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第14話 僕、空挺の完成品を見るみたい

 翌日、朝から城内は慌ただしい気配に満ちていた。

 その原因は空挺が完成したからだ。

 空挺は大工房から試運転も兼ねて飛んでくるらしい。1番に乗りたかったのだけど、駄々をこねる子どものようにはいかない。

 その空挺の迎えの準備で忙しいのだけど、僕に情報は伏せられていて現状がよくわかっていない。

 むくりと起こしていた体を立ち上がらせ、既に部屋の中で僕の行動を見張っているキースさんとナースさんに目線で合図をする。

 同時に2人は衣装箪笥の中から出来たてホヤホヤの普段着用の服を取り出し、僕に着せてくれた。

 かれこれ2年もお世話されていたら必然的に慣れてくるわけで……。


「終わりましたよ」


「じゃあ、朝ごはんを」


「いけません」


「お腹すい」


「ダメです」


 そっかー、ダメなのかー。

 朝ご飯を食べるついでに着陸予定地の城門前を廊下の窓から見ようとしている魂胆がバレているのか。

 そこにちょうどいいタイミングでアリアナさんがノックをして入室してきた。


「朝食をお持ちしました」


 ……随分な徹底具合だね。


 アリアナさんはあれから元気になり、僕ともども治癒魔法で外傷は完全に治っている。

 ただ、全身打撲の感覚だけは残っているので少しだけ辛い。異常はないのに。


 痛む体に鞭打って、今日の朝食である味噌汁ご飯を口にした。

 味噌汁ご飯というのは、味噌汁に白米をドバーンと入れてしまった料理のことで、龍族は汁飯と呼んでいる。


「執務室へは、今日だけ特別に転移でお願いします」


 朝食を終えて、アリアナさんに言われた通りそのまま執務室に転移した。


 執務室にも窓があるので外を見れることにワクワクしていたのだけど、そんな純心は粉々に砕かれた。


「どうして全ての窓がなくなってるの……?」


 呆然としたつぶやきに答える者は皆無だった。



 テンションだだ下がりの状態で通常業務を済ませ、昼食の時間がやってきた。

 今度こそ見たい。


「では、昼食の前に空挺でも見に行きましょうか」


「そうだね」


 ケフリネータさんの軽い調子にうっかり流されそうになり、慌てて振り向く。

 そこにはしてやったり、という表情をしたケフリネータさんがいた。

 怒りよりも呆れの方が勝ち、死んだ魚のような目で彼を見つめていると扉が開かれた。


「もうじき到着しますので、急いでお越しください」


 城内での転移は基本厳禁。特例の場合のみ許可されている。

 つまりこの急いで、というのは転移をせずに今から徒歩で向かうとギリギリの時間になりますよ、ということだ。

 戦闘部隊の1人だったその人はすぐに反転して来た道を戻っていく。あの人も楽しみにしているみたいだ。


「空挺のお披露目、楽しみだね」


「俺は見てますけどね」


「あ、私も見てますよ」


 そのあと、俺も私もと続いていき、執務室にいる僕以外が見たことがあるようだった。

 そりゃあ慌てないわけだよ!


「つまりリステリア姫だけが見たことがないのですな」


 黒い笑みを浮かべるケフリネータさんの脛を素の力で思いっきり蹴り、僕は思わずその場にうずくまった。


「いったぁ〜!」


「アホですか、あなたは」


 ケフリネータさんに呆れた目で見られ、痛むつま先を気にしながら立ち上がる。


「緊急事態、転移許可」


 そうつぶやくと、ヴィヴィットが長いため息を吐いて許可を出してくれた。

 感謝します!大統領!

 城内の転移での許可の最終決定権はヴィヴィットにあるのだ。


 転移魔法を起動させ、転移先に城門前を思い浮かべる。発動したと同時に視界が切り替わり、僕は絶句した。


「……どうして、なんで、城門が消えてるの……」


 それは震える声だった。

 その声に答える者はなく、周囲に鋭い視線を巡らせても作業中ですよアピールを振りまくっていて、相手にしてくれない。

 まさか、城門を取っ払わないといけないほど大きい空挺が出来ちゃったの?また倍の寸法になったの?ねえ、教えてよフェールトさん。

 思いながら空を見る。フェールトさんもこの空の下にいるのだから伝わるだろう。

 視線を下げようとしたその時、視界の隅っこに飛行物体が映った。

 空に浮かび、後ろの部分では煙が吹き出している空挺……ではあるのだろうけれど、思ってたのと違う。依頼した形と違う。


 それは僕の目の前に降り立った。


 そう、思っていた時期が僕にもありました。


「なに、これ」


 突如として僕の思い描いていた空挺が姿を現したのだ。きっと透明化を導入しているのだろう。別にそこまでの機能は望んでいなかったのに。


 だけど、やはりというべきか、サイズは倍だった。


 ズシンと重苦しい音と共に地面に降り立った巨大飛行物体、空挺の中からフェールトさん以下大工さんが降りてきた。

 自信満々の笑みを浮かべて降りてくる彼らに冷たい視線を送る僕。


「り、リステリア様?」


「これ、随分大きいみたいだけど?」


 だから城門を取っ払ったのか。

 悪い意味で期待を裏切らない人たちだ。


「それはまぁ置いといてください。これはリステリア様専用機。人族を乗せるのはこちらです」


 フェールトさんが合図のように右手を挙げるとまたしても空挺が現れた。

 この数日で3隻ってどうなってるの?


「実は、人族が来ることを知った龍王国民が騒いだのですよ。それを収めるために会議で決まったらしい『技術の差を見せる』というのを話すと、騒いでいた人たちが手伝いに来たというわけです」


 なるほど。

 3隻作る理由になってもサイズが倍になる理由はないね。


「どうして大きくしたの?」


「それでも余る人員が居たので、仕方なく……誠に遺憾なことであります」


 棒読みで読まれたその言葉セリフに僕は拳を突き出した。

 瞬間的に龍装をしたので寸止めされたそれでも周囲に突風を起こすには充分であり、フェールトさんは尻餅をつく。


「はぁ……まぁいいや。小さいよりマシかな」


 うん、小さいよりはマシだ。そう思うと随分と気が楽になった。


 そして、国王と来希たちが来る前日の午後は慌ただしく終了した。

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