第23話 僕、龍王になるみたい
聞き覚えのない声に呼び出され、ベッドから飛び出して扉を開くと見知らぬ人がいた。
「こちらです」
その人の後をついて行くとすぐに食堂に着くことが出来た。最近いろいろな物が頭に流れてきて、龍王国のことを思い出すことが難しくなってきているのだ。
「どうぞ」
促されて食堂に入ると、その場にいた人たちの視線が突き刺さる。
怖気ることなく一歩踏み入れてまた一歩と慎重に進む。どこか探りを入れてくるような視線も混じっていてとてもではないけれど気分が良いとは言えないしむしろ害悪だと思う。
僕は龍王候補の4人が向かい合わせに座っているので、その隣の席に座った。
ケフリネータさんが上座の椅子の隣に控えるように立っていて、まるでそこには新しい龍王が座るために置かれているようだと思った。
その場には以前挨拶をしたことのある、リビアンさんと他5人に加えてその部下と思わしき人が合計で20人ほどがいる。
これだけいれば流石の食堂も狭く感じてしまい、全員が一斉に龍化したらどうなるんだろう、と想像してしまって思わず吹き出しそうになった。
僕で最後なのか、ケフリネータさんが口を開いた。
「では、これより新龍王決定議会を開催する。龍王候補の5人に加えて各方面の統治者6人の中から龍王を選ぶこととする。また、宰相の補佐を統治者の中から一人選出することにし、戦闘部隊長の席は俺が就いていたほうが何かといいと思う。俺が一番龍王に近いがこれは固定とする」
質問は?と周囲に視線を投げて、誰も質問がないことを確認したケフリネータさんは一枚の紙を全員に配り始めた。
「それは龍王を決める時に使うもので、一番相応しい者を選ぶための物だ。それの上位3名から龍王を選ぶ」
僕はケフリネータさんの部下と思われる人から紙を受け取ると、瞬時にその紙の色が真っ金金に変色した。
驚いて紙を落としそうになったけれど空中で拾いまじまじとそれを見つめる。
ほかの人はどうなっているのか、と見てみるとヴィヴィットとレイビスが僕と同じ色で、チルノとニグレットは若干濁っているようだった。
統治者の人たちは最早金と呼んでいいのかすら危うい色になっていて、なんだか羞恥プレイみたいでかわいそうだなぁと思った。
「では、ヴィヴィット、レイビス、リステリアは立て」
ケフリネータさんの指示に従って立ち上がる。リステリア姫って呼んでくれていたのに⋯⋯おかしいな。
やっぱり、真っ金金が一番いいやつだったぽい。僕って龍脈の力ほとんど失ってるはずなのだけど?
「この中から龍王を選ぶ。さて、ここで統治者の出番だ。この中で一番相応しいと思う奴を選べ」
どうやらここから先を選ぶために連れてきたみたいだ。
それなら候補者としてあげなくてもよかったのでは?
ケフリネータさんの言葉と同時に彼らは動き出した。一人、また一人と動いて僕たちの後ろに移動している。ヴィヴィットもレイビスも後ろを見ていないから、きっと見てはいけないのだろう。僕も前だけを見て、誰も来ないように祈る。
龍王になんてなったら面倒臭そうだからね。それになりたい人がいるのになりたくない人がなるなんておかしいよ。
けれど、僕の祈りが神様に届くことはなかった。
「では、3人とも後ろを向け」
指示に従い後ろを振り向くと、ヴィヴィットの後ろに2人、レイビスの後ろに1人、僕の後ろにリビアンさんと他2人がいた。
「(あっ、これダメな奴だ⋯⋯)」
「では、新龍王はリステリアとする。忠誠の儀をする。⋯⋯イルミナス」
呼ばれてケフリネータさんから少し離れたところにいたイルミナスさんが前に出てきた。そして瞬時に視界が切り替わり、全く見知らぬところへやってきた。
とても僕が入っていいとは思えないほど、落ち着いた雰囲気の龍王城とは違い豪華絢爛なところだった。
でも、人族の王城みたいに雑多に飾られていたりするわけではなく、きちんと整理整頓されていてとても綺麗だ。
「リステリアはそこに移動してくれ」
ケフリネータさんの言う通り、一段高いところに移動する。
すると勝手に龍化してしまった。
けれどその体は大きく、赤ちゃんのような体ではない。
疑問を覚えつつも周囲にいたケフリネータさん、統治者の6人、そして龍王候補の4人までもが僕に対して跪いた。
『我らが新しき王よ。我らは御身の為にあり、御身の手足となりましょう』
とても短いものだったけれど、その言葉には龍脈の力が含まれていることを感じ取った。
皆の言葉を受けると、自然と頭の中に言葉が浮かぶ。
『我、リステリアはここに、18代目龍王に即位することを宣言する』
瞬間、体が芯から撃ち抜かれたような感覚に襲われ、意識が飛びそうになったところをなんとか押しとどめ状況把握に努める。けれど皆は跪いている状態であり、危害を加えられる体勢ではない。
なら誰が⋯⋯と思った直後、僕の体が人化状態に戻った。
急展開についていけず硬直していると、ケフリネータさんが立ち上がった。
「成功⋯⋯か」
ポツリと零した言葉が気になり、問い詰めてみると失敗することもあるのだと言われた。
「もし、失敗したらどうなるの?」
「失敗し、世界から認められなかった場合、その者は死ぬ」
つまり僕以外のヴィヴィットやレイビスがここに立っていたら死んでいたということらしい。怖すぎるよ異世界。
しかも世界に認められたとはどういうことなのだろう?
後で詳しいことを聞かないと、と思う反面これから忙しくなるだろうなと遠い目をする。
僕が遠い目をしている間に全員が食堂に戻っていた。
皆、僕が龍王になることで言いたいことがあるはずなのに誰も文句を言ってこない。これも世界が認めたから、という理由で認めてくれているのだろうか?
魔王になって、僕には魔力があって、しかも金髪ではなく黒髪。
異端にもほどがある!
けれど、この日、確かに僕は龍王になった。
リビアン:第1章/第5陣/第11話に出てきています




