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第5話 僕、はしゃぎ過ぎたみたい

 門を出発して数時間。僕たちは真っ直ぐに進めば王都まで続くと呼ばれている街道を進んでいる。

 左端の街であるメルティンローズから王都までの間を繋ぐ街道ではあるけれど、この途中には大小様々な街が並んでいる。

 だからか、この街道にはあまり強い魔物は出ない。Cランク冒険者であれば問題なく対処できるレベルで、Aランク依頼にしては簡単なお仕事に思える。

 ならCランクの依頼にしたらいいじゃない、という話にはならないのだ。

 万が一がありCランク冒険者では太刀打ちできない相手が出てきた場合、冒険者ギルドの信用が堕ちてしまうし街への補給物資などが滞ってしまうかもしれない。

 そういったことから、安全マージンを取ってAランク依頼にし、Bランク以上の冒険者しか受けられないようになっている。

 そして、冒険者ギルドはあまり小さな街だと置かれていない。比例して人口も少ないため、依頼の絶対数も少ないのだ。


「魔物発見!数は⋯⋯7体!」


 ベルトシュさんが叫ぶ。

 そんなに大きな声で言ってしまうと気付いていなかった場合避けられた争いをすることになるのではないのか、と思ったのだけど魔物は出来るだけ殲滅しておかないといけないらしい。

 そうするのには理由があって、街などを襲える戦力が整わないように、とのことだった。

 知恵の高い魔物が率いて街を襲撃するなんてことが稀にあるらしく、その時にはSランク冒険者が出てくるらしい。

 ただ、Sランク冒険者は生存確認が取れていないしどこにいるかわからないとのこと。

 大抵がこの大陸から出て行って強者を求める旅に出るのだとか。


 ベルトシュさんの示す方角に探知魔法を使ってみると、確かに7体いて目視も出来る距離まで近づいている。

 僕は鞘から抜刀して前線へ出る。


「スノーラビットじゃねぇか!」


 スノーラビット?

 確かに雪のように白い兎のような魔物ではあるけれど⋯⋯この魔物の正式名称がそれなのかもしれない。


「うらぁっ!」


 レルフさんが横に大きく大剣を振り払う。

 たったそれだけの動作で体は真っ二つにはなった。⋯⋯なったんだけど、もうちょっと綺麗な倒し方できないのかな?

 僕は無造作にスノーラビットの方へ歩いて行く。

 すると、幾つかの視線を感じた。きっと噂の舞姫がどんな戦い方をするのか気になるのだろう。それに魔法を使わずに、ということもあるのだ。

 僕はあまり力を込めずに刀を滑らすようにスノーラビットと呼ばれた魔物の首を切断する。その切断面は力任せに斬ったレルフさんのように荒れてなく、とても綺麗だ。

 すぐに後ろ脚を掴んで逆さまにし血抜きをしておく。ふと周りを見てみると、僕ほど綺麗に倒した人は⋯⋯一人だけいたよ⋯⋯何してるの?

 その一人はミスティだった。

 氷漬けにされたスノーラビットは観賞も出来るほど美しいと表現できるもので、その価値は計り知れない。

 ミスティは魔法を解除して氷を消すと僕に無言でそれを差し出してきた。


「⋯⋯ぇ?」


 まさか、僕にとどめを刺せと?

 スノーラビットのつぶらな瞳が僕の瞳を射貫く。

 ああ⋯⋯僕は、とんでもないことをしようとしている⋯⋯。

 ごめん、ごめんね。

 僕はひとしきり謝ってからその首を斬り落とした。

 ボトっと落ちたスノーラビットの頭を燃やしてしまい、血抜きを再開する。

 血抜きをパパッと済ませるとそれは商人のミラさんに渡して保存してもらうことになっている。空間に仕舞うことができると言っていいのかわからないから黙っているから、自分で持つという選択肢はない。

 少し鮮度が落ちてしまうのは仕方がないと割り切ることにした。空間の中は時間が止まっているのかして鮮度が落ちるようなことはない。


「でも、まさかスノーラビットがいるとはな」


「ああ。時期ハズレだが、美味いことに変わりはないんだからいいんじゃね?」


 話を聞いていてもよくわからないのでスノーラビットのことを知らないというと、彼らは快く教えてくれた。

 それによると、スノーラビットは南下したところにある山脈の麓に住み着いている兎の魔物で、Cランクの魔物ということだった。

 Aランク食材とも呼ばれているらしく、高級料亭などで出てくる食材でもあるらしい。

 そんな魔物がどうしてここまで来ているのか⋯⋯彼らにも原因はわからないらしい。そういうことはギルドの職員に任せとけばいいんだよ、と軽く流されてしまったのだ。

 大きさは僕が後ろ脚を精いっぱい持ち上げてギリギリ首が地面につかない程度の大きさ⋯⋯頭を入れると目測1,4メトほどだと思う。

 それからも街道を進み続け、僕たちは予定通りの場所で一泊することになった。


「よし、ここで一泊するから野宿の用意だな」


 レルフさんが言うと馬車から商人のミラさんと、彼女と一緒に営んでいるフレイさんが降りてきた。二人はミスティと遊んで時間を潰しているらしく、ミスティも楽しんでいるようなのでちょうどいい。

 野宿と言ってもテントなどはなく、馬車に乗っている荷物を全員が寝ることの出来る程度の場所を確保するだけだ。

 荷物が多くて寝れないのであれば、荷物を降ろすということになっている。

 僕はその間にお爺ちゃんとの生活で使っていた自家製カセットコンロを持ち出して魔法で作った土を固めた机の上に置く。


「今日は僕が料理します!」


 取れたてのAランク食材があるのなら、食べたい料理がある。

 それは庶民に浸透している大人気のメニュー。


「へ?いいの?」


 ミラさんの間抜けな声をスルーして大きく頷くと「じゃあお願い」と頼まれた。

 頼まれたからには失敗するわけにはいかない。とは言え、この料理を失敗するなんてよっぽどの料理下手な人でも難しいと思うんだけどね。


「ミスティ~ちょっと手伝って」


 ミスティを呼んで鍋に油を引いてもらいそこへ一口サイズに切ったスノーラビットを入れて行く。

 その肉を痛めている間に僕は手持ちの野菜を次々に切っていき、それらをちょうどいいタイミングで全て投入した。

 野菜がしなしなになってきた頃を見計らい鍋の8分目ほどまで水を入れて、あとは煮込む。

 ミスティを解放してあげるとすぐにミラさんとフランさんのところに行ってしまった。相当懐いているようだ。

 僕は灰汁を取りつつ煮込み具合を確認して最後に自家製のカレールーを投入する。

 少しすると良い匂いが漂い始めた。鼻孔を刺激する匂いだ。


「氷の舞姫ちゃんは何を作ってるのかな?こんなに良い匂いを出しちゃって」


 フランさんがそんなことを言った。

 そして気付く。


「あっ⋯⋯」


 これだけの匂いが広がってしまうとまずいかもしれない。魔物が周辺に集まってくる可能性が微レ存どころか大だ。

 そう思っていると、ミスティが周辺一帯を覆うように結界を発動させた。

 それを見てほっと息を吐く。


「ありがとう、これなら大丈夫だ」


 商人の二人と他の4人は若干驚いているようだけど、カレーが完成したのであらかじめ炊いた状態で空間に入れて置いた白米をよそってカレーを注ぐ。

 それを全員に渡していき、僕とミスティが「いただきます」をすると案の定聞かれた。

 そのことについて宿の店主と同じように答えると、なら私たち(俺たち)もということになってしまい今度は全員で「いただきます」をした。


「んめぇっ!」


「なんだこりゃぁ!」


 冒険者は次々に平らげていく。その様子を苦笑しながら見ている女性陣の姿があった。

 食べるペースもゆったりになっていき、夜の見張りと明日について協議することになった。

 夜の見張りは4人がやってくれることになり、明日は僕が周囲を警戒して魔物が来たら討伐するか彼らを起こして一緒に討伐するかのどちらかを取ることになっている。

 正直、視界に入らなくても探知魔法で魔物の数まで分かるから必要ないのだけど、念のため起こしたほうがいいかもしれない。

 もしいい素材が手に入る魔物が相手だった場合は彼らに従った方がいいだろうし、特別な倒し方でなければ倒せない敵なん僕は知らないのだ。


 そんなことを話している内に夜が更けて行く。

 ゆっくりと食べていたので時間は相当に経過していて、カレーも底を尽きたことによって口をすすいで寝ることとなった。

 お風呂に入れないのは仕方ないのだけど、体を拭こうともしない彼らには特大の『水球ウォーターボール』をぶつけてやった。

 彼らは渋々体を拭くことに納得した。

 だけど、流石にやりすぎたかなと思った僕は簡易な浴槽を作ってしまい全員が入ることになり、更に寝る時間が遅くなってしまった。


 カレーとお風呂の二つの所為で——両方とも僕がやったのは気のせいだと思いたい——次の日、皆が寝不足になったのは言うまでもないだろう。


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