第11話 僕、ミスティと合わせるみたい
僕たちは親交を深めるためにお互いに協力して魔物を倒したりしながらリウドの街に戻ってきた。
いつか共闘するかもしれない人たちと一緒に戦うのは楽しかった。
僕は魔法はほぼ完璧だけど剣筋はまだまだみたいで教わることが多々あった。とても有意義な時間だと思う。
街に入ると出た時に感じたものと違い、まるで全く別の街に来たみたいだ。これも、あの結晶を取り込んだ影響だろう。
でも、僕はこの五感を昨日のうちに制御出来るようになっていた。
雑踏を聴覚から消去し、僕の周りに空気の壁を作る。音は空気が振動して鼓膜が震えて脳に信号を与える。だから、振動しない空気を作れば立派な壁になる。
ただ、それだけじゃあミスティたちとの会話もできない。
僕はミスティたちがいる方向だけ空気の壁を作らない。そうすることで音が届く。
「やっと帰ってきたね、冒険者ギルド!」
ミスティが元気よく言い、隣にいる僕も大きく頷く。冒険者になってからこれほど冒険者ギルドを離れていたのは初めてだ。
「依頼達成報告、お願いします」
受付に行き声をかけると、もう慣れた作業で報告と報酬の受け取りを済ませる。今回の報酬は白銀貨1枚だ。これは結晶があってもなくても同じ金額なのでものすごく助かった。
そこで各々解散することになった。
僕とミスティはBランク冒険者が泊まるに相応しい宿を取った。Cランク以下とは一線を画すようなほど豪華絢爛な宿だ。これでBランクだとAランクの宿が凄いことになっているかもしれない。
因みに、Sランクの宿はない。そもそもSランクなんて数人しかまだいない上にここらでSランクは活動しない。王都には貴族の泊まる宿にSランクが泊まれる宿があると聞いたことがある。
「ミスティ、大事な話がある」
僕が「大事な」と言うことは本当に大切な話だとミスティは認識しているみたいで、すぐに真剣味の帯びた瞳と雰囲気を醸し出す。
「なに?お姉ちゃん」
「えっと、鉱山での結晶のことなんだけど…」
前置きをしてからライズさんに話した内容のこととライズさんに話していない部分も話した。ライズさんには話せなくてもミスティなら全て話せる。たった一人の血の繋がった姉妹なのだから。
「そうだったの?じゃあ魔法は使えるんだね!よかった!」
僕は街まで戻ってくる道中、一度も魔法は使っていない。剣を学べる機会があまり無いからこの際真面目に学ぼうと思って。
それでミスティの勘違いを深めていたみたいなので謝罪もしておいた。
「てことでミスティ、器合わせっていうのをやろう」
「器合わせ?」
僕は前世に置いて異世界転移や異世界転生ものを人より多く読んだ。その中に、たった1作品だけあった技を使ってみようと思う。成功するかはわからないけどやってみる価値はあるだろう。
「そう、器合わせ。器合わせっていうのは自分より魔力が高い人と同じ大きさの魔力を手に入れることができるんだ。ミスティの魔力を僕に合わせておいたら出来ることも増えると思う」
「う〜ん。よくわからないけど、お姉ちゃんがそう言うなら」
僕はミスティに指示を出す。
「僕がやることを真似してね」
まず、僕は正座をした。それを見たミスティも合わせて正座をする。
次に、両手を僕とミスティの半ばほどまで伸ばした。ミスティも両手を出すと、お互いの両の手の平が合わさる。
「これで準備完了だ。ちょっと気持ち悪いかもしれないけど、我慢してね」
僕が感じた痺れや痛み、吐き気などは感じないだろう。それでも不快感はあると思う。
僕の魔力が増えたのは結晶の所為。
これからするのはあんな無茶な魔力の底上げじゃない。あれは体内組織を作り変えたけど、器合わせは体内組織まで作り直すことは出来ない。
僕は自分の魔力を右手から送り出し、送った分だけ左手からミスティの魔力を取り出す。これを連続的な作業でする。
「これが…お姉ちゃんの魔力?優しい魔力だね」
集中していた僕の耳に届いたその言葉は、僕は物凄く嬉しく思う。優しい魔力なんて生まれて初めて言われた。ミスティの魔力は僕の魔力とは比べものにならないほどの優しさ入りだけど。
「お姉ちゃん、疲れた」
もうかれこれ数時間が経過している。膨大な魔力を持っていたミスティならすぐに終わると思っていたけど、そう簡単には終わらなかった。
器合わせが思いの外難しかったこともある。でも、一番の問題は僕とミスティとの魔力量の差が思った以上にあったこと。
もうすぐ半日経とうか、というところでようやく終わった。
長い時間集中し、飲まず食わずで睡眠も取らずにやっていた。僕とミスティの精神力は0に近い。
だけど、そのお陰でミスティの魔力は僕と同等の量になっている。これだけ魔力があればどんなことも対処出来るだろう。
「凄いね、こんな簡単には増やせるなんて」
僕は、簡単じゃないよ、と言ってからこの魔力の増やし方の隠匿を徹底させる。こんなことが流行れば大問題だ。正確なやり方を知らなければ命に関わるし、例え偶然出来たとしてもその巨大な魔力に飲み込まれる危険がある。
その点、ミスティは優秀だ。器合わせの前に軽く頭を撫でて感情を読み取ってみると『お姉ちゃんのためにもがんばらないと』と思われていた。これを読み取ったから実行に移せたのだ。
僕は、出来る限りミスティのために出来ることをしてあげたい。それが僕を守るためのことだとしても。
「そろそろ寝よっか。ご飯は起きたらでいいよね?」
「うん。私ももう…」
ミスティは最後まで言い切ることなく、不意に糸が切れたかのように眠りについた。
僕は器合わせが成功したことに安堵し、無事に終了したことを嬉しく思いながらミスティを抱きかかえるように眠った。




