第20話「方舟」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/02/23 次回予告を追記。
オペレーターは、眠い目を擦りながら、レーダーが捉える目標の行方を見守っていた。
指令を受けた際は、歴史的瞬間に立ち会えるかも知れないという高揚感で、真剣に監視し出来ていたのだが、4時間が経過した辺りから集中力が切れ始め、8時間を過ぎると「何故、交代要員を申請しなかったのか?」と、自分を責めるようになっていた。
オペレーターは、肩肘をついてモニタを眺め、目標となっている赤い点を眼で追う。
こいつが着くまで早くても、あと10時間ってとこか?
あ~あ、こんな事なら、3交代制にって言えば良かった。
そうすりゃ、俺の持ち分は7時間程度だったんだ。
それで最後の番を選べば、良かったんだよ。
何が嬉しくて、20時間も眺めてなきゃいけねーんだ。
歴史的瞬間は、見たかったけどさ……。
辛いわー、早く帰って、寝てぇーわー。
どうせ上層部は、1時間前辺りに来んだろうなー。
「予定時刻まで仮眠……して、バレたら不味いってレベルじゃねーな」
大きな欠伸と共に、大きな溜息を吐いた。
「もっと、速く飛べよ」
今のオペレーターに許された事は、目標相手を愚痴って、頭を掻きむしるくらいだった。
到着予定時刻の20分前になって漸く、ゾロゾロとオペレーターの居る司令室に、イマジニアの閣僚たちが入って来た。
「どうだ? 新しいレーダーの調子は? 正確な位置を捉えられているか?」
何が「どうだ?」だよ、20分前なんかに来やがって、いい気なもんだ。
オペレーターは、心の内とは違う言葉で、それに答える。
「はい、このまま速度を維持するのであれば、あと数分でウルルへ到着すると思われます」
それを聞いたイマジニア大統領ディンガーは、厭らしく笑い、ワイングラスを天に掲げる。
「ムーンリット(ヴァンパイア)も、愚かなるサード(第三世界の人間)も、怠惰な属国(イマジニア植民地)も、増え過ぎた。誤った思想、誤った種族、その存在が多岐に分かれ過ぎた為に、誤った世界へ向かっている。最早、それを一握りのイマジニアン(本国に住むエリート)が支配するのは、オーバーワークだ。我々イマジニアンが、否、神に選ばれしトータルエクリプスが、清浄な世界へ導かなければならない! いよいよだ、諸君! いよいよ、我々の望む世界となる! このイマジニア本国が、第二の方舟となるのだ!」
そう言って、掲げたグラスを口へ運び、一気に飲み干すと、ディンガーはレーダーを眺め、その移動する赤い点がエアーズロックに着くのを待った。
大人しく女を渡しておれば、そんな労せずに済んだものを。
まぁ、それでも、
アレスター、お前の運命は変わらんがな!
一方、アレスターの城に残されたクレアたちも、アレスターの移動を見守っていた。
「これってアレ? 私たちを追ったっていう?」
「そうだよ」
アルベルトのAIから渡されたローブによって、妖気も、飛行物体としても、通常のレーダーでは捉える事が出来ない、しかし、レオンとクレアを追った『臭いによる追跡レーダー』なら、他国に知られること無く、見守る事が出来る。
執務室に在る巨大モニタには、アルベルトの姿と世界地図が映し出され、赤い点がエアーズロックを目指し移動している。
赤い点がエアーズロックと重なった数分後、緊急警報が鳴り響く。
「な、なに? 何か有ったの?」
「今、第三世界で核が使用された」
「え? ヴァンパイア用の?」
「どちらともだ。ヴァンパイア用と水爆が同時に使用された」
「レオンは? アレスターは?」
アルベルトのAIは、無言のまま首を振る。
「そ、そんな……」
「次は、此処が危ない。バウアー、クレアを連れて研究所へ」
「解りました。クレアさん、急ぎましょう」
その時、大きな音を発てて、執務室の扉が開いた。
その扉を開けた者を見て、アルベルトのAIが目を見開く。
「何故、君が此処に居る? アレスター」
「君に1つ、聞き忘れた事があってね。行くのを止めたんだよ」
「レオン!」
その後ろには、レオンの姿も在った。
「何を聞きたい?」
「もしもだ、もしも、鷹也が居ない、そして、その家族、クレアも居なくなったら……お前は、どうするんだ?」
その問い掛けを聞いて、アルベルトのAIは鼻で笑う。
「そんな事を聞く為に、行くのを止めたのか?」
「あぁ、そうだ」
「何もしないさ。忘れたのかい? 僕は、世界に干渉してはイケナイ存在なんだよ」
「そうだ、お前が世界へ干渉しないように、アルベルトがプログラムを組んでいる筈なんだ。恐らくそれは、今も有効な筈だ」
「何が、言いたい?」
「グレーゾーン……この言葉に、引っ掛かったんだよ」
「何を引っ掛かる事が在るんだ?」
「出来る出来ないの返事で良い筈なのに、グレーゾーンと敢えて答えた」
「敢えて? 嫌な言い方をするね。正確に答えただけなんだが?」
「依頼の言い方を変えれば、受ける可能性があるんじゃないのか?」
アルベルトのAIは、眉をひそめた。
「お前は、アルベルトのアルゴリズムを掻い潜って、誘導してる」
「疑心暗鬼も甚だしい。僕がそんなことして、何になるんだ」
「理由は解らん、自我でも目覚めたか?」
「話にならない」
「だが、一つだけ確かな事が在る」
「何だ?」
「俺たちがエアーズロックに行く前に、爆弾は完成していたという事実だ」
「僕の知らないところで、完成させていたんだろう」
「発電という目的で、お前に依頼していたら?」
アルベルトのAIは黙り、アレスターを睨む。
「アルゴリズムを掻い潜る答えが、見つからないようだな」
読んでくれて、ありがとう。
その行動には、全て意味がある。
次回「Magicians Select」




