても、こうなることは無性に悲しくなる。

 人間としての矜持というか、何といえばいいのかわからない。それでも僕は人間でありたい。


「確かに、受け取った」


 ケフリネータさんに小突かれ、慌てて返答する。

 その言葉に国王はホッとしたようだったけれど、反対に護衛の4人の目つきに鋭さが増した。

 彼らを窘めるように国王が小声で何かささやいている。でもそれは聞き入れられなかったようだ。


「魔王リステリアというのは本当か?」


 国王より一歩前に出た男の人がおもむろに口を開きそんなことを聞いてくる。

 確かに、記憶も知識も全て引き継いでいて、今でもそれは脳裏に焼き付けられている。だからそれは間違いではないだろう。

 そう思って、コクリと頷いた。

 すると4人が各々の武器を手に持った。


「魔王を野放しにしておくことは出来ない。また、魔王を匿ったとしてお前ら龍族も、許されることではない」


「そうでござるな。それがしは後に聞いたから本当かどうか、魔王というの物を詳しく知らぬが、ヒスト殿が言うのであればそうでござろう」


「私は国王様を安全な場所へ」


「ああ、頼むべネト」


 日本の古風な武士のような口調に忍び笑いをしてしまい、またしてもケフリネータさんに小突かれる。今は真面目に聞けということだろう。

 その中に一人だけ無言で、うつむいている人がいた。

 その人が顔を上げると僕は驚きを隠せないでいた。


「リステリア⋯⋯正直、お前ほどの者が魔に堕ちるとは思いもしなかったよ」


 ライズさんの落胆した口調に、ぐさりと胸を刺された気がする。いや、気がするのではない。実際に刺されているのだ。

 これはライズさんからの警告と、別れの合図。


「僕は、確かに魔王だけど、今は正気を保っているし世界を破壊しようだなんて露ほども思っていない。こんな無意味な争いはやめにしない?」


 国王に向けて言うと、何故かヒストと呼ばれたひとが受け答えをする。


「今はそうだろうが、この先どうなるかわからない。であれば今、この密室で倒す!」


「あのさ、僕は国王に聞いてるんだけど。ヒストさんは国王よりも地位が上なの?」


「これは王国の総意!お前たち龍族を、殺す。この機会を逃すわけにはいかない」


 この人は本当に言っている意味を理解しているのだろうか?

 確かにこの4人からは他の兵士とは桁外れな力を感じる。だけど、それでも龍族を相手取るには足りない。ましてや今の僕の相手など、務まるわけがない。


「本気で言ってるの?国王はそれでいいの?これは、龍族と人族との誓いを破るということになるのだけど」


 その言葉にピクリと反応した国王だけど、なにも言う気がないのか、それとも本気なのか。

 口を噤んだ国王を見据えて、


『じゃあ、龍族は2度目の殲滅に移行するよ』


 宣言した。

 その言葉には魔王としての魔力を乗せ、彼らに重圧をかける。

 たったそれだけで国王は気を失ってしまった。

 パタリと地面に倒れた国王を慌てて支えるベネトと呼ばれた女性は僕を睨みつける。


「何をしたの!?今のは、魔王の力ね!そうとしか考えられない!」


 いや……これくらい誰でもできるよ?実力差がある場合に限るけれど。

 べネトの言葉は無視することにして、僕はケフリネータさんに指示を出す。


「ケフリネータさん、皆に伝えてきて」


「わかりました」


 恭しく頭を下げて転移したその姿にまた驚きの声が上がる。


「なんだ、それは」


 あれ、知らないのかな?国王なら知ってるはずなのだけど⋯⋯やっぱりこれは国王が決めたことではないみたいだ。

 誰かに操られているか、それとも言葉巧みに騙されたか。

 どちらにしろ黒幕を倒さないといけない。

 にしても、突然魔王だなんて言ってきて宣戦布告されるとは全く思いもしなかった。

 この一日二日で一体何があったというのか。

 それはまた来希たちにでも聞いてみよう。


 僕は魔力を抑えて龍脈の力を操る。

 その時、優しい風がふわりと舞い、髪の毛が変わる瞬間をこの目で見ることが出来た。

 黒髪から銀髪へ。

 これはもう、止められない戦いかもしれないけれど、出来る限り殺さないように、僕だけはしてみよう。


「ああ、そうだ。あれをすれば早いんじゃないかな」


 あることを思いだし、それを実行に移すべく口を開く。

 それは人族にとっては、かせとなる言葉。


『時は満ちる。今その呪縛は解放されよ。【血縛ぢばく】』


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