トネの村
悠真は、アリアと二人で森の中を歩いていた。
なにはともあれ、なんとか和解した二人は、とりあえず、落ち着いて話せる場所を求めてアリアの住む村へ向かう事にしたのだ。
「ところでユーマさん。」
「ん?」
「ユーマさんはさっき、鉄の塊に潰されて死んだと言いましたよね?」
「うん。言った。それがどうかしたか?」
アリアに自動販売機と言っても通じないと思った悠真は、とりあえず鉄の塊が落ちてきた事故で死んだと説明したのだ。ちなみにその時の説明がリアル(スプラッタとも言う。)だった為、アリアが可哀想に、と号泣したのである。(説明した本人に自覚は無い。)
「でも、そんな鉄の塊なんて聖剣で吹き飛ばせば良かったのではないですか?」
「あぁ、それなんだけど……」
そう言えばその説明はして無かったなと悠真は思い出した。
「俺は元いた世界じゃ、力は一切使えなかったんだよ。決まりでな。」
「決まり?」
「そう。俺の世界には魔法なんてもんは存在しなかったんだ。そんな中、いきなり俺みたいなとんでもない力を振るう奴が居たらどうなる?」
「大変な事になりますね……」
「そう。だから、魔力を使わないように、大半の力を封印して生活してたんだよ。」
「なるほど………色々大変なんですねぇ……」
そんな話をしながら林道を歩いていると、近くの茂みが音を立てて揺れだした。
「ユーマさん、構えて下さい……魔物です。」
直後に、茂みから全身が緑色の人間の子供のように小さな背丈の生物が飛び出してくる。ただ、その姿は一言で言い表すなら、不快、だった。
長い耳にむき出しの牙。石を加工したかのような簡素な武器を持ち、顔は、獲物を見つけた歓喜のせいか、醜く下卑た笑みを浮かべていた。
ファンタジーな世界では確実に生息している魔物の代名詞。
「ゴブリンーーッ⁉︎」
言った瞬間のことだった。空を切る音と共に、アリアの横を何かが通り過ぎると、一瞬にしてゴブリンの頭部が爆散した。
「…………へ?」
もしやと思い、悠真の方を見る。しかし、悠真は何食わぬ顔で欠伸をしている。すると、見つめられた事に気付いたのか、悠真は
「……あ、ひょっとして、頭砕いたらダメだった?」
と、申し訳なさそうに言うのであった。
「それで、さっきは何をしたんですか?」
数分後、再び移動を開始した二人は、先程の戦闘について話をしていた。
「石を思いっきり投げて頭に当てた。」
「………だけですか?」
「だけです。」
魔物の体は平均的な人間に比べると遥かに硬い。
それを石の投擲だけで殺せるというのは説明するまでも無くかなり異常である。
「てゆうか、ここら辺って結構魔物出るんだなぁ。さっきなんか、二十匹ぐらい集まってきたし。」
悠真達が移動の再開に数分を要した原因はそれである。ゴブリンを一匹瞬殺し、安心しきった所に二十匹近くのゴブリンの群れが草むらから出てきたのである。もっとも、悠真やアリアの敵ではなく、歯牙にもかけずに粉砕したのだが。
ちなみに数分程度で済んだのは段々相手にするのが面倒になった悠真が近くの樹木を引き抜き、
『よいしょぉ‼︎』と言いながら振り回してなぎ払ったからである。ちなみにその様子を見たアリアが、『ひぃっ⁉︎蛮族⁉︎』と言った為、地味に傷ついたのは口にはしない。
「結構物騒なんだな。ほのぼのしてる感じだったから油断したわぁ……」
「…………ごめんなさい」
「…ん?何が?」
いきなり謝罪をしたアリアを不思議に思い、聞き返す悠真。しかし、アリアはどこか申し訳なさそうに苦笑し、なんでもありません、と返すだけだった。
(うーん、なんか歯切れ悪いな……。昔なんかあったのかな)
さっき会ったばかりとはいえ、アリアに快活なイメージを抱いていた悠真は、そんな態度にどこか違和感を覚えながらも、無理に詮索するのはやめとこう、と、考えるのをやめる。
そんな悠真の配慮を知ってか知らずか、アリアは、さっきまでの空気を変えるように、どこかわざとらしい明るさで前方を指差した。
「ユーマさん!見えてきましたよ!」
アリアが指差した先には、木造の家屋や、畑、水車などがあり、入り口と思われる木製の柵の付近には門番なのか、槍を持った男性が二人立っていた。
「あそこが、私が住んでいる村、トネの村です!」
こうして。色々とあったものの、どうにか悠真は、念願の人里へとたどり着いたのであった。