表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
How About You  作者: 春隣 豆吉
Main Part
13/22

Like Someone In Love

「ねえ、木ノ瀬くん」

「……」

 呼ばれているのを分かっているはずなのに返事をしない彼。

「………………典くん」

「なんですか?蒼葉先生」

 確信犯の笑みを浮かべる木ノ瀬くんを見ているとなぜか負けた気分になる。


「木ノ……典くんは、すごくさらっと切替ができるんだね」

「すぐに慣れますよ。佑のことだってすぐに名前で呼べたじゃないですか」

 木ノ瀬くんは、そんなに佑くんが名前で呼ばれたことが面白くなかったのか。何事もソツなくこなし、特にこれといった執着がなさそうに見えるけど、意外な一面を見つけた感じ。

「佑くんは、なんか人懐っこい大型犬みたいでさ~。そう思ったら案外すんなり呼べたのよね」

「ぷっ……まあ確かにあいつは犬っぽいですからね。じゃあ僕のことはどうですか?」

「え?長く担当してもらっているから気心知れてると思ってるよ」

 私の発言を聞いた木ノ瀬くんが小さい声で「……ここでそういうこと言うんだ」とボソッと言ったけど、独り言っぽいので聞き返すのも悪い気がして私は聞こえないふりをした。


「さて、これで打ち合わせは終わりですが……蒼葉先生はこれから何か予定がありますか?」

「うん、脚本書いてる友達と食事をするの」

「ああ、先生の小説をドラマ化したときに書いた方ですね。確か以前からの友人ですよね」

「そうだよ。同じ少女小説レーベルでデビューした同期なの。向こうが“私は脚本を書きたい!!”って言って脚本の勉強始めたから道が分かれたけどね」

 けっこうデビューした人数は多かったはずなのに同期でいまだに文章で食べているのは私とその友人だけだ。

 ドラマ化の話をもらったときに私は絶対彼女に脚本を書いてもらおうと思っていた。そしたら向こうも私の小説のドラマ脚本を書くのは自分だと思っていて話がこなかったら強引に引き寄せようと思っていたらしい。

 まあ彼女が売れっ子脚本家になっていたから出来る話だったんだろうけど、強引な手を使わずにすんでよかったわ~、と会った時に笑っていた。

「つ、典くんは、これから何か用事があるの?」

「僕はこれから社に戻って仕事です。先生、楽しんできてくださいね」

「うん、ありがとう。典くんも仕事頑張ってね」


 食事をする予定の店に行き、ぎょっとしたあと私は同じテーブルの人にお辞儀をすると断りをいれて、友人の腕をつかんで相手に聞こえない場所まで連れ出した。

「なによ、蒼葉」

「なによ、じゃないわよっ!!な、なななんで」

 私の焦った口調に彼女がにやりとする。

「だって蒼葉、あの人の大ファンじゃない。あんた原作のドラマに出演してもらったときの食事会に彼が欠席だって知って蒼葉、相当がっかりしてたからさ。ま、サプライズってやつ」

「サプライズ過ぎるでしょうよ……」

 友人と一緒にいたのは、ドラマのプロデューサーと私が大ファンの俳優さんだった。いや確かに招待された食事会に彼がいなくて残念だったとは彼女に言ったけど。

「すっかり飲む気満載だったのに……だめだ緊張して食事が喉を通らないかも」

「日々あのイケメン担当編集者を見慣れているんだから、芸能人相手にびびってんじゃないわよ」

「木ノ瀬くんとは次元が違うよ」

「イケメンなのは同じでしょ。ほら、肩の力をぬいて。これから美味しい食事するんだから」

 友人は私の肩をぽん、とたたいた。


 普通に食事をして彼らと別れ、これからまだ仕事だという友人とも別れて私は一人でぶらぶら歩く。

 男の色気満載な半面「子犬のような瞳」の持ち主でもある彼はやっぱりとても素敵で、気さくに話もできて食事も美味しかった。

 おかしい……もし彼と食事をすることになったら間違いなく浮き足だって何も食べられないって思っていたのに。そんな妄想をして一人できゃああと顔を赤くしていたのに。

 むしろ木ノ瀬くんを典くんと呼ぶときのほうが私は緊張しているし、彼に「蒼葉先生」って呼ばれるほうが彼に「瀬戸さん」と呼ばれるよりどきっとする。そして抱きしめられたことを忘れようとしているのにいまだに忘れられない。


 私は妄想が現実になって嬉しいはずなのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ