第4話 僕、傍観するみたい
殲滅し終えた後は、こちらに来る魔物が現れないかどうかを確認しつつ、探知魔法にひっかかっている最初に出てきたBランクの魔物との戦いの様子を感じていた。
どうやら勇者が5人揃っても圧倒的な強さで屠れるというわではなかったようで、今でも戦闘が続いていて時折爆発音や衝撃音、更には衝撃波までもがこちらまで駆け抜けてきている。
それでも遠くに見える火柱や氷柱など、大型の魔法を見て皆が少しではあったけれど成長しているように見えた。それがとても嬉しく思える。元々、僕は勇者一行を鍛えるために雇われていたのだから、そのせいかもしれない。
探知魔法も併用していて、動き回る勇者一行と魔物の姿を確認する。とは言っても視界に収めていないのでどのような形なのかはわからない。それでも、と思いずっと探知魔法を使っていると、勇者一行の1人が動かなくなった。
顎に手を当ててどうなったのか、更に詳しく調べたいけれど探知魔法はそこまで万能ではない。だけど状況を確認したい。新しい魔法を考え出すしかないか、と思い知恵を振り絞った。
思い付いたのは……否、思い出したのは忍者の術で砂の塊を眼球の代わりにし周囲を見れるという例のアレ。あれなら見れるだろうけれど、どうしたらいいのだろう?流石にすぐに実行に移すことはしない。
もし万が一にでも失敗してしまうと、来希に頼まれた生徒たちの護衛ということを達成出来なくなってしまい、それでは本末転倒だ。それに、それが見つかってしまうと騒がれるかもしない。
念には念を入れて遥か上空に魔力を収束する。龍飽から漏れでた膨大な魔力を掻き集め、そこに砂を収束していき眼球のような真ん丸のを形成させた。そして片目を閉じて見ると……。
結論から言うと出来なかった。視界が真っ暗だったのだけど、あの暗さは目を閉じていたからではないと思う。それに若干目が痛く感じるのだ。
僕は今度は余計なことをせず、純粋な魔力のみで真ん丸を形成してそこに意識を集中した。すると見事に成功する。……忍術を完全再現したからダメだったんだね。砂が邪魔で真っ暗だったという訳だ。
片目を閉じている僕を見て周囲は訝しげに思っていたけれど、セレスだけは「何をしてるんだ?」とでも言いたそうにこちらを見ていた。ついでにデイルはこの班ではなく後方の班に所属しているのでここにはいない。
眼球を移動させていき、最後方へ着いた。
そこではやはりというべきか、僕達が「裏」と呼ぶダンジョンにいた魔物と酷似している魔物がいて、一体しかいないと思っていたのに3体もいる。けれど気配は一つ。それもBランク程度の強さなので、どうしてこれほど苦戦しているのかわからない。
しかしすぐにその考えは捨て去った。勇者一行の魔法がほぼ全て無効化され、時たまその攻撃が通る時があるもののやはり無効化されるので魔物は近接戦闘に集中出来る。近接戦闘が得意な来希でさえ翻弄されていているように見えた。
まるで来希の剣技は魔物にとって児戯にも等しいと言わんばかりの不遜顔で戦闘していた。
来希の動きよりほんの僅かばかり速く動く。そう言えば、後方へ移動している時の動きよりも遅く感じるし、疲弊も相当速そうに見える。
まさか……身体強化も無効化され続ける?それを連続的にかけているから消耗が激しく動きもチグハグで魔物相手に動きを読まれて躱される。
きっとそうだ。と確信した時、不意に戦闘中の魔物がこちらを向いた。その瞬間ぞわりと全身の毛が逆立ち、本能的に「これはやばい!」と、そう思った時には遅かった。
「あぐぁぁ……」
閉じていた左目から1条の血が流れる。それは頬を伝い、生暖かい感触が通り過ぎポツリと地面に垂れ落ちた。不幸中幸いというべきか、皆勇者一行の先頭の方が気になっていて僕のことなんて誰も気にしていないのて何も問題は無い。けれどダメージ的には問題大ありだ。
「目が……」
左目からは血を流し、右目からはあまりの痛さに涙が次々に溢れる。その痛みばかりに気を取られ、既に勇者一行のことは頭になく何故そうなったのかさえ考えられない。これほどの「痛み」なのだ。
思えばこれまで、急所である場所に来る攻撃の類は全て避けるか相殺するかのどちらかの手段を用いて防いでいた。つまり急所への攻撃を喰らうのは初めての事で混乱状態から抜けきれないのだ。
少し時間をおいて呼吸を整え直した僕は魔法を発動する。けれどイメージが定まらず、無詠唱での水球を作り出すことに失敗した僕は掠れた声で名前を呟く。
「『水球』」
手加減していないにも関わらずかろうじてソフトボールほどの大きさしかない水球に顔を近付けて左目を洗浄する。傷を受けた時以上の痛みが襲い悶絶したけれど、どうにかこうにかそれを終えると今度は服の裾で涙を拭う。
「ふぅ……」
まだ左目は治っていなくて右目でしか見ることが出来ないけれど、なんとか持ち直すことが出来た。そうは言っても痛みは継続されているためそれなりに我慢はしている。
勇者一行の戦況が大きく変わったのは先程はどうしてそうなったのか、考え始めようとしたその時だった。




