Easy To Love
私と典くんが恋人同士としてつきあって1年くらい。そして彼は4月に異動をすることが決まり、私の担当ではなくなる。
押し切られて始まった恋は、今でも典くんに振り回されている気がする。でも彼は「僕はいつでも蒼葉さんに振り回されている」という。
私のどこが彼を振り回しているのか、と聞いても「内緒です」と絶対に教えてくれないくせに。
まっすぐな道沿いにたつ桜並木の見事さにみとれた。
「典くん、とってもきれいだね」
「そうでしょう。正面の建物が校舎で、向かって右が体育館で左が寮です。行きましょうか」
典くんと手をつないで歩いているのは、彼の母校の全寮制男子校。全国的に有名な進学校として知られている。
「広いね~。迷子になったりしないの?」
「迷います。ここに入学した生徒が最初にもらうのは、学校の地図なんですよ」
「なるほど」
「でも学校からもらう地図より裏地図のほうが役立つんですよ。ちなみに裏地図っていうのは代々生徒が作成している近道と見つかりにくいサボリ場所が書かれた地図です」
裏地図……なんて全寮制男子校らしいアイテム。もしかして典くんもサボリ場所を使ったのかな。
「典くんもサボったりしたの?」
「近道は利用しましたけど、僕はサボリなんてしませんよ。蒼葉さん、ここの桜もきれいなんですけどもっとおすすめの場所があるんです。行きましょう?」
そう言って典くんは手を差し出す。
「ん?」
「ん?じゃありませんよ。ここは手をつなぐものでしょう?」
「いやいやいや。ここ学校だしTPOというものがあるでしょう」
「今は春休みで生徒はほとんどいませんし、いたところで何の問題が」
そういうわけですから、と彼は笑い私の手を自分に引き寄せて指をからめてしまった。こうなるともう彼は離してくれない。
桜並木を抜けて、校舎の前にある舗装された道を通って体育館の方向へ歩く。体育館の向かい側には広大なグラウンド。ほんとに敷地の広い学校だ。
体育館の前を通り過ぎると、今度は庭園が見えてきた。
「ここです。日当たりもいいし……ほら」
典くんが指し示した方向には、ひときわ大きな桜の木がきれいな濃いピンクの花を咲かせていた。
「うわあ……きれい。ここの桜は並木の桜より少し色が濃いね」
「芝生に入っても大丈夫ですよ。近くで見ませんか」
近くで見上げる桜は、これまでも生徒たちの成長を見続けきたに違いない。中に入れるんじゃ、ここでくつろぐ生徒もいるだろう。
「典くんもここでのんびりくつろいだりした?」
「そうですね、近くのベンチで本を読んだり考え事したり。一人でいたいときはだいたいここで過ごしていました。実は学生が来ない穴場なんですよ」
「じゃあ、典くんの特別な場所だね。ふふ、おじゃまします」
私が横に立っている典くんにちょっとおどけて言うと、彼は少し微笑んだ後真面目な顔をして私を見つめた。
「蒼葉さん、そろそろ僕と結婚しませんか」
「け、結婚?!私が典くんと結婚……」
「嫌ですか」
「まさか!嫌なわけないよ。でも私でいいのかなと」
「僕はあなたがいいです。ね、蒼葉さん?」
私がうなずくと、典くんにぎゅっと抱きしめられる。風に乗って桜の花がふんわりと舞っていた。
これにて本編は終了です。
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お遊び番外編を書きましたら「完結済」に設定します。




