分からない事 知らないキモチ
人は自分の経験した事しか他人に伝える事が出来無いし理解出来無い……
昔そんな事を何処かで聞いた覚えが有ったので書いてみました。
知っていると言うことは幸せな事なのかもしれませんね……
私はどうやら不幸らしい、自分では良く分からないけど、私の生い立ちを知った人はみんな口を揃えて言うのだから不幸なのだろう……
生まれた直後に母は死んだ。
生まれつき体が弱く病弱だったらしい、周りが止めるのも聞かずに無理をして私を産んでそのまま帰らぬ人となった。
周りの人が言うには母はとても愛らしく、穏やかで優しい人、だけど自分の信念を貫く人だったらしい……
正直どうでもよかった、会ったこともない人の事を言われても私にはいまいちピンと来なかったのだ。
ただ一つ感謝するなら、丈夫に産んでくれた事だろうか?
父は母が死んでから人が変わったらしい、何時も酒を飲んでは、私に暴力を振ってき姿しか見てこなかったので、想像すら出来ないが……
父は母が死ぬまでは、とても優しく、誰からにも頼られる人だったらしい……
病弱な母と結婚するのを周りは大反対したが、それでもめげずに頑なな態度を貫き、毎日のように実家に行き結婚を許して貰える様にお願いしていたと聞いた。
結局実家の方が折れ結婚したそうだ……正直あの父がそこまで出来る人なんて想像も出来無いけど。
父は母が死んだのを、お前が殺したのだと言い、毎日酒にギャンブルに溺れ、暇を見つけては私に暴力を振るった。
そんな父が死んだ、交通事故だった……
酔っていた父が車道に飛び出し、そこを通りがかったトラックに撥ねられて死んだ……即死だった。
父が死んだ事で私には大量の保険金などが入ってきた、父を撥ねたトラックの運転手も色々と私に良くしてくれたのだが、私は申し訳ない気持ちで一杯だった……
ダメな父が最後まで人に迷惑をかけた事が申し訳なかった。
葬儀が終わり、昔から私に良くしてくれる親戚の人が私に、「一緒に住むかい?」っと聞いてくれたが、私は少し考えたいと言い、丁重に断った。
正直、人と関わる事が面倒だったのだ、他人の顔色を伺い、媚びへつらい、良い子を演じる……そんな日々に疲れていた。
家に一人で居ると、この家こんなに広かったっけ?などと今までと違う感じがして、正直戸惑った。
それでも人間慣れて来るもので、しばらくするとそれが当たり前となっていた。
遺産相続とか、後継人とかの面倒な手続きは全部親戚の人がしてくれたので正直助かった。
親戚の人も、私が一人で居たいと言う想いを察したのか、
「何か困った事が有れば何時でも頼りなさい」
っと言って私が今の家に一人で住むことを許してくれた。
私は父の居ない日々を日常に変えた……
そんな日々を過ごしていたある日……
家が火事になった。
古びた木造建築だった私の家は、あっという間に燃え広がり、消火の甲斐も虚しく全焼した。
家が有った場所には焼け崩れた残骸しか残ってなかった。
警察が調べた結果、放火の可能性が高い事が分かった……おそらく、父に怨みが有る人がやったのだろう、死ぬ間際の父は、色々と問題を起こしていた様だったし……
焼け崩れた家をぼーと眺めていると、親戚の人が駆けつけてくれた。
親戚の人は私を抱きしめながら、
「可哀想に……お父さんも、お母さんも、失った上に家まで失うなんて……」
そう私に言いってきた。
だけど私の心は悲しさよりも、これでやっと、開放されると言う気持ちしか浮かんで来なかった……
私を産んで死んでしまった母、母が死んだ事を私にぶつけて来た父、そんな私たちを繋いでいた家、それらがやっと無くなったのだと言う気持ちしか浮かんで来なかった。
だけど、私の目からは涙が止めど無く溢れてきて、その涙は頬を伝い地面を濡らしていった……
私は混乱した……分からない……この涙の意味も……溢れ出てくる感情も……心に空いた虚無感の理由も……
ただ一つ分かる事は、もう私には何も無いのだと言う事だけ、私を縛っていた物も、私を繋いでいた物も、全て消えてしまった……
ねぇ、誰か教えて下さい……私の心に芽生えるこの気持ちはいったいなんですか?
この気持ちをどうしたら良いですか?
そんな私の想いは寒空の下、静かに風と共に流れていった、私を抱きしめてくれている人の温もりと共に……
最後まで読んで頂きありがとうございました。
如何だったでしょうか?
子供は親から沢山の事を教えられます、それは実際に言葉だったり、行動だったりと様々……その様々な事から喜怒哀楽を覚えるのだと思います。
けれど、もしそう言った事を教えて貰えなかったら?その子はどうなるでしょうか……
この物語は極端では有ると思います。
ですが、子供が親から受ける影響は多大な物が有ると思います。
この作品を通して、少しでも何か伝わる物が有れば嬉しいです。
また何処かで私の作品を見かけたら、読んでいただけると幸いです。