第12話 僕、実技を受けるみたい
セイリアによって授業の始まりの合図か為され、僕たちは教室の自分の席に着席する。
実技を学ぶと言っても、ずっと実戦訓練形式という訳ではないようだ。全員にA4ほどの何かを描かれたプリントが行き渡され、それを確認したセイリアは授業を始める。
「では、これより実技の授業を始めます。今日はそれぞれの属性の詠唱を覚えて頂いた後に、訓練場にて試射をして貰います。もしかすると、所持している属性の他にも使える魔法がある可能性もありますので、真面目に取り組んでください」
つまり渡された文字が羅列してあるこのプリントは詠唱の言葉をひたすら書いてあるということだ。僕はそれに目を通していく。
『炎よ踊れ!我が面前に現れし火の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『水よ唸れ!我が面前に現れし水の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『氷よ貫け!我が面前に現れし氷の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『大地よ沈め!我が面前に現れし地の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『風よ荒れろ!我が面前に現れし風の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『雷よ轟け!我が面前に現れし雷の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『光よ灯せ!我が面前に現れし光の者よ。我の願いに応えたまえ!』
『闇よ堕ちろ!我が面前に現れし闇の者よ。我の願いに応えたまえ!』
8種の詠唱がそこには書かれていて、思わず「厨二病か!」と突っ込みかけた心に自制を促す。僕は笑いを堪えていると、後ろの方からクスクスという笑い声が聞こえてきた。あれ、位置的に勇者たちだ。
いや、わかるよ。わかるけれど、流石に我慢しようよ。
そう思った僕は間違っていないはず。
そんなことを考えていると、セイリアが勇気を出して彼らを叱る。
「勇者様方!確かにあなた方からすれば、今になってこれを学ぶというのは些か遅いかと思いますが、それでも現在は授業を受けていただいている身です!生徒たちのやる気を削がれては困りますし、勇者様方でも何かヒントがあるかと思います」
セイリアの指摘に勇者一行は笑うのを中断し「そういうことじゃなかったんだけどなあ」と呟いた。でも、自分たちがそうは思っていなかったとしても全ては言葉を受ける側が決めることなのだ。
セイリアは「それに」と続ける。
「勇者様方では倒せない魔物がいるではないですか。そこで停滞していても良いのですか?」
その瞬間、ピシッと空間が凍てついたようになり、セイリアはしまったという顔をして「こ、これはそういう意味では……」と先程までの威勢が何処かへ行ってしまっていた。
生徒たちはそのセイリアを見てから勇者一行を見る。中には侮辱の視線も混じっているように思えた。いや、実際そうなのだろう。僕の妹であるミスティが倒したという話になっているのだから、勇者一行はそれよりよわいということになる。……相性もあるので一概にそうとは言えないのだけど、周囲はそんなことを気にしない。
何が言いたいかと言うと、「勇者は10歳の女の子よりも弱い。大したことがない。勇者のくせに」という結論に至る。
確かにその通りだと勇者一行は先程までの態度を謝罪した。
「先程はすみませんでした。お詫びと言っては何ですが、俺たちが実戦訓練をしましょうか?」
玲が席を立って代表して謝罪すると同時に、勇者一行は侮辱の視線にも勘付いていたみたいで、挑戦的なことを言った。
実際に両者がやり合えばどちらが勝つかなど分かりきっていることではあふけれど、何となくこの模擬戦にいいことが起こるような気がした。
勇者一行がチラリと僕の方を見て「リステリアは参加するなよ、頼むから、マジで」という目にこもった意思を感じ取ったので軽く頷いておく。
そのまま、結局模擬戦をすることになった。もちろん、学園の中でもこのクラスは一番の実力者が揃っているところでその上位と言うとCランク冒険者ほどの力がある。今回はセレス・ヒスラ・ピーター・レトリックという、クラス中トップの4人が参戦を表した。
毎年300人の入学者の中のトップだから、少しは楽しませてくれるかもしれないと思うとワクワクが止まらない。
訓練場に全員が着くと、先ほど言った4人と勇者一行三番目の実力者でありリーダーでもある玲が対峙した。基本的に玲は守りに徹して、隙を見て攻撃すると来希に教えてもらった。
……凄く慎重にやるようで何よりだけど、絶対大丈夫だと思うよ。




