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第6話 僕、有名になったみたい

 皆が寝不足で歩き続け、最後には意地と根性が睡魔に勝利した。

 僕たちは今、街に入る前の検問の順番待ちをしている。どこの街にも検問があり、馬車は馬車専用、人だけなら人専用の検問にそれぞれ分かれる。入るときは厳重だけど出るときは何もない。


 この検問は護衛の冒険者も一緒に行けるけど、ミスティはどうやら無理みたいだ。予め前の街で商人の数と護衛の数の証明書を発行してもらい、数が少なければ別部屋で事情聴取。多ければ入れないということになっていた。


 ミスティは今頃、人専用の検問で並んでいるか、すでに街の中に抜けているだろう。人専用の方が流れが速いため、ミスティがこちらの検問の出口で待つ手筈になっている。



 馬車が次々と検問に吸い込まれていき、消化されていく。そして、やっとのことで僕たちに回ってきた。


「では、証明書をお願いします」


 検問の兵士に言われ、商店のリーダーであるお姉さんが一枚の紙を差し出した。


 それを見た兵士が、まずは人の数を確認する。そして、馬車の数。今回は馬車2台での移動だ。多いところでは10台もの馬車を引き連れると言われ、まるで大名行列だなぁと思った。


 最後に、馬車の中身を確認する。


 一通り調べ終えた兵士が証明書に許可印を押すと、それをお姉さんに渡す。

 そうして、一つ目の検問はクリアだ。


 検問は二つある。二つの検問のうち、人専用の検問ならば二つ目の検問のみで終了する。しかし、馬車がある場合は一つ目の検問、今しがた終えた検問を受ける必要がある。

 一つ目の検問は言わば人数と馬車のチェックで、これが一番時間がかかる。

 二つ目の検問は人数の再確認とボディチェックだ。


 この二つ目の検問を実装させるにあたり、女性から猛反発が出た。それはそうだろう、知らない男性に体のあちこちを触られるのだから。

 そうしたことが理由で、この国では女性の兵士も採用されている。ただ、訓練度は相当低いらしくこのためだけの兵士と言っても過言ではない。



 そんな二つの検問を無事に抜けると、ミスティが待っていた。


「お待たせ、ミスティ」


「この街すっごいんだよ!お姉ちゃん!えっとね、えっとね!」


「はいはい、それは依頼達成報告をしてからお願いね」


 ミスティの言葉を遮ったのは商人の一人だ。確かに、依頼達成報告をしてからの方が自由に動けるし、この時点で騒ぐと商店の格が落ちてしまうかもしれない。

 時には我慢も必要なのだ。


 僕はミスティを宥めると、他の護衛の冒険者たちと共に冒険者ギルドへ行く。



「護衛依頼の達成報告を頼む」


 今回の護衛冒険者のリーダーがそう言って一枚の紙を取り出した。受付の職員がサインをして報酬をそれぞれに渡した。


 リーダーを務めると報酬が1.5倍になるけど、今回僕は平だった。

 報酬額は銀貨20枚ちょうどで、Aランク依頼としては少なく、Bランク依頼と比べるとやや少なめ、Cランク依頼とほぼ同額という報酬設定になっていた。


 いかに効率の悪い稼ぎなのかということがわかる。でも、移動するのには最適なので、移動ついでに依頼を受けて手持ちの足しにするというのが共通認識となっている。





 他の冒険者と別れ、ようやく二人きりになりミスティが元気いっぱいになった。


「お姉ちゃん!この街すごいんだよ!」


「もう、それ何回目?同じことばっかり」


 少し冷たく言い放つと、ミスティはシュンとなってしまったので頭を撫でて機嫌をとる。


「お姉ちゃん、この街ね、私とお姉ちゃんのこと知ってる人ばっかりなの!」


 すごいでしょ?と目を輝かせている。

 小さいから有名なことに単純に喜んでいるのだ。僕もまだ、見た目はだいぶ小さいけど。

 そういえば、そろそろミスティの誕生日だ。


 ミスティの誕生日は冬の5週目。

 この世界では、春夏秋冬があるけど、1月・2月と言ったりはしない。一週間は7日で春の何週目・夏の何週目・秋の何週目・冬の何週目という言い方をする。全て12週で構成されていて結局は12ヶ月とほぼ同じ。そして、誕生日と言っているけど日にちまで正確に把握する人は皆無と言っていい。いつの何週目か、ということがこの世界では常識となる。


 今は秋の11週目だからもうすぐと言っても、ミスティの誕生日まではあと1月半はある。

 因みに、僕の誕生日は冬の12週目で年が終わる頃に生まれた。



「なんで僕たちのこと知ってるんだろう?」


「冒険者ギルドで『氷の舞姫』とか『癒しの歌姫』とか言われてるからだよ!二つ名っていうのは珍しいんだってさ!」


 褒めて、と言わんばかりの目で見つめてくるので仕方なしに頭を撫でてやる。


「ちなみに、それってどのくらい有名なの?」


「ん〜っと、検問?っていうところで私のこと知ってる人いたし、街に一人で入ったら人がいっぱい近寄ってきた!氷の舞姫はいないのか〜とか言ってたよ?」


 検問は情報が集まりやすいから僕たちのことを知っていても不思議ではない。でも、街に入ってからも、ということはそれなりに広まっていると考えていいだろう。


 僕たちには誰にも言えない秘密がある。


 それを知られるわけにはいかない。


 二人きりなのを徹底的に確認して訓練する時にだけその秘密が暴かれる。


 それはまだ公には出来ない。


 ミスティにも誰にも言わないように言いつけてある。


 でも、その時が来たらきっとすぐに広まってしまうだろう。新しい二つ名が生まれる予感もする。


「ミスティ。あの事は絶対に誰にも言ったらダメだよ」


 僕は念を押して再確認する。


 ミスティは「わかってるよ」と口を尖らせていた。

 これならきっと大丈夫だろう。ミスティは約束は守る子なのだ。


「今日の宿、探すよ」



 僕たちは暗く前に宿を見つけ、ここ最近の野営の疲れを取るように二人で抱き合って眠った。

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