第12話「クレアの涙」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2017年12月26日 予告追記。
「レオン、君にコレを渡しておくよ」
AIがそう言うと、目の前にテーブルが現れ、その上には片手で掴めるほどの袋が2つ載っていた。
「白い袋が人間に成る薬と、黒い袋がヴァンパイアに戻る為の薬だ」
「ありがとうございます、助かります」
「クレア、僕の方でも鷹也を探してみるよ」
「ありがとう、お願いね」
「あと、二人とも無理はしないように」
「はい」
アルベルトのAIに別れを告げ、グリーンランドを後にした。
AIが用意してくれた自動操縦の超音速ジェットは、戦闘機かと疑うほどに速く、その割りに重力の影響は少なかった。
こうして、行くまでの苦労は何だったのかと思うほど、呆気なくアレスター城に着いた。
「こんなことなら、サッサと捕まっておくんだったわね」
「ですね」
ジェット機は、城門から数メートル離れた広場で垂直に着陸し、二人を降ろすと、再び垂直に上昇して、北方へと帰って行った。
目の前には、出迎えてくれた仲間が不機嫌そうな顔で腕を組み、仁王立ちしている。
「おい、どういうことだよ! 説明しろよ」
「済まなかったバウアー、随分待たせたみたいで」
レオンは今日までの経緯を簡潔に説明し、バウアーはアレスターに伝えた事と、まだ黙っている事を話した。
「アルベルトのAIか、俺も会ってみたいな」
「ホント、見た目もさることながら、話し方や考え方まで一緒でな、あれは最早、本物としか言えん。久しぶりに緊張したよ」
「そんなにか?」
「あぁ、なんせ俺は、終始敬語だったんだからな」
情報交換を終えたバウアーは、ブツブツと何やら挨拶の練習をしているらしきクレアに声を掛ける。
「さて、クレアさん。アレスター王が執務室で待っているので、案内しますよ」
「そ、そうね」
城門を潜ると、立派な庭園が広がっており、居館までの道沿いには、数え切れないほどの薔薇が続いている。
「一般的なヴァンパイアは、太陽の恩恵を受ける花を好んだりはしないのですが、アレスターは違いましてね。美しい物は、月夜でも美しいって、こうして庭の手入れをさせているんですよって、まだ挨拶の練習してるんですか?」
「だって、ウォレフ以外の王様に会った事ないんですもん」
「そんなに気にしなくても、アレスターは気さくな王ですよ」
「え? どうして、レオンが知ってるの?」
「諜報活動で、アレスターの配下だった時期があったんですよ」
「あぁ、だから亡命の受け入れが、あんなに早かったのね」
レオンが交渉したその日に、了承が出たのである。
そうこう話している内に、執務室に着き、レオンは扉をノックした。
「入れ」
中に入ると、長い机の先にアレスターが座っている。
懐かしい顔が入って来たのを見るなり、アレスターは立ち上がり近づいて、レオンと握手を交わした。
「久しぶりだな、レオン」
「ご無沙汰しております、陛下」
「陛下はよしてくれよ、昔みたいに呼び捨てで構わん」
そう言った後、アレスターはレオンの背後で下を向き、ブツブツと挨拶の練習をしているらしき女性を見つける。
「堅苦しい挨拶は要りませんよ、お嬢さん」
そう言われたクレアは、恥ずかしそうに顔を上げた。
「もう、お嬢さんと呼ばれる歳では無いんですが……」
そう言いながら、アレスターへ手を差し出そうとしたのだが、急にその手を引いてしまう。
アレスターは、それを見て、どうしたことかと戸惑い、小首を傾げた。
再び、クレアの時間が動き出した時、最初に動いたのは手では無く、瞳から流れた一筋の涙だった。
クレアは、腰に付けていた祖父の形見の銃に手を掛けると、素早く抜いて構えた。
「アンタの顔を忘れた事は、一度も無かったわ!」
クレアは、震えながらアレスターに銃口を向ける。
アレスターは、何が起こったか解らず、レオンに問う。
「どういうことだ? 亡命ではなく、暗殺に来たのか?」
レオンが慌てて、中に割って入った。
「クレアさん! どうしたんですか?」
「こいつが、このヴァンパイアが、アタシのお父さんとお母さんを喰い殺したのよ!」
読んでくれて、ありがとう。
血で染まり、震える少女を見ながら、アレスターは嘆いた。
「こんな時代だ、せめて一緒に逝かせてやるか……」
次回「No Pain, No Gain.」




