第11話「ミスキャスト」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
カイルが訓練へと出掛けてから、20分後。
執事であるエッカルトの注意を引くために、グレイスが門を叩くところから、この舞台の幕が上がる。
グレイスは、門を数回叩いた後、近くの木陰に身を潜めた。
案の定、何事かとエッカルトが顔を出したところで、グレイスは口笛を鳴らし、グリンウェルへ合図を送る。
その合図を受け、闇に融けるような黒装束を身に纏い、黒い仮面で顔を隠したグリンウェルが、アルベルトの眠る部屋へ、窓を割って侵入する。
飛び込んだ勢いそのままに、アルベルトの眠るベビーベッドまで転がって近づき、銀製のナイフを振り上げた。
「死ね!」
しかし、その先に寝ている筈のアルベルトの姿が無い。
「ど、何処だ?」
部屋を見渡してみたが、アルベルトは見つからなかった。
そうこうしている内に、窓ガラスの割れる音を聞いたエッカルトが部屋の扉を開いて現れた。
「なるほど、坊ちゃんがアルベルト様を守れと仰った理由は、お前か賊め!」
そう言い放ったエッカルトの背には、アルベルトが在った。
「な、なんで?」
アルベルト背負い守る姿勢は、グレイスの話とは全く異なることに、思わず声が出た。
「その声? グリンウェルか?」
最早、隠しても意味が無いと、黒い仮面を外す。
「貴方は、カイルを王にするために、アルベルトが邪魔だったんじゃないのですか?」
「何故それを……君の言う通り、確かにそう思っていたことも在った。今でも、坊ちゃんを王にしたい気持ちは変わらない。だがそれ以上に、坊ちゃんの理想を尊重する」
「ぼ、僕は、カイルが王に成って欲しいんですよ。あ、貴方が出来ないなら、僕がやります。そいつを渡してください」
「君の気持は解るが、もう諦めなさい。それに坊ちゃんは約束してくれたよ。もし、アルベルト様にその資格が無ければ、自分が即位してくださると」
"資格"というキーワードが、グリンウェルの逆鱗に触れる。
「最初から資格なんか無いじゃないか! アルベルトの母は、僕の母さんだろ! 王妃の子じゃない!」
「何故それを知っている? エミリアに聞いたのか?」
「本当は貴方だって、資格なんて無いって、そう思ってるんでしょ?」
「帰りなさい。そして忘れなさい。でなければ、私は君を殺さなくてはいけない」
警告のつもりで、エッカルトは妖気を最大限まで上げる。
それに誰よりも早く反応したのは、カイルだった。
「ん? 何かあったか? 念のため戻るか……」
急いで戻ってくるカイルに、グレイスが気付いた。
「この距離で気付いたのか? チッ、忌々しいクソガキめ!」
グレイスはアルベルトの寝室へと飛び込み、グリンウェルとエッカルトの間に割って入った。
「なんだ、お前は?」
グレイスは、エッカルトの質問に答えず、グリンウェルに指示を出す。
「カイルが戻って来る! グリンウェル、ここは俺に任せて、君は一旦引け!」
「でも……」
「では、ここで無駄に死ぬか? 後日のチャンスに掛けるか? 好きに選べ」
そう言われてしまうと、グリンウェルの選択肢は一つしかなく、黙って従い窓から逃げた。
なんだコイツは?
妖気は無いが、翼があるからヴァンパイアには違いない?
危険な感じはする……先手必勝と行くか?
エッカルトは一足飛びでグレイスへと向かい、後ろを向いたままの首を手刀で刎ねに行く。
「悪いが、お前と遊んでる暇は無い! フリィィィーーーズ!」
グレイスは振り返ることなく、エッカルトを停止させる。
そして、凍ったエッカルトに近づくと、アルベルトを背から外し、ベビーベッドに寝かせる。
さらに、エッカルトをベッドの前まで運ぶと、厭らしい笑みを浮かべながら、動けないエッカルトに話しかけた。
「カイルへの忠誠を尽くすお前は、俺の舞台に必要の無い役だ。だが裏を返せば、その忠誠心をカイルだけに注げば、どう変わるかな? イレイス(消えろ)!」
グレイスは、エッカルトの記憶から自分たちと、アルベルトへの忠誠を消した。
そして、グレイスは窓を蹴って、外へと飛び出し、部屋が見える高さまで上昇する。
「そろそろだな、メルト(融けろ)!」
その呪文で、再びエッカルトは動きだした。
「なんだ? 私は何をしていたんだ?」
ここ数分の記憶が消されていたため、何故、自分が此処に居るのかが解らなくなっていた。
ただ、一つ気付いたのは、自分が妖気を全開にしていることだった。
わ、私は、暗殺を決意したのか?
い、今なら、坊ちゃんの居ない今なら……。
そこへ慌てて、カイルが部屋に入って来た。
カイルの目に映ったのは、エッカルトがアルベルトを襲う姿だった。
「エッカルト! 何をしている?」
見られたことで、さらに動揺したエッカルトは、引くに引けない状況になり、心臓目掛けて手刀を振り下ろした。
「この子さえ居なければ、この妾の子さえ居なければ!」
「止めろ! 私との約束を忘れたのか!」
"約束"その言葉で、エッカルトは我に返り思い出す、カイルとの誓いを。
そう、アルベルトへの忠誠は消されていたものの、カイルとの約束までは消す範囲ではなかったのだ。
だが、心臓を狙った右の手刀は、もう止められない。
ならばと、強引にベッドに掛けていた左手を横へ引っ張った。
辛うじて、手刀はアルベルトの頭上に刺さったが、エッカルトの動きを止めようとしたカイルの右腕は、その左胸を貫いていた。
絶命する間際、カイルの顔にエレーナが重なる。
「申し訳ありません、お嬢様……お約束は守れそうに御座いません」
「エッカルト! 何故だ! 何故、私との約束を破った!」
この時、カイルは初めて、悲しむ為の涙を流した。
読んでくれて、ありがとう。
問題は、カイルやアルベルトが関わっている事について、どう判断されるかだ。
グレイスが、ここまで恐れるのには理由が在った。
次回「Interlude」




