第15話 帰還者
「ようやく辿り着いたな」
「ここがそうでござるか」
「ええ、そうよ。ここが私たちの出発地。そして終着地でもあるの」
1人の女性と2人の男性が大陸から遠く離れた沖合から船で近付く。
彼らの頬を撫でる風は潮の香りが含まれており、大陸内部に住む者であれば新鮮な気分になれるだろう。
彼らの乗っている船は大型船で、かつての仲間2人と、この旅で仲間になった1人を除いた4人で協力して作り上げたもの。
帆は張っておらず、彼らは実力任せに狩り続けた魔物の魔石を大量に準備していた。
その魔石を使い、また旅先で補充しつつ船の動力源としている。
動力部には二つの歯車を模した水車があり、その水車によって前進している。
その速さは決して遅くも速くもなく、だけれど、人力でないからこそ意味がある。
『ッシャァァァア!』
「出たぞ!ケネル!」
海棲の魔物が彼らの船に襲い掛かる。
船を沈められたら、そこで彼らはなす術なく終わってしまう。だからこそ、全員が戦闘できるように自動で動く船が必要なのだ。
ケネルと呼ばれた、リステリアが見れば侍と称するであろう身なりを潮風にはためかせ、船底を蹴る。
その手に持つ片刃しかない、だがそれが彼の使いやすい形状である刀を振りかざし、何かに気付いた彼は咄嗟に下段に構え直して下からすくい上げるように斬りつけた。
『シャァァッ!』
どうして気付いたのかと言わんばかりに威嚇を繰り返す、ケネルに斬りつけられた一匹の海棲魔物。
そこに矢が飛来する。
『業火』
女性が撃ち放ったその矢は体長6mに迫る海棲魔物の巨体に向かう。
業火と呼ばれた矢はその名の通りであり、赤い炎ではあるが凄まじい熱量を持って襲いかかった。
海棲魔物は海中に潜ることでそれを回避し、そして、
『グシャァァァ……』
いつの間にか海中に潜んでいたもう1人の男が大剣を、海中であるのに関わらず呼吸すらしながら斬りおろした。
真っ二つに斬り裂かれた海棲魔物はひとたまりもなく絶命する。
『空闊歩』
大型船であるため、飛び降りるのは良いが乗り込む時が問題である。
男は魔法を使い海中を蹴り、海面を蹴って、最後に空を蹴った。ただ蹴るだけであるがその余波だけで水面が波打ち、船がわずかに揺れる。
「お疲れ様」
女性の労いに対して、海中で潜んでいた男は「おう」と答えてハイタッチをした。
「にしても、もう10年ぶりだな」
「何回目よ、それ」
男が言うと、女性が笑う。
彼らは10年ぶりにこの大陸に帰ってきたのである。
ようやく岸に辿り着き、船を身体強化を用いて押した。3人の力ではなく、男1人の力で。
ここまで帰ってくるまでの間も島を通過してきたが、やはり大陸に足をつけると感慨深いものがある。
彼らは、特にケネルは喜びに満ちた表情で足元を見つめる。
「ケネル、いつまでもそうしてると王都に帰れないだろ」
「そうよ、これからは一緒にここで過ごすのだから、ね」
2人に言われ、それもそうかと納得する。
自然と涙が出ていたのか、ケネルの頬には一筋の雫が垂れていた。
「おいおい、泣くほどのものか?」
「うるさいでござるよ、ヒスト殿」
「仕方ないでしょう?ケネルは初めてなのだから」
「うむ。やはり我が妻、ベネトはわかってるでござる」
ケネルは大陸の出身者ではない。
彼らの旅路でベネト……ベネティアと出会い、結婚したのである。
ベネトはここへ帰ってくることを決意し、ケネルもそれに賛同した。
ケネルの他にも大陸へ行きたいと言っていた者がいて、現在は船室の中に20人弱いたのだが、着岸したことに気付いたのか次々と降りてきた。
その中の1人の女性がベネトの方へ歩いていく。
「はい、泣かなくていい子だったわよ」
手渡されたのは今年4歳になるベネトの子。
船旅でよく酔っていたため眠りの魔法をかけていたのである。
『起きて』
優しく呟いたその言葉に魔力を乗せて我が子を起こすベネト。
彼女の言葉にようやく目を覚ました男の子は「ここは……」と呟き、今までに見たことないほどの広い空間を見て唖然とした。
「ここがお母さんの生まれたところよ」
そう微笑んだ彼女は最愛の息子の名を口にする。
「あなたも今日からここで過ごすのよ、ナオ」
その時、一際強い潮風が彼らを祝福するように吹き抜けた。
20人にもなる一行は大地を踏みしめながら歩いていく。
その道のりはすぐに終わりを告げた。
彼らの視界に王都の外壁が映り、そしてそれより手前にある巨大建造物。
巨大建造物に関してはこの大陸出身であるヒストとベネトにもわからない。まして魔物の跋扈する土地で、外壁の外に建物を作るなど自殺行為に等しい。
「なんだありゃあ……」
「ま、王都で聞けばわかるでしょ」
ヒストの呆然としたつぶやきにいつになく軽い調子で答えるベネト。
ベネトにとって、帰ってきたことが最重要であり、他のことなどどうでもいいのだ。
そして、一行は王都の外壁をくぐった。




