第6話「アレスター」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2017年12月9日 次回予告追記。
モニタに映る男は、傲慢を絵に描いたような面構えで、話し方もその顔に似合って高圧的なものだった。
使われていた言葉は敬語であったものの、伝わってくる印象は、恫喝そのものだった。
「よく考えた上で、お返事を頂きたい。忘れないで欲しい、我々はエクリプスと共にあることを」
そう付け加えて、イマジニアの大統領を名乗る男ディンガーは、一方的に通信回線を落とした。
「交渉と言うよりは、脅迫だな」
そうボヤいたこの男、名をアレスターと言い、かつて、王不在の時代に摂政をしていたバルバドの息子で、現ヴァンパイア王である。
現状では、ヴァンパイア界最強であるものの、それはエクリプスによって、強いヴァンパイアが一掃されてしまった結果であって、歴代で比べれば中の上と言った存在だった。
だが、最早、ヴァンパイアには、アレスターしか居らず、過度な期待に押し潰されそうになるも、この12年間、自分の出来る限りのことを遣って、ヴァンパイアの領土を守って来た。
ホークアイからの亡命願いに応じて受け入れたのも、国力を上げる手段の一つだった。
アレスターは、交渉と言う名の脅迫に、頭を悩ませる。
ディンガーの話を要約すると『本日以降、亡命してきた人間の女を全て引き渡せ、従わない場合は宣戦布告とみなし攻撃する』というもの。
「先制攻撃してくるのに、こちらが仕掛けるような物言い……全く、人の政治家という生物は、詰まらない拘りが有るのだな」
すでに回線の切れた相手に、そう皮肉った。
さて、気になるのは、女だけという点だ。
この星の6割を治めるイマジニアの男女比が、偏ってるとは思えない。
その中に、重要な人物でも居るのか?
だったら、その一人を指名するだけで良いのではないか?
人質にされる事を気にしてるのか?
否、違うな、それなら、女全てを人質にすれば良い。
特定しないのは、奪還作戦の際に、複数と個人ではコチラの守りに差を与える為か?
生きたままでの、引き渡しを望んでいると考えるべきだな。
渡せば、本当に攻めて来ないのだろうか?
逆に、その女を渡さない方が、攻めては来ないのではないか?
どちらにせよ、一度、その女と話してみる必要が有りそうだな。
あと気になるのは、エクリプスか……。
そして、数年前から気にしていた、大きな疑問が脳裏を過ぎる。
「エクリプス……本当に生きているのか?」
人間界でエクリプスは、人間でキリストのような神の遣いだと信じられている。
だが、妖気を感じられるヴァンパイア側では、ラズウェルド戦でエクリプスが妖気を発したことから、ヴァンパイアであることは明白だった。
エクリプスが人であろうとなかろうと、ヴァンパイア側にとって、問題は無い。
問題なのは、イマジニアと共にある、つまりは自分達の敵である点だ。
アレスターは、12年前に起こった争いをアルバムをめくるように思い出して行く。
あの時、確認できた大きな妖気は、確か3つ。
2つはメイヲール級、あと1つは他よりも……少し小さかったか?
現れた直後に、一番小さかった筈の妖気がメイヲールを超え、その瞬間に、メイヲール級の一匹が消えた。
恐らく、この時消えた妖気がメイヲールで、退治したのがエクリプスだろう。
イマジニアの調査報告を見る限り、メイヲールの死体が見つかった事から、まず、ここまでは間違いないだろう。
ヴァンパイアが、そして、レーダーが捉えた大きな妖気は3つ在り、一番大きかった妖気は、かつてこの星に君臨した山羊の魔人で、その次ぎに大きな数値を見せたのは、その魔人の角が姿を変えた剣だった。
この時、その2つが余りにも大き過ぎた為、その影に隠れるようになった第3の妖気、鷹也に注目する者は、人間界には居なかった。
それは、最新の軍事レーダーを持つイマジニアでさえ同様で、大きさや位置の計測は出来ても、区別までは付けられず、後の調査による公開情報では、第1の妖気をメイヲール1、第2の妖気をメイヲール2、第3の妖気をウォレフ、もしくはグリンウェルではなかったのかと、あくまで結果から導き出された予測でしか無かった。(非公式の見解では、第3妖気は鷹也となっている)
アレスターは、さらに記憶を辿る。
その後、一匹が逃げ、それをエクリプスが追った?
で、あの異常な高温現象だ。
そして、その直後、二匹とも居なくなった。
あの戦いでエクリプスが死んだのなら、この12年間、エクリプスが討伐を行わなかった説明が付く。
しかし、エクリプスにはカイルを討伐した際、手に入れたと思われるアルベルトのローブが有る。
高温現象が1800万度という異常な温度だったが、あのローブならば、水爆の4億度に耐えた実績がある。
あの程度では、燃え尽きない……つまりは、あれでは死なないということになる。
となると、イマジニアに居るエクリプスは本物ということに……。
あと、気になるのがメイヲールの死体に残った、胸を穿った痕。
あれは、カイルの技ではないのか?
カイルが、エクリプス?
いやいや、それは幾ら何でも、考え過ぎだな。
カイルなら、隠れる必要が無い。
あの争いから、一度もあのレベルの妖気を感じた事が無い。
そもそも、共存が目的だったから、闘う必要が無いのなら、それも頷けるが……イマイチ納得が出来ん。
アレスターは窓を開け、外を、否、今後の行く末を眺めた。
「さて、どうしたものか?」
一方その頃、同じ考えをする者が、別の場所に居た。
あの時、奴等は確かに「逮捕する」と言った。
国家反逆罪などと、重罪であるにも関わらずだ。
今の奴等なら、逃亡に見せかけて射殺することも出来た筈だ。
実際、逃げても後方から、銃声は聞こえなかった。
つまり、目的は捕まえることであり、暗殺ではない。
捕まえなければならない理由とは何だ?
鷹也さんが、現れた時の為の人質か?
否、12年も経った今、そんな事を気にする奴は居ないだろう。
エクリプスが影武者だと公言されては困るのなら、暗殺を選択するな。
一体、この人に、何の価値が有るんだ?
幾ら考えを巡らせても答えは出ず、そして、もう一つの疑問も暗礁に乗り上げていた。
何故、正確な居所がバレたんだ?
拠点は、毎回変えているし、第一、夕食の為に選んだ店でだ。
俺の気付かないスパイが居たのか?
否、そうなるとバウアーって事になる。
あんな単純な奴が、スパイなんて出来る訳がない。
「ん? なんだ? 何か可笑しいことでもあったのか?」
バウアーにそう言われ、思わず噴出すレオンだった。
読んでくださって、ありがとう。
「リープより、リワインドするか」
次回「Rewind」




