第10話 異常
第二陣が進撃を始める。
その先頭には龍族の戦闘部隊長であるケフリネータがいた。
彼の前に敵は極僅かではあるが、その強さが通常の魔物と比べると、尋常ではなかった。
「(何故これ程強い魔物が……)」
彼であるからこそ、たったの一撃で仕留めることが出来ているが、その強さは並の龍族の戦闘員3人分はある。
現に彼の後ろに付いてきている部下達は少々手こずっているようにもみえた。
いくら数が減らされているとはいえ、元々の数が多いのだ。
「無理はするな!一体につき3人で当たれ!」
だが、それは人化状態の場合に限る。
龍族が龍化を行えばその力は、強さは数倍になるのだ。
しかし今は龍化出来ない状態にある。
それは、龍脈の力をこちらの土地に流していないからだ。数日前に七龍が行った魔法によって。
それは必要な処置であると誰もが理解しているため、文句の一つも言えない。
それでも龍化しようと思えば出来る。
ただ、その場合甚大な被害がこちらに及ぶことになる。龍化すればその体の大きさが膨れ上がる。それも数十メトから数メトに。
そんな体長の奴がいたら、邪魔で仕方がないし龍化した本人も動けない。
それならば人化状態のまま戦った方がマシなのである。
彼らは基本的に武器を持たず魔法のみで対処している。
例えば、スライムの王であるキングスライムと呼ばれる魔物が目の前にいようとも火の魔法で対処して、皮が厚く刃でなければ貫けないキングコングと呼ばれる魔物が目の前にいようとも風の刃で対処する。
鈍器でなければ破壊出来ないような殻を持つキングタートルが目の前に現れれば、最大出力で身体強化をかけて拳を突き出し振り下ろし、足蹴にするだけである。
実際、それらの魔物が現れたがどれも似たような対処法であった。
力技である。
「(キング級ばかりではないか!中心部に行けばもっと強い奴がいるのか……?)」
因みに、キング級と言うのは人族で言うSランク魔物である。
キングのつく魔物は全てにおいて超越する。
人族の間では龍がその上のSSランクに設定されているのであるが……。
もはやこの場は人族にとっては生きることが出来ない……見聞きすれば呼吸すら覚束ないであろう空間になっているのだ。
ケフリネータは戦いの最中、先行している第一陣、龍人族のみで構成された部隊を遠目に見ていた。
「怪我をした者は後退し、混合部隊の第二陣に保護してもらいつつ本陣に戻れ!」
リヴェイリルが指示を出しながらも着実に進軍していく。が、それもここまでのようであった。
「リヴェイリル様!後方に敵が出没!挟撃です!」
「なにぃ!?」
先ほどの流星群で始末したではないか!と後方を見てみると確かにいた。
その数は少しではあったが、確かに生き残っている。
「いや……あれは、無傷?」
目を細め注視してみると無傷のように見える。更に細かく見ようと視力重視の身体強化を自身にかけてそれを見た。
結果、全くの無傷。
「(何故だ!何故だ無傷なんだ!?)」
リヴェイリルがそれを見ていると、龍族と龍人族数人が連携して一瞬で倒した。
それを見て人心地ついたが、ついている場面ではないと振りほどく。
「1班から7班までは進軍!8班はこの場にて退路の確保!9班から11班は後方に注意しつつ包囲されないよう動け!」
彼は迅速に対処していく。
それでも、彼の眼には次々と数が増えていく魔物の姿があった。
その時、ふと何かを感じて隣に目を向けると淡い光が浮かんでいた。
咄嗟にこれはまずいと思い反射神経のみでその場から後退する。
直後、そこには魔物が現れていた。
「ありえん!ありえんだろう!?何故だ!?」
現れた魔物、キングコングに風の魔法をぶち当てる。彼は龍人族の中でも宗家であり、その実力は折り紙つき。故に龍族の上位に食い込む実力を持っている。
その風の刃は抵抗を感じないままキングコングの首を刎ねた。
軽々と対処して見せた彼ではあるが、その表情は混乱に陥り周囲の様子が見えていないようだった。
それが致命的なミスとなる。
先ほどの淡い光が瞬時に数百を超える、数千という数で現れ始め、浮遊していた。
「クソッ……まずい!第一陣後退せよ!一時撤退だ!」
それは一瞬間に合わなかった。
進軍を続けていた1班から7班への情報伝達が遅れたのだ。
「うああぁぁぁあああ!!」
「やめろッ放せ、放せぇぇえええ!!」
数千ものキング級魔物が突然隣や前後などに現れたことによって彼らは統率のとの字もない混乱状態に陥る。
その間、僅か数秒。
たった数秒で、1班から7班の総勢4200名の龍人族が無残にも息の根を止められた。
彼らは一人で一体の魔物を、キング級を倒すことは出来ない。龍族で三人がかりでやっと一体倒せるのだ。彼らであれば、五人は必要となる。
その圧倒的な彼我の戦力差は覆せるようなものではない。
「……ッ!!」
リヴェイリルは自分を責める。
もう少し周囲をよく見ていれば、と。
後方ばかりに気を取られなければ、と。
自身のことばかり考えていなければ、と。
彼は指揮者である。
指揮者が自身のことのみを考え、演奏者のことを気にかけず聴衆のみに気を取られているとなればそのリズムは狂う。
彼は即座に判断する。
「一度第二陣まで引き返せ!だが8班は奴らの足止めだ!第二陣と合流し次第、ケフリネータ殿と相談する!それまでどうか、どうか持ちこたえてくれ!」
「応ッ!!」
彼らは戦いに身を投じるという意味を理解している。
本来温厚な人族の王家の血筋と、勇者以上に強い龍族の血筋が入っていることもあるが、この場に集まっている龍人族は人族と共に生活していて、家族や友人などを守る機会など幾らでもあったからだ。
今回は守るべき存在が世界になっただけだ。
彼らはそう認識していた。




