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第9話 追想

「親父!」


「どうした?」


「俺も連れて行けっていつも言ってるだろ!」


「レイにはまだはやい。もう少し大人になったらな」


 レイと呼ばれた少年。

 それは後の龍王であるレイヴンガルドであった。


「……ッ!いつもそればっかじゃねぇか!」


 レイは優しく微笑みを浮かべている父に八つ当たりをする。


「それに、今回は遊びじゃないんだぞ?」


 途端に表情を険しくした父から若干の殺気が感じられた。


「な、なんだよ!」


 もうしらねぇ!と叫び走り去っていくレイ。

 父はその背中を寂しさを感じながら見送っていた。


 父は集まった戦闘員約10名を見て苦笑を浮かべた。


「はは、これだけか。集まったのは」


「我々は隊長と共に行きます」


「頼もしい限りだ。確かに、エリートである零班ならば、少数精鋭の方がいいだろうな」


 今回の敵は一体であるが、相当に強力な魔物である。

 下手に人数を連れて行き連携が崩れては元も子もないと考えたのだ。


 彼らは歩き出す。目的地に向けて。




 彼らの向かった先は、大陸最南端の場所であった。

 そこでは龍脈の力が一切感じ取ることが出来ず、高濃度の魔力で埋め尽くされていた。

 当然、彼らは魔力を探知する術を持たないので知る由も無いが。


「本当に力が失われているな。皆、十全に貯めてきたな?そうでない者は今からでも引き返せ」


「そのようなドジをする班ではありません」


「……そうだったな」


 彼らが正面に向き直って大陸最南端の、緑が生い茂っていたはずの荒野を進む。


 それほど長い時間をおかずに敵が現れる。


『ほう?その程度の人数で妾を倒せるとな?』


 それは、龍脈の力を吸い上げることによって人格などに変化が現れた特異的存在、魔王であった。


 城こそないものの、その魔王の周囲から魔物が大量に生まれ始めた。


「出たぞ!はぐれ魔王には十分気をつけろよ!」


 父が叫ぶ。

 それに零班の面々は無言で頷き、互いに絶妙な連携をこなして敵の魔物を着々と減らしていく。


 全ての魔物を倒した時、魔王が高らかに笑った。


『ふっははは!!妾に相手取るに不足なし!いざ!』


 刹那、魔力が吹き荒れる。


『舞い上がれ!風魔!』


 魔王が使った魔法。

 それはハリケーンだった。しかしその規模は小さく、けれど威力は絶大である。


 一人、また一人と人数を削られていき、残りは父と数人しか残っていなかった。


『ふんっ、所詮この程度か。代を重ねる毎に強くなっているが、毎回勇者とやらに倒され、稀にこちらへ現れてはこうして嬲ることが出来る。なんとおかしなことよ』


 それは魔王の記憶に基づいたこと。

 龍族には全ての魔王の記録がされており、魔王の全てが収録された厚みのある本が数十冊あるのだ。

 そして、龍族は万一に備えて対策を立てる。


「お前たちは逃げろ。やはり、物量で押した方が良かったか……」


 父は弱気な態度を見せる。最早彼に戦う力は残り少なくなっており、尚且つこの荒野では龍脈の力の補充が出来ないでいる。

 本来の魔王城周辺であれば対策を施しているが、こうしてランダムで出没する特異的な魔王への対策は出来ないでいた。


「いえ……。我々は戦闘部隊長であるあなたの親衛隊です。あなたを置いて逃げることはできません」


 レイの父は戦闘部隊長である。それは龍王国三番目の実力者だということに他ならない。


『相談は済んだか?ククッ、どの道誰一人逃がさんがな!』


『吹き荒れろ!風月』


 それは三日月の形をしたかまいたち。それが無数に飛び回り、彼らの体を傷付けていく。


「いたっ……」


 大人ではありえない声質。

 戦場では決して出さないような声を出した相手に怒鳴ろうとした父が声のした方をみた。


 そして絶句する。


「あっ……」


 少年、レイは周囲の視線全てを集めていることに気付いた。

 魔王もまた、彼のことを興味深げに見ている。


「な、何故ここにいる!お前は留守番しておけと言っただろう!」


「だ、だって、親父が……」


 いつものような言い訳をしようとして口を噤む。

 だが、すぐにその口は開いた。


「親父!前!!」


 叫んだ時にはすでに遅かった。

 三日月のように口元を歪めた魔王がその手を振り下ろす。

 たった一つの動作で、いとも簡単に父の首は地へと落ちた。

 首から上がない父の姿を見て、レイは絶叫する。


「親父ーーーー!!」


 キッと顔を上げて魔王を一直線に睨みつける。それには尋常ではない殺気がこもっており、零班の生き残りですら後ずさる。


「許さねぇ。ぜってー許さねぇ。お前なんか『死ね』ばいいんだぁぁああああ!!!」


 かまいたちでついた傷の血が失われて、更に体内に流れている血液までもが何かに吸い取られていく。

 やがてそれは現実に現れた。


 真っ赤に染まった球体。

 だがそれは、憎悪がふんだんに詰め込まれ、今代の魔王でさえも慄いた。

 世界中の憎悪が詰め込まれた魔王を上回る憎悪。それをたった一人失っただけで作り出した。


 もし、レイの父が殺された後に魔王が現れていたら、その時の魔王は確実に世界を滅ぼすことが出来ていただろうことがわかる。


 一様に戦慄一色となった空間にレイが一言告げた。

 その言葉は自然と頭に思い浮かんだ、否、語りかけてきた声に従った言葉。


『我、戸坂龍の名において汝を滅する』


 次の瞬間には魔王の姿は跡形もなく、また荒野も緑が生い茂る草原に変わっていた。


 そこに残ったのは殺された10名と、戦闘部隊長でありレイの父と、地面に倒れ伏しピクリとも動かないレイと、最後まで生き残った二人だけの零班。


 二人は心底震えた。


 それは何故か。


 簡単なことである。



 それは、始祖龍と呼ばれ龍族の間では神に近い扱いを受けている、戸坂龍の名が出てきたことにあった。


 彼らは龍の性までは知らない。それでも本能的に直感した。


 今しがたレイは初代龍王をその身に降ろしたのだと。





 レイヴンガルドは頭を振る。今は過去に囚われてはいけないのだと。

 自分は今を生きていて、未来を歩むのだと。


「(親父……もう誰一人、俺の眼の前で殺させやしない)」


 彼は戦場に目を向けた。そこでは丁度、一陣目が敵の魔物を殲滅することに成功したところであった。


「2陣、突撃開始!」


 魔王リステリアとの戦いはまだ始まったばかりである。

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