第9話 僕、魔道具を送るみたい
いつものように執務をしていると、部屋の受け取り用魔術式が光りだした。光が収まり何があるのかを確認すると、一枚の手紙しかなかった。
その手紙はいつもと同じように簡潔にしか内容を記されていなくて、恋文みたいな文章がなくて少しガックリした。
膝を落とした僕とは違い、その内容を見て執務室にいる人全員が眉を顰める。
「なんだ?これは」
ケフリネータさんが中身を確認した途端空気が重くなった気がした。
僕もそれを見た瞬間、正気を疑いたくなった。
まさか王や王子が遊びに来るなんて思いもしなかったからだ。
勇者たちが来るものとして準備してきたため、あらゆるところが杜撰になっている。
そのことを皆理解しているのだろう。どうやって迎え入れるかが話し合われることになった。
来希たちは魔法で空を飛べるから、転移で龍王城まできてから空に飛び上がってから案内しようとしていた計画が音を立てて崩れたからだ。
「では、どうされますか?」
「空を飛べないとなると、我らの背に乗せるということですか?」
「それは皆が許さないでしょ」
背に乗せて飛んでくれるのが一番早いのだけど、全員がそれを良しとしないことは分かりきっている。
ならどうするか。
王子が来るということはセレスも来る可能性が高い。セレスは友達だと思ってるから、是非楽しんで帰ってほしいと思っている。
だから空からの龍王国も見てほしいのだ。
……異世界定番の龍籠を再現するためには……。
「籠を作るしかないか……」
「籠、ですか?」
心の中で呟いていたはずだけど、口に出してしまっていたらしく、一番近くにいたキースさんとナースさんが声を揃えて聞いてきた。
「そ、籠」
籠というのがわからず皆がはてなマークを浮かべている中、籠の全体図を描き上げる。
本当に簡単な絵なので後で設計図を別に作る必要があるだろう。
「これが籠とやらか」
「まるで空飛ぶ船のようですね」
確かにその通りだ。
空飛ぶ船……、空挺とでも呼ぶべきかな?
「これを大工さんたちに見せて、設計を自分たちでさせて試作品が出来たら呼びに来て」
「わかりました」
ナースさんにその紙を渡すと恭しく頭を下げて部屋から出ていく。
龍籠と空挺どちらがいいか、迷いどころだ。どっちもかっこよさでは同じくらいだし、やっぱり龍族が引っ張るのだから……別に引っ張らなくてもいい気がしてきた、
魔道具で空を飛ばせば問題ない。
その結論に至った時、既に執務は再開されていて突然立ち上がった僕に訝しげな目を向けてきたのは記憶に新しいことだ。
夕方になり、空挺の試作品が出来た。
でも、装飾がないので人族の王族に舐められてしまうかもしれないと思うので装飾は侍女一同に任せることにする。
空挺自体の出来は文句の付け所がなかったけれど、龍族が引っ張る前提で設計されたものだったため作り直しとなった。
それも作るのは2度目だったからか夜には試作品2号が出来ていた。
「うん。これなら大丈夫そう」
その言葉にホッと安堵の表情を浮かべる大工さんたち。
大工さんたちを労ってから、僕は魔道師に頼んでおいた龍脈の力の影響を受けないようにする魔道具を見に行く。
そこには既に魔道師の姿はなく、一つ一つ数えていくと頼んでおいた150個全てが完成していた。
完成したら仕事を終わっていいよ、と伝えていたので誰もいないことをとやかく言うつもりはない。
けれど責任者のネネさんくらいは僕が来るまで待っていてくれても良かったんじゃないかな……。おかげで頼み事をする事ができない。
「あれ、皆さんどうしたのですか?」
ふと声が聞こえた方に視線を転じれば、そこにはハンカチで手を拭いているネネさんの姿があった。
ネネさんは一箇所に山と積まれている魔道具を見てポンと手を叩く。
「なるほど、様子を見に来たのですね」
「それもあるけど、今度人族の王族が来る事になったから空飛ぶ船を作る事になってね。その空を飛ばせる機構を魔道師に頼みに来たんだよ。試作品は出来上がってるから大工さんたちに聞いてもらってそれに合わせて魔道具を作ってね」
指示を出すと、それをメモ帳に走り書きしていくネネさん。
もう一端のプロだね。
「じゃ、今日はここで解散!」
パンパンと手を叩いて解散を促すと、ネネさんも「はふ〜」と気の抜けた声を出してだらけ始めた。
龍王の前でそんな態度!ということにはならない。
これは僕が決めた事で、解散と言うと龍王としてではなく私人として接してもらうようにしたのだ。
もちろんこれに反対する人はいたけれど、僕が即位している間だけだからとなんとか宥めすかして許可をもぎ取った。
最後にネネさんに、どれくらいで完成させられるかを聞いて私室に移動する。
来希への返事の手紙を書き始めた。
「こっちは3日後以降なら問題ないよ。それから来希たちにあげた魔道具を量産したから、それも送っとくね」
部屋の隅っこに設置している魔術式のところへ行き、空間に収納しておいた魔道具をそこに置いた後その上に手紙を置く。
龍脈の力を流し込むと、淡い光を伴って忽然と姿を消した。




