第8話 開戦
龍王と国王の二人による、対魔王の宣戦が成された。
龍人族が荘厳な敵城門を開いていく。それは身体強化をしている者でも10人ほどでようやく開くという重さがあった。
中には魔物がひしめいているようで、ガサゴソといった雑音だけがやけに響き渡る。
龍人族が遂に、開いた門から中へと入り込む。
そして見たのは城下町であった。
そこには確かに、城下町が存在している。奥には天を衝く塔が建っており、その上階には意識を失っているリステリアがいる。
「行くぞォォオオオーーー!!」
リヴェイリルの掛け声に合わせるように周囲の者たちが吠えた。
彼の眼の前には十数体ほどの魔物。対して彼は数十人ほど連れ立っている。
『我が手に集いし龍の祖よ。咆えろ』
省略された呪文がリヴェイリルの口で紡がれ、その魔法は見事に敵に命中した。
だが、魔物が絶命に至ることはなかった。
「馬鹿なッ!!」
リヴェイリルは次の魔法の準備をする。
誰かが叫んだが、彼にとっては予測できていたことであり、これは龍族からも示唆されていたことだ。
今更驚くようなことではないと思い龍脈の力と魔力を練り合わせていると、他の者が先ほどの魔物に魔法をぶつける。
今度こそ、消滅した。
「まだか!お前ら!」
リヴェイリルが待っているのは龍人族に伝わる十の魔法の内、対多数の敵がいる時に使う魔法。
「呼吸を揃えろ。落ち着け。周りは皆が守ってくれる」
その魔法を使う人数は20人と、やけに多い。だからこそ呼吸をキチンと合わせる必要があり、ズレてしまえばやり直しとなるのだ。
『遍く無数の星々よ。今ここに、龍の血を持って汝らの力を引き出さん。我らの魔力を糧に流れ星を。如何なる時も我が身に宿る大いなる力よ、解き放たれよ』
『流星群』
それは過去に、リステリアとミスティが二人がかりで使用した魔法。
けれど、そっくりそのままの魔法ではなかった。
改良がなされた、完成された魔法へと昇華している。それはリヴェイリルが個人で改良することに成功した唯一の魔法でもあった。
彼らが練りに練り合わせて龍脈の力と魔力が調合され、その調和は天へと突き刺さる。
それは遠目で見れば綺麗の一言に尽きるものであった。
天へと消えたその力の塊はやがて天から落ちてくる。
負傷した者には治癒を与え、敵対している者たちには天の裁きのように、光の柱が立ち上る。
その柱の数は数百を超えた。
それを遠目で見ている七龍がいた。
『ほう?なかなかやるではないか。それに改良されていて力のロスが少ない』
ラージスクエアは龍人族の戦いを見届ける。
だがこちらもそろそろ動かねばならない。
彼らがいる場所は魔王城の遥か上空、龍化状態で浮かんでいた。
龍脈の力は地を流れる力のため、体の一部が付いていなければ使うことはできない。よって飛行の魔法なんて便利な魔法を使うことは出来ない。
しかし、龍化は違う。
龍化とは、体内外に龍脈の力を帯びさせてそれを消費していくことが出来る。
龍王が転移の直前「貯めた」と言ったのはこのことであった。
『行くぞ。本丸へ』
『応ッ!!』
彼ら七龍は自由落下に加えその体に付いている翼で更に落下速度を上げる。
地上にいた人間は、上空から何かが落ちてくることに気付く。
それが数十メートルの大きさとなると、騒ぎも大きくなっていった。
けれど、その7体の巨大を見て息を吞み込む。
「綺麗……」
それは虹のように畝り交わり、昼であるにもかかわらず見事に輝いていた。
日中の空に輝く7つの光。
それが魔王城中心部へ向かって落ちていく。
だが、その進撃は阻まれた。
『ッ!?避けろ!!』
ラージスクエアが即座に感知し、受け流しではなく避けることを選ぶ。
瞬間、先ほどまで彼らがいたところの重力場が乱れ空間に歪みが発生し、それは科学の発達している世界においても滅多に見られることのないものであった。
力場崩壊。
その場の力が音もなく崩れていく。
それを見た七龍は即座に判断した。
『(これを受けることは出来ない!まさかこれほどとは……)』
これまで、自身より格上の実力差のある相手と戦ったことのない七龍はその場に滞空するという手を選んでしまった。
それは魔王の、引いては魔王城の存在が少しだけであるが延びるということ。
その隙を見逃すほど、愚かな魔王ではなかった。
一瞬の内に魔王はもう一度、今度は別の魔法を使う。
それは先ほど、龍人族が使ったもの。
「流星群!?何故だ!」
リヴェイリルは叫ぶ。
それは彼が改良した流星群ではなかったが、力の桁が違う。そんなモノ、圧倒的な力の差を前にしては無に等しいのである。
天に暴力が集い、それが振りかざされる。
その時、龍王が動いた。
『暴れるな』
たった一言でその暴力は静まり返っていく。
だが、龍王の口からは若干の血が流れていた。
龍王は天高く暴力が集い始めたことを察知し、即座に口の中を切った。そうでなければ、間に合わなかったのだ。
甚大な被害が出る前にそうする必要があった。
龍王があまりの力の大きさに足元をふらつかせる。
それに気付いたイルミナスが彼を支えた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、まだ始まったばかりだ。しかし、強いとは思っていたが、これほどとはな」
「そうですね……。流石、と言うべきでしょうか」
龍王は自らの幼い頃を思い出す。
それは彼の父が生きていた時のことであった。




