第8話 僕、空中大陸を完成させたみたい
春の月9週目、遂にこの日がやってきた。
事は数時間前に遡る。
トゥルルル……
龍王城にある執務室の固定電話に着信が鳴り響く。
宰相となったヴィヴィットは現在している仕事をキリのいいところまで仕上げると、足早に固定電話の元へ行き受話器を取った。
『所属と名前を』
ヴィヴィットが指示を出すと、その固定電話に繋がっているだろう魔道具からタイムラグ無く返事が来る。
『龍王様直属大工隊のフェールトです』
固定電話にかけて来るという事は、この部屋にいる全員が知っておかなければならないことである可能性が常に高い。
そのため常にスピーカー機能がオンとなっている。
『もしかして……』
『はい!遂に我らの悲願が達成されました!』
『午後よりそちらに向かう。準備しておけ』
『はっ!』
嬉々とした声が聞こえて思わず笑みが溢れた。
振り向いたヴィヴィットの顔も喜び一色に染まっていて、会話を聞いていたケフリネータさんやその他の龍王候補たちも喜びに染まる。
「はやくつまらない仕事を終わらせて行こうか」
「ああ、そうだな」
全員一致で昼食まで真剣に仕事をして、今に至る。
「お待ちしておりました!リステリア様」
フェールトが代表で跪いて挨拶をした。
僕はそれに答えて、周囲に視線を向けると全員が目礼する。
今日は祝い事なので無礼講だ。
「それにしても、すごい景色だね」
今来ている場所は、地上に設置した転移魔術式と繋がっていて、龍神城の隅っこに位置している。
上空から眺める景色はいつ見ても絶景だけれど、このように地に足をつけて見るのは初めてで、新たな感慨を覚えた。
「それでは、ご案内致します」
フェールトが龍化し、続けて他の者たちも龍化する。
それを見て、僕も龍化した。
僕の龍化はリステリア街道の道幅と同じく6000ミルの体長となっていて、少しばかりバグが起こっているのだ。たぶん。
全員で龍神城の空を飛ぶと、建造物が幾つも見えている。それらの建造物は龍化状態で過ごすことを前提とした設計となっており、大きさは一軒につき約100000ミルの高さと幅がある。本来の寸法では50000ミルだ。
これでも狭いと思うのだが、そもそも龍化している場合だとすることがないため問題ないらしい。
そして龍神城中心部。
そこには確かに設計図通りの城が建っていて、魔術式は問題無く起動している。
因みに、端から中心部にある龍神城までの距離は3億ミルで、日本を例えに出すと東京から沖縄くらいだ。
この距離を僅か1時間の飛行でサラッと進んだ。
僕たちはそのまま龍神城の内部に入り、龍神が待っている場所に徒歩で移動し始めた。
徒歩と言っても龍化状態で、なのでペースは速い。
とは言っても、龍王城を人化状態で歩いているのと大差ないためそれなりの時間はかかる。
暫く歩くと大きな門のような扉が行く手を遮った。
それは僕たちを認識したのか、自動で開いていく。
左右にスライドするのではなく外側に、つまり僕たちのいる方に開いていった。
全開になるとその部屋の全容がわかり、思わず「おぉ」と驚嘆の声を漏らす。
龍神の体は肥大化していて僕の10倍ほどありそうで、その他の眷属たちも最低でも5倍は大きい。
彼らからすると、僕なんて豆粒に等しいのではないだろうか。
そんなことが頭に浮かび、すぐさま首を振って打ち消した。
そんなことはないと自分に言い聞かせて、久しぶりの龍神とのご対面を楽しむことにする。
『久しぶり』
『久しぶりだな、リステリアよ』
『リヴィも、久しぶりだね』
リヴィの方を向いてそう言うと、軽く頷いただけだった。
何かあったのかな?
他の龍たちにも挨拶は必要かな、と思って見ていると、その内の1人の龍に見覚えがあった。
『もしかして、水龍……!?』
『お、おお、リステリアですか!?お久しぶりですね!』
遺跡以来の久しぶりの出会いだ。
そういえば龍王にどうたらこうたらとか言っていたような気がするけれど、その話はどうなったのだろう?
僕に引き継ぎのような話は来ていないから、きっと大したことではないはずだ。
『……ヒルデプラントよ、俺と対応が違いすぎないか?』
『何を言っている。貴様はこれで十分だろう?』
その言葉は僕に向けた暖かい空気は無く、寒空の下に強風が吹いているかのようなものだった。
一瞬で背筋が凍ったかのような錯覚に惑わされ、全身がぶるりと震えた。
『あぁ、怖がらせてしまいましたね。申し訳ありません』
『え、あぁ、うん。どうして?』
僕も龍王との扱いの差に興味が出てきた。
これほど違いがあるなんて、よっぽど龍王に嫌なことをされたに違いない。
『ふふ。それはリステリア、あなたが可愛らしいからですよ。あぁ、人の姿に戻れたのなら今すぐにでも抱きしめてあげたいです。私の可愛いリステリア』
今度は違う意味で全身が総毛立った。
彼は放っておこう。
『いいお城になってよかったよ』
『城なのか……?もはや大陸と言うべきだ』
黄色の眷属の龍がそんなことを言ってきた。
それは僕も思っていたことなので反論できず口を噤む。
『じゃあ空中大陸とか、そんな名前にでもしよ〜』
とても軽い調子の女性の声が聞こえてそちらを見てみると、漆黒に塗られた龍がいた。
『それはいいな』
龍神もそれに賛同した。
龍神が賛同してしまっては僕たちや眷属神となった七龍に選択権は無く、龍神城のある空中大陸という構図がここに出来上がった。
雑談をそつなくこなし、僕たちは空中大陸を後にする。
「これで、僕の政策は終わったね」
空中大陸の端で龍化を解き人化状態になり、転移魔術式の上に立つ。
その時、ふと王国にいる勇者一行のことが頭にちらついた。
「やっぱりこのまま王国に行ってくるよ!無性に会いたくなってきちゃった!」




