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How About You  作者: 春隣 豆吉
Main Part
11/22

Chattanooga Choo Choo:前編

 木ノ瀬くんに抱きしめられた日から1ヶ月。まるであの日が幻だったかのように私たちはいつもどおりの作家と編集者の間柄だ。

 私のほうは“これからどう接していけば”とちょっと悩んでしまったが、あれから打ち合わせに現れた木ノ瀬くんはいつものソツのない彼で、私は拍子抜けしたと同時にホッとしたのだった。

 私のほうもこのまま忘れよう……たとえ腕の中が安心できてよかったとちょっとだけ思ったとしても。


 今日は木ノ瀬くんの様子が変だ。ソツがないのはいつもと変わらないんだけど、原稿を読んでいるとき以外は考え事をしているような感じがする。

 私はお茶の準備をしながら、そんな彼の様子をこっそり見る。いつもならつかないため息までついちゃって……もしかして恋でもしてるのか?

 だとしたら木ノ瀬くんがため息つくほど考える相手ってどんな人なんだろう。

「……先生。さっきから視線を感じているのですが、僕の顔に何かついてますか?」

「へっ?き、気のせいだよっ」

 どうやら私は木ノ瀬くんを観察しすぎていたらしい。彼の怪訝そうな表情を目にして私は慌ててしまう。とりあえずとぼけておこうかしら。

「先生、僕にごまかしは効きませんよ」

 だから教えてくださいね、と無言の圧力が私にかかった。


 降参したついでに木ノ瀬くんに緑茶を出す。お茶請けは彼が買ってきてくれた豆大福だ。

「……木ノ瀬くんが考え事をしてるふうに見えたし、珍しくため息ついてるからどうしたのかなと思って」

「先生の前ですいませんでした。なるべく表に出さないようにしていたんですけど、先生には分かってしまうんですね」

「分かるよ~。もう3年も一緒に仕事してるんだよ?」

 私がそう言うと、なぜか木ノ瀬くんは嬉しそうににっこり笑うとお茶を一口飲んだ。

「じゃあ、先生には白状します。実は今度、高校の同窓会があるんですよ」

「高校の同窓会……ああ、佑くんと再会した場所だね。確か全寮制の男子校よね」

 全寮制の男子校……きっと学生同士の結びつきも強いんだろうな~。そういえば、この間、漫画家の友達が趣味で作った薄い本をもらったけど結構面白かったわね……。いやいや腐れた発想はしちゃだめ、私。

「ええ。年1回同窓会が開かれるのですが、毎年大勢のOBが集まって賑やかで楽しいですよ。男ばっかりですけどね。で、いつもなら食事して近況を話す程度なんですけど……」

 ここで木ノ瀬くんが深いため息をついて、お茶を一口飲むと話を続けた。

「佑が何度目かの自称最高傑作のロボが出来たからお披露目したいと言い出しまして」

「へえ~、面白そうだね」

「……先生。佑が高校時代に作った自称最高傑作ロボは理科室の壁を黒こげにしたり、寮の部屋で爆発騒ぎを起こしたり、生徒会室に乱入して書類をばらまいたりしてましたよ」

  でも、そうやって佑くんのロボについて話す木ノ瀬くんはとても楽しそうだ。

「木ノ瀬くん。それでも楽しい高校生活だったんでしょ?私にはそう聞こえるよ」

「先生には分かっちゃうんですね。ええ、楽しかったんですよ。でも祐のフォローが大変だったのは事実です。今回も僕が佑をフォローするんだろうなあ、と思ったらちょっとため息が出てしまいました」

「誰かが異議を唱えるとかは?」

「うちの学生は、皆騒動慣れしてますから。それに元寮長が佑と騒ぐのが好きなので間違いなく発表会は決定事項です」

「……元寮長さん、どんだけ権力者」

「でも面倒見がよくて豪快でいい人なので、今でも慕われているんですよ。それに元生徒会長や元副寮長がやりすぎると怖いのを2人とも知っているので、そこは自重してくれるかと」

「元生徒会長さんと元副寮長さんって、怖いの?」

「ええ、そりゃもう。僕は怒られたことはありませんが、佑はよくおびえてましたね」

 そう言って木ノ瀬くんは懐かしそうな顔をした。

 全寮制の男子校で繰り広げられる様々な騒動……某名作少女マンガを思い出す。もしくは友人の薄い本のもとになってる乙女ゲーム……少女マンガのほうは実際にあるかもしれないけど薄い本のほうはあったら大変よね。木ノ瀬くん、きっと高校生の頃なんて可愛い顔してたんだろうし……。


「……先生。なにかろくでもない妄想してません?」

「え。してないわよお~。木ノ瀬くん、楽しんでおいでよね。今年は今日が最後の打合せだから、次に会うのは来年だね」

「そうですね。あ、そうだ先生」

「ん、なに?」

「来年から、僕も竹倉みたいに“蒼葉先生”って呼びますから、僕のことも下の名前で呼んでくださいね」

「へっ?!なんで急に」

「竹倉より僕のほうが先生の担当になって長いのに、いつまでも名字呼びなんてどうなんでしょうか。それに佑なんて部外者なのに先生のこと名前で呼んでるし」

 そう言うと、木ノ瀬くんはまた私の罪悪感をつつく寂しそうな顔をした。

「いやそれは、佑くんが名前で呼ばないと返事しないからで……わ、わかったよ。努力するよ」

「先生、期待してます」

 なんか来年、私の前に高いハードルが立った気がする……。

次回、木ノ瀬くん視点で同窓会の予定です。

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