第20話「LunarEclipse」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
二人の使徒がヴァンパイア討伐のため、その出現場所である城に着いた頃。
その城の中では、ヴァンパイアの覇権を争う闘いが、終わりを迎えようとしていた。
二人の使徒は上空で待機し、空中に作り出したスクリーンで、城内での闘いを観戦することにした。
メイヲールに握り潰される愛弟子へ、グレイスは心の中で言葉を贈る。
グリンウェル、お前は最期まで、良い役者だったよ。
お前の恨みは、俺達が代わりに果たしてやる。
「親父が言っていたのは、メイヲールだったのかよ……アイツ程度に、二人も要らないだろ?」
「おい、いい加減にしとけよ。親父様も見てるんだからな」
メイヲールの咆哮は大気を震わせ、その圧倒的な妖気に恐怖を感じた鷹也は、一気に勝負を決めるべく、分身を開始する。
その様子を観戦していたフェリオスは、顎に手をやり、小首を傾げた。
「ん? 動いて停まって、動いて停まって……何をしてるんだ?」
全く、どんな動体視力をしてやがるんだよ、お前は。
俺でさえ、辛うじて分身しているように見えると言うのに……。
グレイスは仕方なく、その技の名を教える。
「分身だよ」
「分身? あの動いて停まっての繰り返しがか?」
「あぁ、停止する場所が多いほど残像になり、分身しているように見える」
「へぇー。お前……分身に見えるのか?」
「馬鹿にするな! 本体は追える! チョットな、チョットだけ、分身に見えるってだけだからな!」
「解った、解ったよ」
口ではそう言っているが、フェリオスの口元は笑っていて、グレイスをイラつかせる。
メイヲールの放った衝撃波で、鷹也の分身は一つ残らず姿を消し、本体である鷹也も例外なく弾き飛ばされた。
「矢張りな。そんな子供騙しに、誰が引っ掛かるんだよ」
カイルが分身した話をしなくて、ホント、良かったよ!
コイツのことだから「お前、あれ喰らったのか?」って、馬鹿にしたに違いない!
闘いは、メイヲール優勢に進んでいるものの、一瞬の隙を突いて、ウォレフがメイヲールのアキレス腱を切り裂き、苦悶の叫び声をあげながら、メイヲールは倒れた。
その胸に駆け上がったウォレフは、心臓目掛け、爪を突き刺す。
「おお、犬の大将やるねー」
ウォレフの爪が心臓に到達するよりも早く、メイヲールの両手で挟まれ、ウォレフの血飛沫が舞った。
「惜しいぃぃぃ~」
フェリオスは、観客となって楽しんでいた。
だが、それでも勝者予想は、揺ぎが無いようで。
「メイヲールは、俺に遣らせろよ」
「解ってるよ。親父の前で、譲るって言ったろ?」
父から二人での派遣を言い渡されたが、フェリオスは「俺一人で十分です」と、父に進言したほどだった。
それをグレイスが「お前に譲ってやるから」と、宥めたのである。
それにしても、何故、二人なんだ?
メイヲール程度なら、例え10匹居ようとも、フェリオスの言う通り、俺でもフェリオスでも十分だ。
もしかして……親父の言っていた「討伐すべきヴァンパイアが現れる」とは、メイヲールでは無いのか?
――そうでもないさ、アルベルトに似た資質も感じたからな。
不意に、カイルの言葉が過ぎり、思いもしない言葉が自分の口から出る。
「なぁ、どっちが勝つと思う?」
フェリオスは、何を言っているんだとばかりに鼻で笑い、その解答をする。
「メイヲールに決まっている。腐ってもヤツは、親父の子だぞ」
グレイスも頭では、メイヲールが勝つだろうとは思ったのだが、つい賭けを提案してしまう。
「なら、賭けないか?」
フェリオスは、賭けにならない提案をしてきたグレイスに、気でも狂れたのかと、疑いの眼差しを向ける。
「おいおい、お前はあのドラキュラに賭けるつもりなのか? 確かに、ドラキュラとしては、例のないほどに強いのは認める。だがな、それでも、メイヲールの半分にも満たない。アイツの持っている剣は素晴らしいが、剣に振り回されている。もし、メイヲールにあの剣を奪われれば、即、終了だぞ」
「あぁ、それでも構わない。俺は、あのドラキュラに賭ける」
「賭けるのはいいが……何を賭ける?」
「アイツの剣で、どうだ?」
「お前も目を付けてたのかよ! 解った、じゃぁ俺は、メイヲールに賭けよう」
さぁ~て、見せてもらおうか、資質とやらを。
グレイスは、すでにカイル戦で満足していた。
最早、あれ以上の興奮は得られないだろうというほどに。
仮に、鷹也がメイヲールに勝ったとしても、フェリオスに譲るつもりでいたくらいだった。
だが、期待も空しく、メイヲールの角が鷹也を貫いた。
「勝負あったな」
ガッカリだな。
お前にもだが、そんなお前に資質が在ると言ったカイルにもな。
瀕死で横たわる鷹也へ、メイヲールの止めの一撃が放たれた。
しかし、間一髪、鷹也はその拳を掻い潜り、メイヲールの手首に歯を立てる。
「おいおい、噛み付いたよ。ガキの喧嘩かよ」
そうグレイスは罵ったのだが、フェリオスは真剣な面持ちになる。
「どうした?」
「この賭け、お前の勝ちかもしれんな……」
「あのドラキュラは、虫の息なのにか?」
「お前には、見えなかったのか?」
「おいおい、また馬鹿にするのか?」
「否、今度ばかりは、見えなくても無理は無い。もしかすると親父は、俺をドラキュラに、お前をメイヲールに当てるつもりだったのかもしれんな。とは言え、それでも俺達の敵ではないんだがな」
フェリオスのターゲットは、いつの間にかメイヲールではなく、鷹也になっていた。
「おそらく、もうメイヲールの攻撃は当たらない」
「今の……当たったんじゃないのか?」
「否、当たっちゃいない。当たった感触があるだけに、メイヲールは気味が悪いだろうな」
「当たった感触あるのに、当たってない? どういうことなんだ? 説明しろよ」
「俺に言わせれば、こっちの方が分身といえる」
「分身? ただ避けているだけがか?」
「あぁそうだ。ヤツの分身は、分身に見せるために、妖気をそこに置いて移動することで、本当にそこに居るように見せかけているのだろ? 今、ヤツが遣っている回避行動は、それの応用さ。余りにも避けるのがギリギリ過ぎて、妖気の塊が空気に溶ける前に、当たった感触を与えている」
「その一点だけで、あのドラキュラが勝つと?」
「技自体に、そこまでの評価は無い。だが、メイヲール相手に、そんな芸当が出来ることに価値が在る。さて、そろそろ終わりそうだな、行くとするか?」
読んでくださって、ありがとう。
父と子と聖霊の御名において、お前を葬る。
次回「神は乗り越えられない試練を与えない」




