表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/522

第8話 僕、結晶を取り込んだみたい

 朝になり、僕とミスティはタープとテントの片付けに入る。

 他の冒険者たちとは鉱山の入り口で待ち合わせているからここには来ない。あまり待たせるのは忍びないので素早く準備を済ませてしまう。



「お待たせしました」


 随分と急いだのにも関わらず、既に全員が来ていた。


「おう、思ってたより早かったな。皆置いて行かれないように早めに行動してよかった」


 そう言ってほっと息を吐いたのはついて来ている冒険者たちのまとめ役の立場に当たる人物で、Aランク冒険者だ。僕たち二人がどれだけ注目されているのかがわかる。この中には貴族様お抱え冒険者も混ざっているのだ。


「じゃあ、行きましょうか」


 僕が声をかけると、僕の隣にミスティが来てその後ろをぞろぞろと13人の冒険者がついてくる。

 鉱山の中は鍾乳洞のような感じでイメージとだいぶ違った。


「これが…鉱山?」


 ミスティが思わずつぶやいた。それもそうだ。昔お爺ちゃんから聞いた話とだいぶ違う。


 お爺ちゃんの話には鉱山も含まれていた。あの5年は本当に有意義な時間で様々なものごとを教えてもらうことが出来て、僕もミスティもそのおかげで常識というものを身に付けた。もしお爺ちゃんがいなければ僕の前世での常識で乗り切らなくてはならないので周囲から見ると浮いて見えていたことだろう。


「ここは長い年月をかけて作られた鉱山でな。実はこの上から垂れ下がってるやつから結晶のもとになる液体を採取することが出来る。鉱山とは呼ばれているが、実は結晶の産地なんだ」


 後ろをついて来ている冒険者の一人がそんなことを教えてくれる。

 でも、それで少し納得が出来た。鍾乳洞のように水が滴るが、その水が魔力を含んでいるので結晶化するということなのだろう。昔のお爺ちゃんの講義には特殊な魔力を含んだ水は結晶化するということも含まれていたのだ。


「奥ってどのくらい奥なんだろう?最深部ってことでいいのかなぁ」


 もう結構歩いて来たのでつい言葉を漏らしてしまう。鉱山内部の地図を購入しておけばよかった、と今更ながら後悔している。後から悔いるから後悔とはよく言ったものだ。


「お姉ちゃん、そろそろ休憩しよ?」


 歩みのペースが少し落ちたことに気付いて昼休憩にする。体内時間的にもちょうど昼過ぎだろう。きっと外では太陽が真上にあると思う。


「そうだね。じゃあ昨日作っておいたやつ食べようか」


 そう言って取り出したのは昨日の夕食の後に作っておいたサンドイッチだ。リウドの街で購入したパンを薄く切ったものに調理した魔物の肉とキャベツのような野菜が挟んでいるサンドイッチ。同じく薄く切ったものにこの世界の鶏の卵を焼いたものと魚が挟んでいるサンドイッチの2種類だ。二つとも大量に作っておいた。これだけの冒険者が善意でついて来てくれているのだから少しは振る舞わないと失礼だ。と言ったのはミスティだ。本当に自慢の妹である。


「どうぞ!好きなだけ食べてください!」


 何もない空間から大量のサンドイッチを取り出したミスティは張りのある大きな声で各々休憩している冒険者に声をかける。すると、そこから「流石癒しの…」とか「天使…」とか「生きててよかった」とか聞こえてくる。

 僕はミスティと比べるとあまり人気がないみたいだ。

 でも、それは好都合。僕は前世では男だったのだ。女になりたいとは思っていたけど、男の人を好きになったことは無いしなろうとも思わないし、これからも好きにはならないはずだ。



 昼休憩が終わり、また最深部へと向かい歩みを進める。

 やがて壁が見え始め、そこにたどり着くと後ろから落胆の溜め息が聞こえミスティは首を傾げている。僕もミスティと同じように首を傾げている。


 だって、ここに壁はないはずだ。


「お姉ちゃん。これどういうこと?」


「わからない。でも、ミスティもそうなんだね?」


「うん。お姉ちゃんが教えてくれた探知?魔法にこの壁はないよ」


 ミスティの返事に頷いて僕はミスティの手を握る。それにミスティが気付いて握り返す。結構な強さで握ってきていることから少し不安なのだとわかる。

 僕も不安だ。本当にこの壁にぶつからないのか、先はあるのか。

 でも、僕も感じたように探知魔法にはまだ通路が続いている。おそらく幻覚の一種なのではないかと思う。


「お姉ちゃん」


「うん」


 僕とミスティは前に壁が見えているにも関わらず歩みを進めた。それを見た後ろについて来ていた冒険者たちが静止させようとしているけど、僕は止まらないしミスティも止まらない。探知魔法は目つぶしをされた時にも使える便利な魔法だ。第3の目と言っていいだろう。その第3の目が大丈夫と言っているのだから突き進む。


 すると、壁を見事にすり抜けて新たな通路が視界いっぱいに広がる。先ほどまでとは違って鍾乳洞のような雰囲気は消え、大理石のように白く丁寧に磨かれ光を放っている地面を踏みしめ先を進む。後ろからは誰も来ない。第3の目・探知魔法によると、僕とミスティが通ったことであの壁が実体化したようで探知魔法にも壁が出現している。


「ただの幻覚じゃなかったんだね」


 ミスティが小さくこくん、と頷いたのを確認して最深部だと思われる一枚の扉の前に立つ。


 その扉は青く、白く、黒く、赤く、虹色よりも多くの色が瞬時に変わり、一度たりとも同じ色は現れない。何故か、今は触ってはいけない気がして胸の鼓動が激しくなるのを落ち着かせている。

 次第に扉の色は赤系に集まり、桃色・橙色と言った色に変わっていき、色が変わるペースも少しずつ落ちていった。まるでルーレットのように最終的には純粋でどこまでも輝くであろう光を放つ赤色で止まり、その圧倒的な存在感に身じろぎをする。


 扉に手を振れると勢いよく光が放出され扉が開かれた。


 その奥にあったのは超巨大な結晶で今の僕の身長である120センチを軽く超え、優に3メートルは超えていると思われた。その結晶は赤く、圧倒的存在感を放っている。ミスティはその威圧にあてられ今にも泣きそうになっていた。


 とりあえず結晶に近づいてどうなっているか調べようと結晶に触ると今までとは比にならない輝きに思わず目を強く瞑り、輝きが収まったことを感じて目を開いた先に結晶は無くなっていた。


「お姉…ちゃん?」


 震えている声がした方を見ると、ミスティが僕を見て怯えているように見えた。


「ミスティ?どうしたの?」


 ミスティは突然泣き出し、頭を撫でたり抱きしめたり甘く優しい声をかけて宥め続けると、少し落ち着いたのかやっと口を開いてくれた。


「…お姉ちゃんの魔力が10倍よりもっと多くなってる。怖い。お姉ちゃんが怖いよ!」


 そう言ってまた泣き始め、僕は一つの推測に至る。



 この鍾乳洞らしき鉱山は魔力を含んだ水が結晶化するという。つまりさっきの結晶は今まで見たことのない大きさの結晶で、結晶は魔力の塊。僕は自分では気づかなかったけどミスティによれば10倍以上に魔力が増えたという。


 僕は結晶を取り込んでしまったのだ、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想、評価、レビュー等!いつでもお待ちしてますので気軽にお願いします!また、閑話リクエストを随時受け付けてますので、何度でもご自由にどうぞ! 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ