和解と出発
「さてどうしよう。」
悠真は悩んでいた。少女を気絶させて杖を取り上げた所までは良かったものの、それからどうするかを考えていなかったのである。
(起こそうにもまた暴れられたらやだしなぁ……)
近くに行って起こした瞬間炎をぶち込まれたらたまったもんじゃない、と思い悠真は具体的なアクションを控えざるを得なかったのだ。実際先程の戦闘だけで判断するなら、おはよう→きゃあ変態→草原が火の海。という流れが容易く想像出来るのだ。いっそこのまま放置しようかと思った時だった。
「んぅ……」
「‼︎」
少女が目を覚ましたのである。思わず息を呑む悠真。そして少女はぼんやりとした目つきで、まず辺りをきょろきょろと見回し、次に悠真を見る。最後に自分の頭を触り、獣耳が完全に見える形で立っているのを確認すると、クワッ‼︎、と目を見開き、
「触りましたね⁉︎」
「触ってねぇ‼︎」
とりあえず、火の海だけは避けられたようだった。
「信用出来ません‼︎あなたみたいに、異世界から来る方は絶対に触りたがるんです‼︎というか、あなた前科ありましたよね⁉︎」
「だぁーもうやかましいなぁ‼︎何度も言うけど、触ってねぇよ‼︎」
一体どれほど疑り深いのか。うんざりしながらも悠真は怒鳴り返す。ふと、そこで今の会話に違和感を覚える。
「待て、俺、異世界から来たなんて一言も言ってないぞ?なんでわかったんだ?」
そう。目の前の少女は一発で悠真を異世界の人間と見抜いたのだ。
「それは、そんな服装の方は大概皆、異世界の人なんですけど……違うんですか?」
「いや、あたりだけど……まさか、異世界の人間って結構頻繁にこの世界にやってくるのか?」
「ええ、年に数回ほどですが。」
「マジか……」
驚きを隠せない悠真。しかし少女は話題を戻すように、
「とにかく‼︎私は貴方の言うことなんて信じません‼︎」
「話聞いてくれよ……せめてどっか人が住んでる場所とか教えてくれないか?」
「人が住んでる場所?行ってどうするんですか?」
剣呑な目つきで聞いてくる少女。
「どうすっかな……」
正直具体的なプランを考えてなかった悠真はそう返すしか無かった。
「はぁ?それじゃ貴方一体何しに来たんですか?」
「何しにっつーか、第二の人生を送るために来た訳だから……具体的に目標とか無いんだよね。」
「第二の人生を送る?」
「あぁ。俺一回死んでんだよ。」
「え?」
悠真はとりあえず、これまでの経緯を話す事にした。
「ぶびぅ……ぞ、ぞんな事があっだんでずねぇ……」
「……………」
まさか泣かれるとは思わなかった。
存外、少女は情に厚いのかもしれない。
「ぞんな事とは露知らず、本当にすいませんてじだぁぁぁ‼︎」
「わかった、わかったから、とりあえず泣き止んでくれ……」
とりあえず、彼女を泣き止ませるのに10分かかった。
「ぐすっ、すいません……」
「いや、気にすんなよ……とりあえず、自己紹介しとくか。俺は神崎悠真。悠真でいいぞ。」
「私はアリアといいます。よろしくお願いしますね、ユーマさん。」
こうして。なんとか和解した二人はアリアの住む村へ向けて、歩き始めるのだった。