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影は猟奇的に微笑んだ  作者: 森林
3/3

?と?

これで最後の話となります。

拙い文章ですがよろしくお願いします。

「お前はなんだよ……」

 返事はするな、さっきのは幻聴だと思いたい。

「だからお前だよ、わかるだろ?」

 俺の願いは虚しく、これはどうやら幻聴じゃないらしい。

「……認めたくない……」

「やれやれ、君は昔から変わらないな。そうやっていつも俺から逃げようとしてた」

「違う!」

「違わないさ。言っただろ俺はお前なんだから」

「お前に何がわかる」

「わかるさ、俺はお前なんだから」

「なぜ俺に話しかける? 今まで通りに影らしく生き……いればよかったじゃないか?」

「さあね? お前が知らないことを俺が知ってるわけないだろ?」

「なんだよそれ」

 影の言っていることは今の興奮した頭では理解できない。

「ひとつ言えるのは俺が影だということだ。視覚的にも内面的にもな。まあわかりやすく言えばお前の闇みたいなもんだ」

「闇……」

 それは正しく影の印象。この影は俺を助けてくれる天使的な存在ではないということだ。


「だからさ……死のうか」

 唐突なその一言に体から冷や汗が噴き出す。その言葉に嘘らしい声色は感じられない。

「死にたいんだろ?」

 声色はあくまでも平然と、しかし内でてくる殺意。

「意味わからん……」

 震えそうになる声を抑えながら絞るように言う。

「わかるさ、お前は俺だ」

  ……まただ。

「さっきから俺だ、お前だのうっせーんだよっ、……もう消えろよお前」

「お前の影だからな、消えることはできん。わかるだろ」

「じゃあ俺に話しかけんな! それぐらいできるだろっ」

 影の言葉を一蹴する。

「夜だぞ、静かにしろよ。とりあえず家に帰ろうぜ。死ぬのはそれからでもいい」

「だからなんで死ななきゃいけないんだよ」

 しかし影の言言う通り、ここに居てもどうしようもないし、警察に見つかっても厄介だ。とりあえずは家に向かって帰ることにした。

 闇の中を歩く。それがこんなにも精神を削ることだったとは夢にも思っていなかったが、来た時の二倍時間がかかってようやく帰路についた。

 もうすでに両親は寝てしまっているようだ。

「ハァハァ」

 精神を磨耗しすぎたせいと得体の知れない恐怖で俺は胃の中を全て吐き出しててしまいたい衝動に襲われる。

 今すぐにも座ってしまいたいが影と足が繋がっている今でさえこの状態なのだ、他の部分も影と繋がると考えただけでおぞましい。

 影はあれ以降まったく喋ってはいない。だがしかしここにいるのだ。

「ハァハァ」

 思い出す影の言葉。

『だからさ……死のうか』

『死にたいんだろ?』

『お前が知らないことを俺が知っているわけないだろ』

『お前は俺だ』

『俺はお前だ』

 その言葉は脳に直接響き、音楽プレーヤーのシャッフルリピートのように入り乱れる。

 誰だ、俺は、誰だ、俺は、誰だ、俺は、俺は、お前か、お前は、誰だ?

 一週間前に振られたのは俺か?

 二浪中なのは俺か?

 影は誰だ?

 わからない、わからないわからないわからない……わからない。

 俺は俺か?

「ぅオェッ」

 ついに俺? はついに胃の中をさらけ出した。

「うっ……うぁ……うっぐ」

 ゲロを巻いた口そのままにして今度は涙が零れだす。

 その全ては影に見られている。

「……夢だ、さっきのも夢なんだ……影が喋るわけがない!」

 しかし脳が鮮明に記憶しているものの認識を書き換えるなど人間の脳では到底簡単にできるものではない。

 しかし影は一向に話す気配を見せない。そのことがますます不安を煽る。

 影、闇、影、闇、見られてる、見られてる見られてる。

 助けて

『誰に?」

 逃げたい

『どこに?』

 俺? という人間は自分という最後の寄る辺すら失った。

 肉体と魂の乖離。魂と自我の乖離。もう何もかもが危うい。

『死のうか?』

 響く。

『死にたいんだろ?』

 わからない。

『死のうか?』

 誰が?

『死にたいんだろ?』

 さあ?

『死のうか?』

 …………

『死にたいんだろ?』

 ……ああ。




 いつの間にか日は上がり、太陽は真上に佇んでいた。

 アスファルトを焦がす太陽。鼻腔をくすぐるのはアスファルトの匂い、排気ガスの匂い。

 陽炎に手招きされるように俺? は導かれていた。

 ここは高い高い橋の上。下に見えるのはアスファルトの地面。

「フハハハハハッ、ようやくお前ともおさらばだ」

 俺? はここにきてようやく笑うことができた。そのことがまたひどく愉快だ。

 ? はフェンスによじ登り、雲も影もない青空を見上げた。

 そこが? 行くべき場所だ。

「行こうか、影のいない世界に」

 体の平衡感覚が失われる。俺? の周りには影はいない。

「ハハッどうだ、俺の勝ちだ」

 ? は勝ち誇る。勝敗などあったかは定かではないが、俺? はこの楔から解放されたような感覚によっていた。

「自由だぁーーーーっ」

 荒ぶる感情を目の前に迫り来るアスファルトに向かって吐き散らした。

 この世界から別れる時がきた。

 アスファルトにぶつかる刹那、影はアスファルトの上にいた。


 ――影は猟奇的に微笑んでいた。

 


 








お読みくださりありがとうございました。

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