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第16話 有本vs魔物①

 有本は『烈・風林火山』をうまく制御出来ていることに安堵の息を吐く。

 残りの4人と赤子を一目見て、魔物に邪魔されないように防壁を築き上げた。

 魔法で土を盛り上げて作られたそれは魔物にとってほんの些細な障害に過ぎない。

 だがそれを破壊して先へ進んだ者たちを追いかけようとはしなかった。


「ミスティ……ちゃんと、弔ってあげるから」


 ミスティの姿をした魔物に対して言った言葉は、当然のように反応する者はいなかった。

 だが、魔物はそうは捉えなかったのだろう。

 魔物の保有する魔力が徐々に高まりそれは魔法という形で放たれる。


 詠唱も何もない、予備動作といえば魔力の高まりのみの中で有本は神経を研ぎ澄ませる。

 その魔法がどこから迫ってくるのか。

 最大限警戒している有本の背後に大きな力の塊が前触れもなく出現する。

 彼は上へ飛び上がることによってそれを回避した。そのまま立て続けに2発の魔法が彼に向かって打ち出されたが、それらを空を飛ぶことによって回避する。


「危ない……空を飛べてなかったら本当に危なかった」


 魔力に侵食され、禍々しい紫の色に染まっている空で滞空する有本。

 その体の内に眠る魔力を確認し、彼は練り上げていく。

 すると、彼の周囲に突如として無数の剣や刀などの刃物が現れた。それらは物理法則を無視して浮遊していた。


ざんッ!!』


 有本の掛け声と共に放たれる魔力で象られた無数の刃物。

 しかしそれは所詮、魔力の塊である。


 ーー霧散


 魔物が声こそ発してはいなかったが、口パクでそう言ったことを感じた。

 それはリステリアが愛用していた魔法の一つであり、有本も特訓して使えるようになっている。

 けれど魔物が使うなどとは予想だにもしていなかったのだ。

 魔力の塊は『霧散』により跡形もなく霧のように散っていく。


 彼は思案する。

 何が効果的で、どうすればその体を傷つけることなく無力化出来るのかを。


水球ウォーターボール


 極々初歩的でシンプルな魔法だが、だからこそ効果がある。

 彼は『水球』を数十ほど作り出す。


火球ファイアーボール


『水球』と同じように数十にもなる『火球』を生み出した。


 その2種類の魔法を魔物の近くで衝突させる。

 直後、凄まじい爆音と共に衝撃波が彼の体を襲う。宙に浮いていた彼は抗う術なくその衝撃で空の彼方まで飛ばされた。

 彼は慌てて遅まきながらも防御魔法を作る。防御魔法と言いつつ、それはただ魔法で風を、抗えるだけの暴風をぶつけただけであったが。

 それでも一応の体勢を整え瞬時に魔物との戦場へと戻った。

 彼が戻った時に見た光景は、まるで無傷の地面と魔物の姿だった。


「クソッ!水蒸気爆発だぞ!?」


 水に高温度の物をぶつけることによって起こる反応。それは水から水蒸気になる際に1000倍以上の体積となり、爆発へと変わるのだ。


 魔物が口を開く。


 これはまずい!

 そう思った直後には魔法が打ち出されていた。

 辛うじて真横からの突風を発生させることにより体の位置を無理に変えることで、その攻撃をかわすことに成功する。


「口からビームって……」


 有本はなんでもありだなぁと呑気に感心した。だが、ビームは男であれば誰でも憧れるものだろう。

 彼は対抗心を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべた。


『まか○こう○っぽうッッ!!』


 指先に魔力を貯めて一気に打ち出したそれは、しかし『霧散』で見事に対応された。

 有本は何かの達成感と止められたことによる敗北感を味わい地面に降り立つ。


「これはまずいな……魔法を無駄打ちし過ぎたか?」


 彼が持っていた元々の魔力総量が100とすれば、戦う前は200ほとであった。しかし、魔法を無駄打ちしてしまったことによって、大した対抗策も講じず無策に使用してしまったため、残りは80ほどとなっていた。

 だが魔物の方はどうだ?

 彼は魔物を見て手に汗を握る。

 そして思った。


「(やっべぇ……遊びすぎたかもしんねぇ……)」


 先ほどの言い方をするならば、彼が感じた魔物の残り魔力総量は150ほどはある。

 2倍もあるのだ。絶望的であった。

 でも、彼は負けられない。負けてはいけない。


「行くぞ……ここからは本気だ。ごめんな、形、残らないかもしれない」


 憐れみと悲しみと同情のこもった視線を送り、魔力を練り上げていく。

 これまでの戦闘で彼は魔物の特徴を掴んだ。

 ならば、次からは、今からはそれに対抗するように使っていくだけ。

 彼は勝利を確信してにやりと口元を歪めた。

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