2:そして幕が上がる 中編
入学して1週間。初っ端から課題の多さには驚いたけど、クラスには馴染めそうだしあとは何か体育会系の部活、中学の頃にバスケやっていたから、やっぱりバスケがいいかな……などと考えつつ部屋に向かって寮の廊下を歩いていると、廊下に白い煙が漂っているのに出くわした。
なんだなんだと思っていると、次々と生徒がやってくる。ちょうど同じクラスの大隈がいたので声をかける。
「大隈、これってなんだ?」
「俺が知るわけないじゃんか。なんか向こうから漂ってきたみたいだけどね」
「おまえたち、1年生か。じゃ知らねえよなあ。まあ百聞は一見にしかずだ。ついてこいよ」
そこに上級生らしき人が声をかけてくると、ニヤリと笑った。
犬山、と名乗った3年生の先輩に連れられて俺と大隈が到着したのは、一番奥にある部屋で、そこにはもう他の生徒がやってきていた。
大勢の生徒がいるが一番前にいるのは大久保先輩と西月先輩、それに青木先輩、あともう一人知らない人だ。3人と一緒にいるということは上級生かな。でも寮長の白石先輩はどうしていないのかな……って思っていると、部屋のドアが開いて白石先輩ともう一人が出てきた。
「―和樹、佑。これはいったいどういうことかな?」
大久保先輩がいつもの穏かな口調で聞いているんだけど、なぜか周囲が恐れ慄いている感じがする。きょとんとしているのは俺たち1年生だけみたいだ。
「犬山先輩。なんか周囲の雰囲気が変なんですけど」
「あ~……まあお前たちもいずれ遭遇するだろうし、いや遭遇しないに越したことはないんだが。まあ今後のためにもおとなしく見ていたほうがいいぞ?」
犬山先輩の歯切れと顔色の悪さが気になるけど、俺と大隈は先輩の言うとおりにすることにした。
「えーっと、とりあえず落ち着け法哉。ほら佑お前も何か言えよ」
「法哉、落ち着いてほしいな~」
「僕は落ち着いているけど?この部屋から白い煙が出ているみたいなので理由を聞いているんだよ。もちろん話してくれるよね」
なんか“白状しろ”というふうに聞こえているのは俺の気のせいだろうか。ついでにいうなら白石先輩と、佑と呼ばれた人の顔がものすごくびびっているような。
「で、何をしていたの」
大久保先輩の口調は変わることなく白石先輩たちへの追及を止めない。
「そ、それはだな。佑がちょっとロボを暴走させたというか」
「順調に動いてたところを和樹が踏みそうになって、俺の“おそうじ犬ポチっとおそうじ7号”が危険物と認識したんだよ。踏みそうになった和樹が悪い」
「はあ~?だいたい1週間前に爆発させておいて、またそんなあぶねーもの作る佑が悪いんだろうが。なんで危険物と認知すると煙出すんだよ!!というか部屋の掃除は自分の手でしろっての!!」
「煙は目くらましだよ。なんだよー。和樹だって完成したら1個ほしいって言ったくせに!!」
2人がぎゃあぎゃあと言い合っているのを聞いて、1週間前の爆発を思い出す。もしかしてこの寮ではこういうのが日常茶飯事ってやつなのか?パンフに書いてあった「落ち着いた環境で楽しい学生生活」って……どこが“落ち着いた環境”なんだろう??
「2人とも……」
大久保先輩が口を開くと、後ろのギャラリーが“うわ、ひさびさに出るか”とざわついている。ひさびさってなんだ。犬山先輩も“ひええ”となぜか慄いている。
「大久保会長。ここは寮なので副寮長の僕が」
そう言って大久保先輩を止めたのは青木先輩だ。なぜかバインダーを持ってにこにこしている。でも持ってるバインダーに紙は挟まっていない。
「うわ~、今日はバインダーチョップのほうか」
「犬山先輩、バインターチョップって何ですか?」
「……まあ、見てりゃわかる」
大隈くんの質問に犬山先輩はなぜか肩をぽんぽんとたたいた。
「寮長、天野先輩」
青木先輩が白石先輩たちの前に立ち、それはそれはにこやかな表情でバインダーの縁で2人の頭をはたく。にこやかなんだけど……ものすっごく怖いんですが!!
はたかれた先輩たちは頭を押さえて“いでえええ”とうめいている。
「痛いじゃないか、隼人!!」
「当たり前です。縁ですから」
「隼人~、ピンポイントで痛いぞ!!」
「そうですか?じゃあ全体的に痛いほうがよかったですか」
えーっと、青木先輩って2年生だよね。どうして3年生の先輩にああいうことができるんだろう。俺がびっくりしていると、犬山先輩が俺の心を見抜いたように教えてくれる。
「青木は生徒会会計と副寮長を兼任しているから、先輩に容赦なんてねーぞ。ついでにいうなら副会長の西月も根本的に青木と同じ性格だから。うちの生徒会の人間を好きこのんで怒らせる人間はまあ、いないわな」
「じゃ、じゃあ天野先輩って……」
「佑は別。あいつの爆発は日常茶飯事。まあ佑にはフォロー役がいるからね……ほら、来た来た」
そのとき、生徒会の人たちの側にいた人が近づいて、天野先輩の頭にげんこつをくらわせた。




