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第21話 僕、戻ってきたみたい

 疲労困憊の勇者たちと、見慣れない赤ちゃんがいた。

 なんとなくそれがミスティなんだろうな、ということがわかり、本当に転生したのだと実感する。

 でも、やっぱりミスティに対して後ろめたさが残っていた。


「ただいま、皆」


 自然と手が体の後ろで交差し、若干前のめりになった体勢で微笑むという女の子がすれば効果抜群な仕草をしてしまい、僕は首を傾げた。

 おかしいな?僕はいつも通りなはずなのに……。

 そう思い前の勇者たちを見るとやはりというべきか、驚いている。

 その時、ふわりと黒い何かが視界の端を通った。

 それを確かめるために目で追って見ると、自分の髪の毛だった。


「(髪の毛が真っ黒……!僕の銀髪がっ)」


 驚きつつも、記憶にある魔王のことを思い出して納得した。

 魔王の記憶も漁ってみるとどの時代の魔王も黒髪だったのだ。


『おかえり!リステリア(ちゃん)!』


 示し合わせたように全員で言ってくれることに自然と頬が綻ぶ。


「それと、ありがとう。……ミスティも」


 赤ちゃんに視線を合わせると、頭に声が響いた。


『どういたしまして、お姉ちゃん!』


 嬉しそうな声だったのでホッと息を吐いた。

 なんだか肩の荷が下りたかのような気分だ。

 実際その通りなのだろう。


 グラリと突然足元が揺れた。

 それは魔王の城の崩壊の始まりで、僕が正気に戻ったからだと理解する。

 それは他の皆も思っていたようで全員が空を……飛んだ?


「どうして空を飛べるの!?」


 思わず叫ぶ。

 僕はどうやっても空を飛ぶことは出来なかったというのに……。

 そう思い、絨毯を取り出そうと空間に手を伸ばす……けれど何もなかった。

 テント用品も、調味料も、魔物の肉も、卵も野菜も苦労して作った魔道具の数々もなくなっていた。


「はぁ……」


 ため息が零れる。

 それだけ苦労したのだ。いろいろと。

 たぶん、魔王になったことでリセットというか、デリートというか、消去されたんだと思う。

 全部出してから魔王になれば……そんな余裕はなかったのだけど。


「リステリアは空を飛べないんだったな。来いよ」


 来希が手を伸ばしてくれる。その手を掴み、その背に負ぶさった。

 体が密着すると、だんだんと心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。

 なんだろう……胸が熱い。

 なんだかそのことがとても恥ずかしくなり、来希の背に顔を埋めた。

 それでもなお鼓動は加速していく。抑えようとしても抑えられない。

 すると、トンっと着地音が聞こえた。

 それに合わせて飛び降り、上気した頬を見せないように黒髪になった髪の毛が顔にかかるようにする。


「リステリア……?どうしたんだ?」


 そのことを不思議に思った来希が顔を近づけてきた。

 バクバクと音が聞こえる。


「(どうして、こんなにドキドキ……そうだ、これは……もしかして、来希の事が、好き……?)」


 そう思った途端、ストンと何かが胸に落ち着いた。

 これが恋という奴なのかな……なんて呑気に思っていると、更に来希が覗き込んでくる。

 来希は僕の身長に合わせて若干屈んでいる状態で、髪の毛の隙間から来希の唇が覗く。

 何故だか我慢できなくなり、来希の顔の両サイドに手を優しく当てた。

 それを滑らせていき、首の後ろに巻きつけて抱きついた。

 同時に、僕と来希の距離が0になる。

 唇の触れ合う温かみが五感を刺激した。

 聴覚は来希の呼吸を捉え、嗅覚は来季の少し汗の混じる匂いを捉え、視界は目を瞑っているため見えないけれど、きっと来希も目を瞑ってくれているはずだ。

 来希が僕の小さな口の中に舌を滑り込ませてくる。それを拒絶することなく受け入れると、味覚をも来季の虜になる。舌と舌の触れ合う感触が脳を刺激し、蕩けそうになった。

 何秒ほどそうしていたかはわからない。けれどだんだんと離れていく来季に一抹の寂しさを感じてしまう。


「コホンッ!」


 わざとらしい咳払いに僕は空気を大量に吸い込んでしまい咳き込んだ。

 来希を見ると同じようになっていて、視線が合うと背けたくなった。でも、その来希の表情は苦笑いでとても楽しそうにしていたため、僕も自然と笑みが浮かぶ。


「こんな何もないところで何してるのよ!さっさと帰るよ!」


 僕は明菜に引っ張られ、来希は玲に引っ張られて、真は安定の赤ちゃんポジションで、この光景がずっと続けばいいなと思った。


 僕は若干残っている感触を脳に焼き付けながら連れられていった。



 ふと視線を転じれば物凄く巨大化している龍王が視界に入ったけれど、無視して王城に向かうこととなった。

 王城に入ると、魔王の城がなくなり勇者が帰ってきたによって喧騒に満ち満ちていた。


「無事でなによりだ」


 確かジーギヌスとかいう名前の王様が勇者を労う。どうやら勇者たちは相当に疲れているようで、空を飛ぶことで最後の魔力も使ってしまったらしい。


「大丈夫ですか!?」


 フラつく彼らに走り寄ってきた女性が真から丁寧に赤ちゃんを受け取る。


「大丈夫ですよ。その子には傷一つ付いていませんので問題ありません」


「そうですか……でも、あなた方は怪我している様子ではないですか……『小回復キュア』」


 女性が魔法を使うとふさりと髪がなびいた。

 その髪の色はこの世界では全く持つ人がいない緑色。咄嗟にミスティの方を見てみると彼女も緑の髪色だった。

 それに、耳が尖っている……。それはまるで……。


「エルフ!?」


「え、ええ。そうですが……あなたは?」


 何気なく頷いた彼女に「ようやく異世界キター!」とテンションが上がる。


「僕はリステリアです」


 言い放つと、周囲の空気が一瞬で凍りついた。


「……あー、もう大丈夫だから、問題ないぞ」


 玲が補足すると心底安心したように仕事に戻っていく城勤めの人たち。

 彼らを見つつ、そういえば魔王だったな、と今更ながら思い出した。


「あなたが……そうですか。転移魔法を使えるんですよね?神の大地というところへ連れて行って貰いたいのですが……」


 含みのある言い方をされるといい気分ではない。

 でも神の大地と言うと、僕が魔王討伐の際に行きそびれたところだ。僕もそこには興味があるので是非行ってみたい。


「わかりました。でも僕は行ったことがないので転移出来ないので……イルミナスさんにでも頼んでみますね」


 あの人は龍族一の転移魔法使いだから、きっとわかるだろう。

 僕は龍脈の力を練っていく。

 ふと、体の中に完全に独立した物を感じ取る。すぐにそれが魔力だとわかった。

 失った魔力をもう一度手にすることができて嬉しさ半分、魔王になったせいだとわかりきっているので悲しさ半分で龍脈の力だけを使う。

 すると、視界の端に見えていた黒髪の色が変色していった。

 変色してみると、その髪色は以前僕の地毛だった銀髪。

 そのことに感動を覚え、張り切って転移魔法を起動する。


 龍王国の王城に転移すると沢山の人がいた。

 その中にはキースさんやナースさんも居て、僕が現れると皆が駆け寄ってきた。

 皆の表情は明るく、誰もが僕の帰還を喜んでいるようでとても嬉しい。


「イルミナスさん!」


 ふとイルミナスさんを発見したので近寄っていく。すると、ピクリと肩を震わせたけれど、何もなかったかのように挨拶をしてくれた。


「エルフの人が神の大地に送ってほしいっていってるから、ちょっと送ってあげてもらえませんか?」


 上目遣いからのお願いは効いたようで渋りつつも了承してくれた。

 僕はそのまま王城に転移しようとしたけれど、戦闘部隊長さんに止められた。


「リステリア……姫」


 一応龍王代理も務めたこともあるから、呼び捨てにはし辛いのかもしれない。沈黙の末、姫となった。


「少し、俺と一緒に来てもらうぞ」


 後で聞いた話だけれど、この人はケフリネータという名前があるらしかった。これまで一度も聞いたことがなかったよ……。


 彼に連れられて転移した場所には龍王と、リヴィと知らない人たちがいた。人というか、龍が。


『戻ったか、ケフリネータ。リステリアも無事で何よりだ』


「はい。ただいま戻りました。早速ですが、報告させていただきますが?」


『構わない。頼む』


 ケフリネータさんは龍王に促され、驚愕の話をし始めた。

補足

龍脈の力の濃い龍王国へ魔力を宿したリステリアが転移した件ですが、「完全な独立した魔力」は龍脈の力と合わさることがないため気絶したりということにはなりません。


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