第1話 僕、実地訓練に行くみたい
実力測定が終わった次の日の午後、僕たちは実地訓練をすることになった。運よく学園生を護衛してくれるという冒険者が一定数揃ったらしく、いくつかの班に分けて魔物を狩りに行くのだ。
⋯⋯ついでに言っておくと、座学なんて最早いらないレベルだった。前世の知識だけであれば苦労していただろうけれど、お爺ちゃん凄い。お爺ちゃんから教わったところしか出てこないのだ。まだ1年生なのでこれから先はどうなるかわからないけれど、幸先のいい始まりと言ったところだ。
魔物を狩る場所はここ、王都から少し離れたところに帰らずの遺跡とは異なった遺跡があるとのことで、そこを攻略しに行くみたいだ。レベル的にはBランク冒険者が一人で3層まではいけるらしい。そこから先であれば5人1パーティで行くと、順調に行けば10層は越えることが出来る。最奥が30層――と言っても一番奥に辿り着いた人の階層なのだけど――で、僕たちは5層を目標にするらしい。
昨日の放課後に準備しておくようにと伝えられて皆準備万端のようだ。僕と同じように手ぶらの子が何人かいるので空間と似たような魔法を使うことが出来るのだろう。
「あの、リステリアさんの荷物は?」
セイリアがおずおずと聞いてきた。新入生最弱が手ぶらだなんて、事情を知っていなければ笑いの的にしかならないし足手まといであるのはわかりきっている。
「ちゃんとありますよ」
そう言って空間から一本の剣を取り出した。昨日、念のために購入しておいたのだ。人が魔法を使うときは何かを介して使う方が効率がいいらしく、昨日は実力測定だったので誰も装備していなかっただけ、ということだ。
なので僕は剣を選んだ。単純に杖なんて攻撃力皆無だし、指輪などでもいけるらしいのだけど無駄に経費がかかる。そうなってくると必然的に剣くらいしかなくなってしまう。この剣、とてつもなく弱い銅で出来た剣を買ったのだけど、きちんと魔改造しているので大抵の剣よりも強くなっているはずだ。
「収納魔法を使えるんですね⋯⋯。それなら問題はなさそうです」
僕が空間と呼んでいたものは収納魔法と呼ばれるらしいことが昨日わかった。荷物を無駄に持つよりも収納魔法と呼ばれる魔法を使ったほうが身軽だし、冒険者1パーティに一人は必ず使える人が言われるほど便利なのだ。僕もこれがなければリュックサックを何個せわなければならないのか⋯⋯いや、荷物だけで家ほどの大きさかもしれない。
「では、全員揃ったようなので遺跡へ向かいます。怪我のないように安全に行きましょう」
その言葉に生徒が揃って「はい!」と答えるとセイリアは力強く頷いて、護衛の冒険者10数名と共に歩き始めた。今思えば、よくあるネット小説にありがちなはた迷惑な生徒がいないことに驚きだ。
王都の門をくぐって外に出ると、なんだか久し振りに外へ出たような気がした。翼をもがれていた鳥が再び翼を得たかのような解放感に満たされる。
僕たちは小一時間ほど歩きそのまま魔物に襲撃されることなく遺跡に辿り着いた。
「では、ここで班分けをします。成績順で振り分けているので総合的なバランスは良いはずです」
そこまで言うと一拍置いて生徒の顔を見て行くセイリア。
「ではまず、1班。セレスティン様、デイル様、エリッサ様、リステリア様。そして護衛役に来希様」
うん、こうなるよね。セレスは学年1位で僕は学年最下位だから、仕方ないよね。
エリッサという子を初めて耳にしたので探して見るとすぐに見つかる。セレスという王族と共に遺跡に潜ることが出来て嬉しさ半分、緊張に押しつぶされないように踏ん張っている気持ち半分といった顔をしていて、周囲から見ると非常に微笑ましい光景だ。
その後次々と構成されていき、てっきり生徒5人に護衛と思っていたので10班かと思いきや4人だったので2人余る結果となり、しかしそこはしっかりと考えられていて5人班が二つえ12個の班が出来上がった。これからこの班で遺跡に行くのでところどころで挨拶が交わされており、僕たちは最初に呼ばれたため既に済んでいた。
「それでは1班から行きます。お願いします来希様」
「はい!」
そうして僕たち5人は⋯⋯歩き始めることが出来なかった。原因はデイルにあった。
「お、俺ちょっと用事思い出したんで帰りまーす⋯⋯」
僕のことをちゃっかりと視界に収めつつ足を引きずりながら後退していることから、未だにトラウマなのだろうことが窺える。彼はそのままセイリアが止める間もなく走り去っていった。ここら辺、たまに魔物が出るらしいけれど大丈夫なのだろうか⋯⋯?
「で、では代わりにアリエンティ様が1班へお願いします」
アリエンティと呼ばれた少女は「はい」と素っ気ない返事をして、けれど嬉々とした表情で悠然と近づいてきた。これは、なんだか修羅場な予感。
「ごきげんよう、皆様。アリエンティです。短い間ですがよろしくおねがいしますわ」
そう言って彼女は吊り目の瞳で力強く睨んできた。僕、何もしてないよね?




