流転
激突した神話魔術と聖剣。その莫大な力の余波を感じ取った者は、少なくは無かった。感知能力に長けた者は遥か遠方の地に居ながら、その衝突に身を震わせ、一部の強者は、何か得体の知れない寒気のようなものを感じていた。
そんな中、一人の男がその魔力の奔流に笑みを浮かべていた。
その男の風貌は人間というよりは人型の魔物に近い。深い青色の髪に金の瞳。黒いスーツに、同じく黒いマントの姿は、どこか高貴さを感じさせる。
しかし、それらすべてを台無しにさせる物がある。それは、背中から生える巨大なコウモリのような羽根と、頭から生えるねじれた二本の角だ。
魔人族。魔力や膂力の平均が他の種族より優れており、戦闘種族と呼ばれる事もあるという、最強といっても差し支えない種族だ。
その男はワインを片手にソファでくつろぎながら一人で呟く。
「あぁ、あぁ、ようやく見つけた……我が野望を果たす為の最後の手札を……」
言って、男を笑みを深める。高貴な姿とは不釣り合いなギラついた目は、必ず手に入れるという意志がにじみ出ていた。
「さて、行くとしよう。」
ワインを飲み干し、男は立ち上がる。
激突した場所までは5日程で着く。自らの野望を果たすべく、男は即座に行動する。
そして、悠真達のいる場所から遥か東に数十キロ離れた場所で、その少年もまた、笑みを浮かべていた。ただしそれは魔人族の男のように獰猛な笑みではなく、無邪気な、それでいて好戦的な笑みであった。悠真と同年代程の白髪の少年は、背中に剣を背負っており、その近くには仲間なのか、二人の少女の姿があった。一人は白銀のライトアーマーを着た黒髪のショートカットの少女。
もう一人はライトブルーの髪をしたポニーテールの少女だ。その格好は、知ってる人が見たら忍者、あるいは暗殺者というような格好である。
二人の少女は、先程から笑みを浮かべている白髪の少年に声をかける。
「トチ狂ったんですか?」
「頭やっちまったのか?」
「いきなり酷いな君達⁉︎」
最初が暗殺者風の少女。次がライトアーマーの少女。そして最後が白髪の少年である。
「だってよぉ〜。いきなり隣でニヤつかれたら頭いかれたのかと思うだろ普通。」
「いや、まぁそうなんだけど……」
割と普通の正論が出てきてぐうの音も出ない白髪の少年。そんな少年に暗殺者風の少女が質問する。
「それで?何かあったのですか?貴方を上機嫌にする何かが。」
「うん、まぁね。」
そう言って少年は遠くを見つめる。激突のあった遠くの地へ。
「ようやく現れたんだ。僕の対極になるかもしれない存在が。」
その言葉に、二人の少女は僅かに目を見開く。
「しばらくこの町に留まろう。大都市を目指すなら必ずここにたどり着く筈だからね。」
「応よ!」
「承知しました。」
二人の少女は一切反対せずに少年に従う。
その返答に少年は笑みを浮かべ、振り返って短く礼を言いながら再び遠くヘ目を向ける。いつか相見えるその日を、近くに感じながら。
かくして運命は流転する。神々ですら予測出来ない大きなうねりとなって、やがて世界を大きく揺るがす事になる。
実はこの時、その神々は一人の少女によって正座させられ、結果として悠真は衝撃の再開を果たすのだが、それはまた後の話である。