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第19話 魔王と勇者

 先代勇者4人と今代勇者が辿り着いた城の内部は外観同様、歴代魔王同様漆喰のような色合いだった。

 真っ黒に塗りたくられたその壁はまるで暗闇の中にでも迷い込んだようである。

 視線を足元に向ければそこには微かに色の違う黒の絨毯が真っ直ぐに伸びている。その先へ転じれば螺旋階段があり、それもまた黒であった。

 ふと天井を仰げば何かの紋様が描かれていた。この城は天井まで吹き抜けで、壁沿いに螺旋階段がある。

 紫色の不気味な空の下、真っ黒な正方形に見えた城は異様であったが、その内部は円錐状になっており、途中で遮られたかのように天井が見えている。

 外から見た限りではあの天井の裏にも行くことができるはずだと彼らは思う。


 赤子は……魔法で視力を強化したミスティは天井の紋様に見覚えがあった。

 それはかつて龍人族についての資料が置いてあったところに描かれていたものと同じ物であると理解する。


 勇者たちは全員が天井を見つめる。数瞬後、彼らは地を蹴り空を飛び始める。

 それはまるで妖精の舞踊(フェアリーダンス)のようであった。


 紫の光が入るような窓も隙間もない真っ暗闇の中、光を点ける魔法を使い明かりを確保する。

 真っ黒な空間に違いはないが、上層階へ行くに連れてその黒が深みを増していった。

 彼らは天井に辿り着く。重力を操るようにしてぺたりと逆さまに、コウモリの如く張り付いた彼らは上への道が無いことに気付いた。

 しかしないなら作ればいいわけで、魔力を練ろうと思ったその時だった。


 突然足をついていた天井が消え去る。

 その後、まるで吸い寄せられているかのように体が引っ張られ、抵抗虚しく何かに連れ去られた。

 彼らが招待された場所には一人の女の子が佇んでいる。

 その髪は本来の銀色の輝きを失っており、歴代魔王と同じように闇を染め上げたかの黒であった。

 その瞳は澄んだ蒼い瞳ではなく、また薄い黄色でもない。その色は魔物から始まり、魔の付く者たちと同じ色の目、煌々と燃え上がる炎のような瞳だった。


 まるで魔物のような雰囲気に言葉を失う勇者たち。

 しかし、そこへ先制を仕掛けたのは女の子ーー魔王リステリアであった。


「くッ!皆避けろ!!」


 玲の掛け声と同時に引力なような何かの力から強引に脱出し、その魔法を躱す。

 次いで連撃のように放たれた矢の魔法を見て驚愕に染まる。

 それは以前、聖龍リヴィテウス相手に使った『零・弓核』であった。

 5属性の光を灯したその弓は狙い違わず4人と1人の勇者に迫り来る。

 玲は踊るように軌道から逸れてその矢との接触を回避し、次の瞬間には後方で爆音が響いた。

 来希は力任せにその矢を中ほどから叩き折る。あまりにも強引な対処に、周囲は苦笑いする余裕はなかった。

 明菜は同じような魔法を作り出し見事に迎撃する。

 真は……赤子ミスティの結界魔法によって救われた。


「ミスティ!頼む!」


 予め決めていた、ミスティの役割。元より彼女はそのために来ていた。

 精神に作用する魔法を赤子ミスティが使う。

 彼女は以前の魔王との戦いで、魔力のみで構成された相手でも自我があれば効果があることを知っている。

 以前、魔王との戦いで使った『夢幻』は魔王の自我を封印するための魔法であった。その時、魔王はリステリアにやられたと勘違いし、彼女を最後の魔法で彼女自身とその周囲の時間を凍結させたのである。

 今回使った精神に作用する魔法は、勇者たちを自分の背へ招いた物とほぼ同じ。

 今度は彼女が魔王であるリステリアの(精神)に潜り込む番だ。


『あぁぁぁーーー』


 まるで泣き声にしか聞こえないその文言は魔法を発動させるに至る。

 そして、ミスティがリステリアの世界へ入り込んだ。


「これで大人しくなってくれれば……」


「バカっ!それフラグよ!」


 来希がフラグを立てたことにより、それのせいかはわからないが魔王に動きが見られた。

 魔王は横に手を振る。


「……?……ッッ!しゃがめ!」


 来希はリステリアとの雑談で聞いた内容を思い出しすぐさま

 屈み込む。それを見た他の勇者も、真は意識のない赤子と共に屈んだ。


 直後、頭上を何かが通った。

 手を振って数秒後、空間そのものが裂かれ、それは城を破壊する。

 斜めに切れ目が入った城の上層は滑って行くと同時に魔力の残滓となって消えていく。

 それをすかさず、彼らは吸収した。

 魔力を吸収するというのもリステリアから教わったものであり、空気中であれば魔力は多数存在しているが濃度は低い。

 だが魔法などの残滓であれば、その力は助けになりうる。

 早速吸収した魔力を使い魔法を使って反撃する。だが悉く躱された。

 それは彼らも彼らで本気で狙っていないことが問題であることは明白だ。

 来希の希望により、ミスティが成功したなら正気に戻るはずだから傷つけないで相手をするようになっているのだ。

 その無茶に皆が同意を示す。

 だから、ミスティが帰ってくるまでの間、彼女の肢体を傷つけることはできないのである。



 ミスティは真っ暗な空間にいた。

 そこは心を閉ざしたリステリアの深層域。


『ライト』


 呟くとポッと明かりが灯される。

 その事に多少安堵しつつ、ミスティは歩みを進めた。

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