第16話 僕、学園生活するみたい①
遺跡攻略に乗り出すと決めた昨日、僕たちは学園を休んで攻略するのか、などと話し合った結果、学園を疎かにする訳には行かないと結論になった。
ミスティも予備校を休むのであれば遺跡には行かないと言ったのだ。ミリアナの他にも友達が出来たっぽいし、もし彼氏なんか連れてこられたらどう反応すればいいんだろう……。
「それでは、本日からの実習は今持っている属性の魔法を強くしていくための授業をします。皆さん真面目に受けてください」
セイリアの授業が始まる。昨日は属性を増やすことが目的だったそうで、その授業は1日しかしないんだとか。
何回やっても得られない物は得られないという風潮があり、創立からの数年は何日間か取っていたけれど結果が変わらないことからこのようになった。
今年は新しく属性が増えた生徒はセレスを含めて100人近くに上る。新入生は300人ほどなため、実に3分の1ほどの人数が属性を増やしたということになる。
「昨日、この教室では40人近くの生徒が属性を増やしたので、基本的にはそちらの実力を伸ばしてもらいます。慣れるまで練習しておかないと使えなくなる事があるので油断しないように」
その言葉に真剣な表情でコクリと教室内の皆が頷いた。
「良いでしょう。では訓練場に移動します」
訓練場に移動した僕たちは魔法の練習をすることになった。
僕は魔法を使うとき、大雑把に使っているため微調整が苦手だ。それを克服するために訓練をしようと考えている。それが出来れば、もう少しマシな、彼らと同じ威力の魔法を生み出せるだろう。
「リステリアは何もしなくていいから楽だな」
セレスがそう言った。その言葉に羨ましげな声色が含まれている。
「僕は微調整というか、細かい魔法の使い方を出来ないから、それを練習する予定だよ」
「ああ……あれ、わざとじゃなかったのか」
あの時のことを思い出したのかクスクスと笑いながら言った。
「もう……笑い事じゃないよ。このままじゃ最弱のレッテルが剥がせないよ」
「はは、ま、確かに最弱は仕事を探すときに響いてくるから、練習しておいたほうがいいだろうな」
あら、僕はどこかに就職することになってるの?冒険者やろうと思ってたんだけど……。
「知らないのか……?冒険者って5年やると3年の休息期間を置かないといけないんだが……登録時に説明があったろう」
えっ!?
初耳だよ。それ。10歳で登録したから……この学園卒業したら必然的に就職しないと稼ぐ手段がないの!?
これは、魔法の微調整は急務かもしれない。野垂れ死は嫌だから。絶対。
僕が驚愕しているとセレスは笑うのを止めて訓練を始めた。
「はぁ……とりあえず練習しよっと」
セレスの周囲でやると雷が落ちてきそうなので離れてすることにした。セレスは先程から雷を発動できていない。そもそも雷を発動するには魔力が普通より沢山いるから、その調整を現在しているのだろう。発動できるぎりぎりを狙えば2.3発は撃てると思う。
僕は僕で先程からボフンという音を何度も鳴らしている。
なにこれ?ものすごく難しいんだけど……。
その日はボフボフ言わせるだけで終わってしまった。
周囲が僕のことを指差して笑っていたことが何故か悔しく感じた。
次の日も、また次の日もボフボフ言わせて終わる。
セレスは休憩時間を何度も入れながら訓練していて魔力枯渇なんてことにはなっていないようで、きちんと自分の限界がわかっていた。
そんなあくる日。
「くっふははは、お前全然上達していないじゃないか!やる気あるのか?」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべたクラスメート①が声をかけてきた。
「煩いなぁ、僕もこれで真剣なんだよ?」
真面目に返すと、そうしたことがバカらしく感じるほどに笑い始めた。そうして周囲も彼に同調し、僕はふつふつと腹の底から煮だつほどにイライラする。
ああ、なんてバカなことをやっているんだろう。消しとばしてしまおうか。それとも動けなくしてボフボフファイヤーボールを食らわせてやろうか。
あのファイヤーボールは見た目こそボフボフ言ってショボいように見えているけれど、その威力は桁違いだ。
と言っても、最近ではボフボフ言うもののその威力は確実落ちていっているのだ。自分では少しずつ調整が上手になっているところだったのに、それなのに彼らは……。
僕は彼に右手を向ける。
「おお?ボフボフを俺に食らわせようってか?」
『黙れ』
言葉に魔力を乗せ、強制力を働きかける。呪法とやらを使った時に思いついた魔力の使い方。
彼は一瞬で口を閉ざした。口が僅かばかりも動かないことに気付いた彼はやがて暴れ始めた。今の段階では魔法を使っていないけれど、そのうち使うだろう。
その前に仕留めてやろう。
「お、おい!リステリア!何してるんだ!目を覚ませ!」
セレスが何やら肩を揺すって僕を呼びかける。
「お前らもお前らだ!人を貶めてる暇があるなら自分の訓練に集中しろ!リステリアは少しずつだが上達している!」
その言葉に僕は目を見開く。思わずセレスをまじまじと見つめた。
「ふぅ、リステリア、お前がちゃんと上達していることはわかる。毎日真剣にやっているし、少しずつではあるが、ボフンという音が小さくなっている。お前のことは私が見ているから、自信を持て」
なんだろう……胸が締め付けられる。僕は自分のことばかり考えていたのに、セレスは自分の訓練をしながら僕のことも見ていて、クラス全体を見ているのだ。
本当に、バカなのは僕だ。
「ごめん、ありがとうセレス」
にこりと微笑みを浮かべて魔力による強制力を失わせた。するとクラスメート①が滅茶苦茶に言い始めた。
それを押さえつけるようにセレスが流れるような動作で魔法を使った。
『稲妻』
それはクラスメート①の足元に着弾し、彼を震え上がらせた。
「お前たち、こいつをバカにするならまず私を相手にしてみよ。それが出来ないのであれば、ちょっかいを出すな」
セレスは周りを見回して、誰もが頷いたことを確認する。
「これで落ち着いたな。リステリアも、あまり本気を出さないでくれ」
酷くげんなりした様子で、小声にてそう伝えてきた。それには苦笑するしかない。
「ごめんごめん。でも、格好良かったよ」
うん。本当に格好良かった。あんなこと、前世の僕に出来ただろうか。今世でも無理だと思う。
ふと視線を感じて転じると、そこにはセレスを睨み付けている来希がいた。睨み付けられているセレスは視線に気付かず若干を顔を赤らめて訓練に戻る。
なんか、嫌な予感がする。




