いざ異世界へ。
「そりゃつまり、転生ってことか?」
「いや違う。転生は記憶を引き継いで赤ん坊から始めるが、今回ワシがお主に提案するのは今の外見のまま異世界に送り出す転移じゃ。いや、そういうプレイがいいなら構わんが……」
「ぶっとばすぞ‼︎誰がいつそんな変態的な嗜好を言ったよ‼︎」
青筋をビキビキいわせながら怒鳴る悠真。色々あって悠真はストレスがかなり溜まっているのだ。
「冗談じゃよ……………今はまだな。」
「おい、今なんつった⁉︎かなり不穏な呟きが聞こえたんだけど⁉︎」
「さて、では準備するかの。」
「待て‼︎答えろ‼︎おい‼︎」
悠真の叫びを聞き流し、そそくさと魔方陣を展開させるファルナ。
「準備完了じゃ。この扉の向こうには、お主の知らぬ異世界がある。まぁ、魔術や神話の知識はお主が知ってるものと変わらん。」
それを聞いて少し安心する悠真。ここに来て新しい魔術理論とか言われたら誇張無しに倒れていたかもしれない。
「どんな世界なのかは……まぁ、行ってからのお楽しみじゃな。」
「毎回だろ。説明不足も甚だしいわ。」
悠真は苦笑した。実際、過去六回の転移の際にも事前情報はほぼ皆無だった。
「あの時は立て込んでおったからの。それに、行き当たりばったりはお主の得意分野じゃろ?」
ファルナもまた、微笑みながら指を鳴らす。気づけばそこには木製の白いドアが現れていた。
「そのドアを開ければ、お主の第二の人生が始まる。まぁ、俗に言うファンタジーな世界じゃが、お主は慣れたものじゃろ?」
「まぁな。」
そう言って悠真はドアノブに手をかける。
「そんじゃぁ、行ってくる。」
「……ワシが言えた義理ではないが、これから先、お主を縛る物は何もない。たとえ神ですら、今のお主を縛ろうとする者はおらんじゃろう。だから、どうか幸せに生きてくれ。」
その言葉に、悠真は再び苦笑する。
「ああ、ありがとよ。」
そう言って悠真は、ドアを開け、光の中に消えていった。
そして一人になった神域で、女神は一人、呟く。
「ありがとう、か……こっちの台詞じゃよ。馬鹿者が。せめてこれで少しでも、お主へ借りが返せるといいんじゃがのう……」
心地よい風が頬を撫でる。揺れる草木が、流れる雲が、暖かな陽光が、今までいた神域とは違う場所に来たのだと感じさせる。悠真は気がつけば、雄大な草原に立っていた。
「おお……」
そのあまりの雄大さに思わず感嘆の声を漏らす。
今までに見たことのない(基本的に今までの世界は枯れ果てた荒野が多かった為。)大自然に思わず感動してしまったのだ。
「人里を探すついでにちょっと探検でもしてみるか。」
言って辺りを見回す悠真。すると、
「ん?」
近くに一人の少女が立っていた。茶髪のウェーブのかかったロングヘアで、黒いローブに1メートル程の杖を持つ、魔術師の様な少女だった。しかも、人形のような整った顔立ちをしており、思わず悠真も、一瞬目を奪われた程だ。
とりあえず近くに人里がないか話を聞こうと思い、声をかける。
「あの……」
「近寄らないでください‼︎」
「へ?」
突然放たれた拒絶の言葉に唖然とする悠真。
「あなたは、今転移してきましたね⁉︎」
その言葉で悠真は察する。確かに何もないところからいきなり人が現れたらそれは確かに驚くだろう。魔術に精通しているなら、いきなり転移魔術で現れた人間に対して警戒するのも無理は無い。それならば彼女の確かに反応もうなずける。そう思い慌てて説明しようとする悠真。だが……
「つまりあなたは変態ですね⁉︎」
どうやら事態は悠真の予想の斜め上をいくらしかった。