第5話 龍歴
龍歴。
それは龍族が発生した当時が元年となっているものだ。
人族には人歴という歴史があり、龍人族には龍人歴という歴史がある。
故に龍族にも龍歴という歴史がある。
一人の少年がいた。
その少年は黒髪を持ち、黒の瞳を持つ極一般的な者であった。
当時から黒髪に黒の瞳は平民の証であり、金髪は絶対数が限りなく少ないことから王族として奉られ、銀髪はそれよりも多かったことから王族を守るという意味で貴族の位を与えられた。
少年には一切の魔法が使えなかった。使えるわけがなかった。
それはこの世界において不思議な事象であった。
何故なら、彼が現れるまで魔力を持たない人間などいなかったのだから。
それもそのはず、その少年は自分のことをこう呼んでいた。
ーー異世界人
少年はやがて、魔法では無い力があることに気付いた。
それは地面を流れ続ける大いなる力。
彼はその地脈の力を使い、あらゆる物事を解決し、皆を導いていくことに成功した。
だが悲劇は起こる。
彼の地脈の力に対する造詣が深くなった頃、彼の肉体が変化した。
ーー龍化
この時、初めて龍が生まれた。
当然、当時の人たちは彼を排泄しようとした。だが、その時の王族によって保護されることとなった。
時の王族であった当時の王女は、その異世界人を名乗る少年と相思相愛だったのだ。
彼女は孤独な彼を救うため、自らも龍化する。
それはやがて波紋を呼んだ。
王族と貴族が、圧倒的な力を手に入れようと地脈の力を扱い始めたのだ。
それを憂いた二人は地脈の力を扱える者全てを引き連れてより地脈の力の濃い地へと移住する。
これが、龍王国の始まりだ。
地脈の力を扱う術は失われ、人は魔力のみに固執することになる。
龍と名乗った少年に因んで、新たな地での国名は龍王国とし、地脈の力のことを龍脈の力と呼び、姿形が変わる現象を龍化と呼ぶようになった。
建国元年、龍族となった彼らの数は僅か100名にも及ばない少数民族。彼らの子どもたちは人族の王家の血を濃く受け継ぎ、次第に金髪と薄い黄色の瞳のみの種族となった。
だが彼らには空を飛ぶという輸送手段があり、尚且つ人の姿をすることも可能である。
食料に困ることはまずなかった。
そこで、一つの問題が発生した。
龍歴3年。僅か建国3年後の出来事である。
龍王国の反対の地にて濃い魔力を検知した龍はそれを確かめに行く。
そこに居たのは、禍々しい魔の気配を放つ王だった。彼はこれを魔王と呼ぶようになる。
龍はすぐに察しがついた。これは我らの所為であると。
だが、反対の地にわざわざ行くのは時間がかかるし、もし間に合わないことになり王国が滅ぶようなことになれば王国の為に出て行った彼らが浮かばれない。
そこで彼は召喚魔法と転移魔法を開発した。
召喚魔法は、魔王の力を感じ取って自然に龍脈の力を吸収し発動するという物。
魔王は数百年に一度現れることがわかり、その度に異世界人がやってくる。時には日本人がやってきて魔王を討つ時もあり、彼の心に「何故自分には魔力がなかったのか」という疑いが生まれる。
その結論は終ぞ出なかった。
だが、そこで問題が浮上する。
召喚された人々が使命を全うし、帰れないことに憤りを感じたのだ。
龍は魔王の城を更に北上した場所に元の世界へ帰るための逆召喚魔法を展開する。
それを、人族には神の大地と伝えさせ召喚された者にはそこへ行くように仕向ける。
そして、人は魔王との戦いで帰ってこない召喚された者を、勇気ある者として勇者と呼ぶようになった。
これが龍歴2400年台のことであった。
それを機に、龍は龍の王である龍王の座を退いた。
龍に代わり2代目龍王となった者は龍の実の息子であった。その為、龍に現代知識を全て詰め込められ、龍とほぼ変わらない存在となった。
そして龍歴4500年台。
龍族の中に魔力を持つ子どもが生まれるようになった。その頃には人数も増えており、龍族の数は3000を超えていた。
魔力を持つ子どもは南の大地である龍王国に居ると、気分が悪くなるという傾向が見られた。
2代目龍王は龍にこの事を相談する。
「それは地脈の力に魔力を揺さぶられているんだろう。王国なら大丈夫なはずだ」
この一言をキッカケに、龍族のうち魔力を持つ子どもたちは、龍族と人族の力を使えることから龍人族という名が送られた。
初めは龍王の家系からは出なかったが、次第に現れるようになる。
そして、龍王の家系から出てきた龍人族のことを宗家と呼び、それ以外を分家と呼ぶようになったのが龍歴4600年台であり、龍人歴元年であった。
その3000年後、龍人歴3000年、龍歴7600年台。
2代目龍王は4000歳を超えており、後継も居たがまだ王位を譲っていなかった。
龍王は魔王が現れる度に、王国へと赴き、国王と会いその娘を貰っていた。
それは半永続的な属国であると認識させる為であった。
だが、流石に数千年もの時間が経てば国も変わる。
初代龍王が妻にする王女を貰う時、当時の国王に指輪を贈っていた。
それは人と龍が支え合うと言う物。
当時の国王は自ら宣言する。
「これは代々の国王に付けさせよう。君の事を忘れないように」
それは友好の証だったが、龍属の方でも認識が変わっていったのだ。
友好の証が一転し属国の証となる。
それは龍とその妻が行方不明になって直ぐのことであった。
2代目龍王は今までと違い、指輪をはめていないことに気付きそれを問うた。
「何故、指輪をしていないのか」
時の国王は答える。
「我らが龍族に怯える日々は終わりだ!我らは独立する!」
その時、2代目龍王の逆鱗が落ちた。
「汝らは我らを裏切った事を後悔する。皆殺しだ」
2代目龍王は宣戦布告し、たった数日のうちに数人の王族と数個の貴族家と、そして平民をある程度残して完全なる勝利を収めた。
そして龍族は人族を見放した。
龍歴13000年台。
4代目龍王は人族が再建してきた頃を見計らい交流を図った。
「我らともう一度やり直さないか?」
4代目龍王は誰よりも優しい心を持っていた。
時の国王はその優しさを知り、今度こそ友好の関係を築こうと誓い合った。
その時魔王が現れ、初めて勇者が負けた。
これを知った4代目龍王は転移魔法で自ら討伐に向かった。
そしてそれを討伐するに至る。
だが、また勇者が負けた時都合よく龍族が居るかはわからないと時の国王に指摘された。
どうしたものかと自室で悩んでいた4代目龍王はある部屋を見つけ、そしてある物を見つける。
それは龍の作り出した秘密部屋。
隠蔽に用いていた龍脈の力の供給が切れたのだ。
そこには何冊もの本があった。
まだ紙はない時代であったはずだと、4代目龍王は思った。
そして執筆者欄を見て驚愕する。
なんと初代龍王がしたためたものであった。
今より古い時代、今もなお紙がないのであれば昔もなかったはずであった。
4代目龍王はまず、紙の謎を解き始めた。
これが何れ、魔道具と呼ばれるようになる原型であった。
全てが龍脈の力で作られた紙。
それは龍脈の力を暴力に扱う考えしかなかった龍族にとって衝撃であり、モノづくりの流行が始まった。
その情報は友好の証をもう一度渡された時の国王にも提供され、王国にて、魔の力を使った道具であるからと魔道具と呼ばれ、開発生産が始まった。
4代目龍王は謎を解いた時、既に寿命は残りわずかであった。
「この書物を紐解くんだ。それがお前の龍生だ」
息子である5代目龍王に王位を譲ってそう告げた。
5代目龍王は言いつけ通りに書物を紐解いていく。
そこには龍が、初代龍王があらゆる事態を想定した場合の対処法が書かれていた。
これを見た5代目龍王は戦慄する。
「初代様は、どこまで読んでおられるのだ……?」
勇者が負けた時の対処法。
それは龍人族を保険として扱うように、と書かれていた。
これを読んだ5代目龍王はすぐに行動を始める。
宗家を呼び出し、この時に龍人族に力と誓いを与えた。
初代龍王が考え出した龍人族だけが使える十の魔法。
それと合わせて二つの禁術。
禁術は口伝で、十の魔法は書物で伝えられることに決まる。
龍人族は誓い通りに役目を果たしていった。
龍歴16000年台。
6代目龍王は初代の残したものだけでは無く自らも何かをしなければならないと思い、龍王の城を建てることを決めた。
龍歴21000年台。
人族の王は7代目龍王に頼みごとをする。
「代々の国王のみに、絶対に忘れないよう龍族のことと、龍人族のこと、勇者のことを、記憶を、知識を植え付けてほしいのです」
7代目龍王は困り果てた。
そのようなこと、どうすればいいのかわからなかった。
一先ず保留としてもらった7代目龍王は、残り20年ほどの寿命の国王に合わせてその魔法を開発しなければならなかった。
だが、既にその魔法は完成されていた。
「何か困ったことがあれば隠し部屋の書物を読め」
代々の龍王に伝わる唯一の口伝。
そこに記されていたのだ。
7代目はすぐに時の国王にその魔法を使った。
死なれては困る。
そして、特に文化が発展することも無く時間が過ぎ去っていく。
人族は龍族のことを忘れて行ったが、国王だけは忘れない。どの時代も国王と龍王は種族を超えた友であった。
勇者もまた、死ぬことは滅多に無く龍人族のことも次第に忘れられていく。
龍歴41300年台。
国王以外の者たちが龍族と龍人族を忘れ去った。




